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「小説 雨と水玉(仮題)(13)」/美智子さんの近代 ”美し過ぎて”

(13)美し過ぎて

啓一は美智子が現れた瞬間から雷に打たれたようだった。
いつもは少し幼さの残る妹のような親しみやすい感覚がいくらかあったが、今日の彼女は大人への入り口に立った女性の美しさが身体全体を覆っていた。
愛らしく優しい顔つきとほのかな色香がそこはかと立ち登っていた。
それはアイボリーの白地に水玉のワンピースに包まれたせいに違いなかった。
少し季節が早いのかもしれない、啓一はシャツの上に1枚羽織っていたくらいだった。
しかし、店で向かい合った時春の明るい日がワンピース姿の彼女にぴたりと寄り添った。
啓一はこれまで見たこともない眩しさいっぱいの美しさに電流が走った。
何気ない話を積み重ねているうちはまだ良かったが問題の核心にはとても近づけそうになかった。
時間がしびれを加速するように働いた。
言葉が喉元まで上がってくることを拒否しだした。
神経過敏が彼女の口から出てくる言葉までを胸に刺さるようにしてしまった。
 
美智子は自分の部屋に戻り疲れた体を横たえていた。
たか子が遠慮も無く入って来て、
「どうしたの、お姉ちゃん、早かったやん」
「うん」
「あんまりうまくいかへんかった?」
「うん」
「そうかあ、ごっつい可愛かったけどなあ。なんでやろな?」
「うん、わたし、なんであかんのやろ?」
「そんなことないて。お姉ちゃん、性格もいいし、しっかりしているし、今日なんかめっちゃ可愛かったで。気、落としたらあかんよ。お姉ちゃん、絶対仕合せになれる、間違いないから。な、元気出して。さっきな、美味しいケーキ買ってきたから、一緒に食べよ、な、そうしよ」
こういうときのたか子はとてもやさしい。コーヒーの香りと時間が少しづつ気持ちを落ち着かせていった。
 
翌日曜は、たか子と一緒にショッピングに出かけた、
最初たか子が気を使ってリラックスさせようとしてくれていたが、昼食を食べお茶を飲み、無駄話をしているうちにいつもの調子が戻ってきた。
昨日はお姉ちゃん、悪い癖で賢ぶって変なこと言うたんちゃう、と茶化されたが、そうかもしれないと思ったけれど、適当に切り返しておいた。
たか子が、
「でも、なんかおかしなことあって取返しつかへんようなことあったようではないから、また連絡が来るんと違うかなあ。そう思うけど」
「そうかなあ、わたし自分ではわからへん」
「わたしは大丈夫やと思うけどな。水玉には気付いてなかったんやねえ。
でも向こうの人もやっぱりちょっと変わってるねえ、お姉ちゃんの見込み通りやわ」
「ふ、ふ、ふ、ほんまやわ(笑)」
「は、は、は(笑)
でも、あとはお姉ちゃん自身の気持ちやわね
まあ、お姉ちゃんがもうええわって言うんならそうしたらいいと思うよ、まあ、それも含めてよく考える時間もらった思えばいいんちゃう?」
「うん、そうかもね」
少しいろんなことを考えてみようかと思っていたが、かねて胸に有ったことがふと浮かんできて、
「わたしな、学生最後の年やから、気入れて勉強しようかと思う。宿題もいっぱいくれる先生やから、ちょうどいいかもしれない。」
「またお姉ちゃんのどうつながってるかわからへん話がでた!」
「ふ、ふ、ふ、ええやないそんなん(笑)」
「は、は、は、は(笑)」

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