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腹膜透析をもっと一般的にしたい

内科医、といいつつ私のメインの仕事は透析です。透析には「血液透析」と「腹膜透析」があって、今は血液透析がほとんどを占めているのですが、個人的には腹膜透析もけっこういいじゃないかと思っています。ので、もっと一般的になればいいのにな、と考えています。

医療従事者以外の方むけに、ちょっとだけ説明させてください。

腎臓がなんらかの原因で悪くなると、食事療法や投薬で治療をするのですが、ある程度以上進行してしまうとそれではコントロールができなくなります。そこで必要になるのが「腎代替療法」です。
腎代替療法は透析と移植に分かれ、透析が血液透析と腹膜透析、移植が献腎移植と生体腎移植に分かれます。
移植はどちらかというと腎臓外科や泌尿器科の先生がメインなので、ここでは割愛します。
血液透析は、全透析患者のうち95%くらいを占めます。一般的にイメージされている「透析」です。準備としては、「シャント」といわれる太い血管を作る手術をしておきます。血液透析を行うときは、シャントに2か所針を刺し、1本目の針から血液を吸い取り、機械できれいにし、もう1本の針からきれいになった血液を体に戻す治療です。だいたい週3回、1回4時間かかり、その間は透析クリニックや病院で過ごします(針が刺さりっぱなしなので)。
腹膜透析は、残りの5%くらいです。準備としては、おなかのなかにチューブを植え込む手術をしておきます。腹膜透析をするときは、そのチューブを介して「腹膜透析液」をおなかのなかに入れます。それを3-4時間おなかのなかにいれておき、その間にいらないものは体から腹膜透析液に移動します。そのあと、いらないものがいっぱいになった腹膜透析液を、チューブを介して体の外にだします。おなかのなかに液が入っていてもとくに行動の制限はなく、出し入れするときに30分くらいずつかかります。昼に3-4時間おきに交換する方法と、夜に機械に勝手に入れ替えてもらう方法があります。自宅や職場で行うので、病院に行くのは月1回くらいです。使っているうちに、いらないものの腹膜透析液への移動がうまくいかなくなってきてしまうので、5-10年くらいで腹膜透析はお終いにし、血液透析に変える必要があります。

以上が透析療法の概要です。

それで、今は血液透析が圧倒的に主流です。理由としては、
・病院に頻回に行くのはたいへんだけど、行きさえすれば、透析室スタッフに治療をお任せできるので、安心できる
・やっている人が多いから(実際、知り合いがやっていて、という方も多いです)
が主なようです。
逆に、腹膜透析は、(もちろん積極的に導入している病院もあると思いますが)
・仕事で週3回病院に通うのがむり、かつ若いので自分で腹膜透析液の出し入れができる
という理由で導入されることが多いです。

ただ、私もそんなに豊富な腹膜透析の経験があるわけではないのですが、腹膜透析のよさもいっぱいあると思うんです。
・自分で腹膜透析液の出し入れするのはたいへんだけど、自分のことは自分で管理する、という感覚ができて生活に張り合いがでる(血液透析だと、透析で生かされている、透析をするためだけに生きている、というふうにおっしゃる患者さんもいます…)
・血液透析と違い、準備の手術が終われば針を刺されずに治療ができる
・通院回数が減るので、病気のためにとられる時間が短い
・通院回数が減るので、コロナなど感染リスクが低い
などなど。

正直なところ、私も含めて、医療従事者側の問題もあると思います。血液透析の経験は豊富でも、腹膜透析はあまり、という医者やスタッフも多い。
・血液透析だと、ちょっとしたトラブルならスタッフが判断し対応できるが、腹膜透析だと医者がすぐ呼ばれる
・慣れない仕事をすることによるスタッフのストレス
・他の病気になったとき、血液透析患者に対する治療法は確立されていても、腹膜透析患者は症例数が少なく、治療方針決定に困る
・(透析患者さんも全体的に高齢化がすすんでおり、)施設入所になった場合、血液透析は施設から送迎で透析クリニックに通えばいいが、腹膜透析は対応できない施設がほとんど
・高齢独居の高齢者でも、血液透析の場合は透析に送迎で通いつつ、非透析日は訪問看護にみてもらう、ということができるが、腹膜透析に対応できる訪問看護は多くない

などなど。

でもこれって、腹膜透析の問題というより、慣れの問題だと思うんです。腹膜透析が増えて、一般的な治療になって、どの病院でも、どの施設でも、どの訪問看護ステーションでも「この方は腹膜透析なんですね、じゃあこういうことに気をつけましょう」ってある程度ルーチンワークみたいにできれば、別になにも問題ないんじゃないかなと思います。

ので、「腹膜透析をもっと一般的にする」という夢に対して、私は大きいことはできませんが、透析が必要になった方に血液透析だけでなく腹膜透析のお話もして、選択肢をしっかり提示していこうと思っています。

#かなえたい夢

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