違和感を除けば完璧だよね―『リトル・マーメイド』感想
こんにちは、ダマシと申します。
今更ながら人種問題等で結構話題となっている、実写版『リトル・マーメイド』を見てきたので自分なりの感想を述べていきます。
具体的には、
①作品の感想
②黒人アリエルは実際どうだったの?
という2点をお話していこうと思います。
作品としての感想
まず初めに映像作品としての感想ですが…
すごく面白かった…。
確かに『美女と野獣』などで実写化の凄さは見てきましたけど、やっぱり『リトル・マーメイド』でも原作を基に違和感の無い内容に仕上げる能力は存分に発揮されてて改めてディズニーの凄さを見せつけられた気がします。
日本の制作会社も実写化の際は予算とか言い訳にせず気概だけでもこれくらい頑張って欲しいものです。でも岸辺露伴は面白かったよ。ありがとうNHK。
実写化としては大満足
何より素晴らしかったのは原作(アニメ版)より改変した点。
原作を改変するというのは一歩間違えればファンからの批評を買い、その作品の評価を大きく落とすこととなる実写化においてかなりリスキーな行為です。
しかし天下のディズニー、ちゃんとそこはわかって良改変を施しています。
例えば物語の冒頭は、アニメ版では海の中からスタートなのに対し実写版ではエリック王子の船のシーンから物語が始まります。
そこから望遠鏡を海に落としてしまい場面が切り替わり人魚たちの住む海の世界へ…というように私たち人間の世界のシーンから始まることで未知の世界へ入り込む感覚が大きくなっています。
他にもエリック王子に海の神の怒りを恐れ、海から遠ざけようとする義母を生やすことで、「子を思うがゆえ古い考えで縛り付ける親に反撥し、新しい世界を見たいと思っている」というアリエルとの共通点を作ったのも、エリック王子が「もう一人の主役」らしく感じられるよい改変だと私は思いました。
特に褒めたいのがエリック王子の執事であるグリムスビーの改変。
原作だととにかく生真面目で冗談の通じない人ってイメージですけど実写版ではしっかりエリック王子のよき理解者って感じなんですよ。
例えばエリック王子がアリエルと仲を深めていき街の案内をすることになるんですが、思い人(王子は声だけしか知らないが実際はアリエル)を探すため馬車が全て出払ってしまっていて、王子自身に外出禁止が言い渡されている場面でも「1台くらいならなんとかなるかもしれないですよ?」と用意してくれたり、王子がこっそり帰ってきたことがばれないようにアシストするなど間違いなくこの作品のMVPです。
しかも思い人がいるのにアリエルに心動かされ迷っている王子に対し「今の自分の心に従えばよいのです」とアドバイスを行ったり、アースラが化けた女性に(魔法によって)心奪われた際には「そんなの王子らしくありません!」とハッキリ言い切るんですから、「グリムスビー、お前…ッ!」ってずっとなって株が上がり続けます。
断言しましょう。この映画で最もファンを増やしたのはアリエルでもエリック王子でもセバスチャンでもありません、グリムスビーです。
こればっかりは文章で伝えるのも限界があるので是非お近くの映画館でそのイケメンっぷりを目に焼き付けてください。
他にも明るくて綺麗な海とカラフルで活気あふれる市場の様子、荒れ狂う海や静かな湖畔にリアリティや美しさを与える映像技術、オリジナルソングも含め魅力溢れる歌の数々、「家族」の描写をアニメ版より増やしたことでより深みと感動が加わったラストシーンなど見所がてんこ盛りです。
もし「なんか海外で問題になっているからな…」とか「アニメ版で話知ってるし…」と思って尻込みしている人でも大丈夫です。絶対に楽しめます。
実際そんな理由で鑑賞を見送ってきた私が言うので保証します。安心して海の世界へ飛び込みましょう。
唯一の懸念点
ただ個人的にやはり気になったのがアリエルです。もちろん黒人だから悪いとかそんなことを言うつもりは一切ありません。というよりも今作のアリエルを批難している人のほとんどがそうではないと思います。
じゃあ何がダメだったかというと、この映画が「実写映画」だったという点だと思っています。
実写化と見た目の問題
「実写映画」ということは原作が当然存在するわけであり、今作の場合は1989年のアニメ版がそれに該当します。
当然ながら実写化に求められる要素として、「キャラクターの再現度が高い」ことが挙げられます。
今作におけるアースラ様がまさにそれです。顔、声、演技、ちょっとした動作全てがそっくりでまるでアニメの画面から飛び出してきたかのような忠実さでした。
もちろんあれは奇跡のような一致っぷりですが、それでも観客は俳優がいかに「そのキャラクターっぽいか」に注目して映像を見ているのです。
対して今作のアリエルは白人(人魚に人種ってあるんでしょうか?)が黒人になるという、見た目という一番キャラクターっぽさが感じられる部分を変更してしまいました。
原作ファンからしてみればよほどの事情がない限りキャラクターの大きな設定変更はアニメや映画において御法度です。なにせ、「自分の好きなキャラの動く姿が見られる!」と思ったら、そこにいるのは別人に近いわけですから。特にビジュアル面はわかりやすくファンがつきやすいので変更はもっての外でしょう。
無論例外としてマンガキャラのような現実に存在しない、実現が難しい髪の色や髪型、特徴的な顔つきがある場合は変更しても仕方ないと認められることはあります。
ですがアリエルはどうでしょう?髪色は真っ赤ですがウイッグなどで十分再現は可能でしょう。ディズニーの技術力にかかればかなりクオリティの高く違和感のない色の髪を作れると思います。髪型も普通ですし、顔も現実味があります。無論、白人の女優の方を起用すれば肌の色の問題もクリアできます。
つまり端から見れば「アリエルは変える事情がないのに、なぜか見た目を変えられた」という状態となってしまったのです。
実際変わってしまった本当の理由はわかりません。製作サイドは「単純に歌のうまさで選んだ」と言っていますが、本当にもしもの話ですが人種的な面もあったのかもしれません。真相は闇の中です。
ただ本人の名誉のために言っておくと、アリエル役のハリー・ベイリーさんの演技はよかったと思います。そして何より、歌は惹きこまれるほど上手でした。
しかしその改変の結果、「こんなの今まで見てきたアリエルじゃねえ!」と原作との解釈違いを起こしてしまうファンが大量に出てしまったというのが、最も大きな問題だったのではないかと私は考えています。
そこから現在世間を騒がせている一部過激派によるポリコレ問題に繋がっていき、行きすぎたポリコレに対して不満を抱いている人の不満まで買ってしまったというのが私の考えですが、ポリコレ問題に関してはあくまでも本筋から逸れてしまうので割愛します。
重要なのは、アリエルという人気のあるディズニープリンセスを、他ならぬ原作のディズニーが改変してしまったという点です。
原作者という最も作品の設定を守らなければいけない立場の方々がこうした作品を作ると、今後ディズニーで実写化が行われる際「自分の好きな作品のキャラクターに変更が入ったりしないだろうか?」と不安要素を与えてしまいます。
そうしたファンを不安にさせてしまうことは夢と希望を重んじるディズニーにとって望ましくないものではないはずです。アリエルという多くのファンを持つキャラクターを扱う以上、やはり下手にアニメ版とは異なるテイストにするのは悪手だったと思います。
実際に劇場で見たアリエル
さてそんな物議を醸したアリエルが実際スクリーンで見てみるとどうだったのかというと、決して演技は悪くなく歌も素晴らしかったのですが、「文句なし」と言えるほどアリエルだったかと聞かれればそうではないと感じてしまいました。
例えばアリエルって声を奪われて喋れないというシーンが大半を占めているので、かなり表現力が求められるキャラクターだと私は思っています。それこそ、原作みたいに表情が豊かでなければ心境を観客に伝えられないので、表情は歌声同様重要視される点だと思います。
しかしどうしても今作のアリエルは表情が固く感じてしまいます。地上に出た喜びも、エリック王子にプロポーズされると思ったら自分ではなかった際の悲しみの伝わり方も原作ほどでないと思いました。
ここは数少ないマイナスポイントでしょう。
また原作でも印象的なフォークで髪をとかすシーンではドレッドヘアのためフォークが絡まり非常にとかしづらそうでした。
あのシーンってコメディであると同時にアリエルの髪のさらさらさ、美しさをよく表現しているシーンだと思うんですけど今作からはそこが感じられなかったのが少し残念です。
印象的なシーンなだけにこだわってほしかった部分でもあります。
「ちょっと厳しすぎない?難癖つけたいから無理矢理批判点を出してるんでしょ?」と思う方もいるかもしれませんが、これはあくまでも私の鑑賞前、鑑賞中のスタンスが原因だと思っています。
私は今作のアリエルのビジュアルに否定的な意見を持っていたため、「ディズニーさんよ~、わざわざビジュアルを変えるってことは相当この方に自信があるってことだよなァ~?だったら俺が本当にアリエルにふさわしいかこの目で見定めてやるよォ!」というスタンスで見に行ったんですよね。
要は変更するくらいなら否定的な私も納得させるくらいのクオリティに仕上がってるんでしょうね?と本来100点満点のところを120点満点にハードルを上げて鑑賞に望んだのです。
しかし結局評価としては95点くらいだったので期待を超えることができず、最終的な評価として、「確かによかったけど、これ本当にこの女優さんでやる必要あった?」ってなってしまったわけです。
そもそも今作ではアリエルの姉たちが多種多様な人種となっているので、その中の一人にハリー・ベイリーさんを抜擢し冒頭にアニメ版でもあったミュージカルシーンを実写版でも行えば素晴らしい歌声を披露できると同時にキャストとして波風が立たなかったのではないか?とも考えてしまいます。
アリエルの姉たちはあくまで脇役ですし、物語に深く関わるわけではないので変更してもここまでファンから言われることはなかったと思います。
総じて私が言いたいことは、どのような背景があるにしても、作品を愛してくれているファンの方がある程度納得できる形で実写化はされてほしいということです。
おわりに
ということで『リトル・マーメイド』のレビューは以上となります。
話がかなり脱線してしまいましたが良作であるのは間違いないと思うのでぜひ劇場に足を運んでいただけると私としては嬉しい限りです。
個人的に見る際は字幕版をおすすめします。吹き替え版も主役はミュージカル俳優、歌手の経験もある実力派声優で固められていて棒読み等も気にせず素晴らしい演技と歌声を体験できますが、やはり多くの批評家をうならせたハリー・ベイリーさんの歌声はスクリーンで聞かなければ損です。
みなさんもぜひ、実際に見て自分なりの感想を抱いてみてください。
ではまた次の機会に。
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