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短編書けない時のエッセイ#2

 以前に大人不信になった話を書いたことがあった。今回も同じ大人不信カテゴリーだが、十代の頃、年寄りを嫌いになったきっかけの話になる。嫌いというか、苦手というか。ちなみに、今は大好きだけど。んー、大好きも、おかしいな‥。苦手になった理由は、僕なりにあるのだが。

 中学生の頃の話だ。中学生の頃は、とにかく夜更かしして、本ばかり読んでいた。当然、夜更かしの代償として、朝は起きられない。『事件』があった、その日も当たり前のように二度寝をし、急がないと遅刻という状況だった。僕の家から中学校まで、歩いて十五分ほどの距離だったので、急げば間に合うなと思いながら家を出た。

 五分ほど歩いていると、少し先で紙を片手に周りをキョロキョロしているおじいさんが立っていた。見た目は『theおじいさん』ちびまる子ちゃんに出てくる、まる子ちゃんのおじいさん「友蔵」そのものだった。何やら困っている感じに見えたので、どうかしましたかと、僕は声をかけた。

「市役所に行きたいんだけど、道に迷ってしまって」

 僕の家から中学校までの、ちょうど半分くらいの道中に市役所と駅があった。駅を出る際、北口から出ればたぶん迷うことなく市役所に行けたと思うが、恐らくおじいさんは南口から出てしまったんだなと思った。

「僕、市役所の前を通るんで、よかったら一緒に行きますか?」

 おじいさんは、ありがたい助かったと喜んでくれ、一緒に行くことになった。僕は遅刻しそうで焦ってはいたが、おじいさんと並んで、ゆっくり歩き出した。

 どうやらおじいさんは、市役所で行われるイベントに招待されていたようで、遅刻せずに済みそうだと言っていた。時間にして五分もかからない距離だったので、そんなこんなを話しているうちに市役所の前まで来た。

「着きました。ここが市役所ですよ」

 満面の笑みでありがとうを繰り返すおじいさん。それじゃと歩き出そうとする僕をおじいさんは引き留めた。

「本当に助かったよ。お礼と言ってはなんですが」

 そう言って、肩から下げていたショルダーバッグに手を入れた。僕はピンと来て、そんなつもりで案内した訳じゃないですから、お気持ちだけでと言ったが、おじいさんは、それでは私の気が済みませんと、バッグから何やら細長い袋を取り出した。

 袋?どうやら財布ではないな。頭の中がハテナでいっぱいな僕。次の瞬間、僕の目の前で、世にも恐ろしい光景が繰り広げられた。袋の中から現れたのは、竹で作られた横笛だった。

「一期一会に感謝」

 ジジイは謎の言葉を発して、横笛で『蛍の光』を吹き始めた。ジジイ、正気か。市役所の利用者も何が始まったんだと、ジロジロ見てくる。今考えると逃げればよかったんだ。全力で振り返らずに。だけど、その時の僕は動けなかった、全く。ジジイは感謝を伝えたかったのかもしれない。しかし、ジジイよ。思春期ど真ん中、14歳をナメるなよ。顔から火が出る?いや、その時の僕は全身火だるまだった。そして、学校は余裕で遅刻した。

 その事件から、僕は年寄りに親切にするということに抵抗を持つようになった。後日、自宅にポスティングされた地元の広報を見たら、とある祭りで、あのジジイが笛を吹く写真がデカデカと載っていた。僕は広報をぐちゃぐちゃに丸めてゴミ箱に投げ捨てた。






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