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奥野一成『ビジネスエリートになるための投資家の思考法』書評

まず、おすすめ度ですが、最高の☆5つで、2022年で一番いいビジネス書であると考えています。

第1章 お金に困らなくなる2つの方法

 すべての経済活動は顧客の問題解決であると著者は主張します。
キーエンスやラショナルのケースを念頭に、著者は、「お金は問題解決をしてくれた人や企業に集まります。難しい問題であればあるほど、解決できれば付加価値が高ま」ると述べています。
 また、その問題解決が複雑化してるのが先進国の状況であり、顧客の課題が「機能」という画一的なものから「意味」という抽象的かつ多様なものに移っています。
 そこで、意味的価値の世界では、顧客の問題を解決する前にまず発見しなければならないのです。
 お金に困らなくなる2つの方法は具体的に何でしょうか?
 「お金はありがとうのしるし」、「利益は問題解決の対価」という「お金の本質」を考えたときに2つの方法が導かれます。

①自己投資:顧客・社会が抱えた問題を発見・解決できるビジネスパーソンになり、自分が働く
②長期株式投資:顧客・社会が抱えた問題を発見・解決できる企業のオーナーになり、その企業に働いてもらう

 若いうちは圧倒的に自己投資に比重をかけ、長期株式投資はひたすらフローの中からコツコツと積立していくことになります。

 この本の目的として、著者は、「顧客・社会が抱えた問題を発見・解決するポジショニング」を見極める必要があり、これを見極める土台になる考え方を「インベスターシンキング」として詳述することであると述べています。

第2章 インベスターという生き物

 インベスターの性質について入る前に、その前提知識として「事業(ビジネス)の経済性」とそれを構成する3つの要素について説明します。
 事業の経済性とは、その事業の成長性や収益性を決定づける条件のことで、構造的なものを指し、それは以下の3つから構成されます。

①付加価値:その企業が提供する財・サービスに顧客にとって付加価値があるのか、顧客にとって必要なもの、問題解決につながるものか。
②競争優位性:圧倒的な競争優位性があるのか、参入障壁と言えるまでに高められているのか。
③長期潮流:人口動態のような不可逆的な長期潮流があるのか。

 また、インベスターとは、一言でいうなら「ビジネスオーナー」です。そして、インベスターは株価の下落を喜びます。株が下落こそ、その保有先の企業価値に対する持ち分を安価で増やすことのできる絶好の機会だからです。
 普段から心掛けておくことは、不可能な相場予測などに時間を費やすのはやめて、事業の経済性を見極めることに焦点を当てることなのです。

 株価、利益、ビジネスの関係性を、「株価は利益の影、利益はビジネスの影」と著者は表現しています。
 一番重視すべき点は、その事業が高い経済性をもっているのか、利益を生み出す源泉がどこにあるのか、特定することなのです。

 強い企業の株式に対する投資には複利効果があるといえます。
 本当に強い企業というのは、投資に一定の資金を投入することによって、同業他社に対する競争優位をさらに高め、さらに大きな利益をあげることで、起業価値を向上させていくのです。

 また、事業投資の機会が巨大にある企業は、株主への配当はしません。株主に配当した分だけ、企業価値増大の複利効果を効果を殺してしまうので、株主の長期的な利益にならないからです。

 強い企業の株価は長期的には上昇するのですが、短期的に見ればほぼ確実に株価と企業価値は乖離しているのです。

 ベンジャミン・グレアムの次の言葉が絶妙に表現しています。
「株価は短期的には投票機だが、長期的には重量計だ」

 そこで、著者の経験からは、企業価値の約8割が、「どこで戦うのか」という部分で決定されるという印象を持っているそうです。
 事業の経済性を切り口に「戦うべき場所」を特定して、そこに限られた経営資源の多くを配賦するのす。残りの2割が経営資源を配賦すると決定した事業領域の中で「どうやって効率よく運営するのか」という部分です。

 著者の会社では、最低でも20年分の財務情報をチャートにして眺めてみます。優れた経済性を持つ事業を営んでいる企業は、安定的な売上成長、高い利益率、健全なバランスシートなど、共通した特徴が表れる場合が多いといえます。

 インベスターが見極めるべきは「なぜそのような形になっている?」という原因、背景、すなわち、事業の経済性です。

 そこに迫るには、企業の沿革から、財・サービスの性質、競合環境、ビジネスプロセス、顧客は誰でどのような問題を解決しているのか、等の非財務情報を徹底的に掘り下げ、事業ごとに見る必要があります。顧客や競合環境は事業ごとに異なるからです。

 財務情報と非財務情報、そして人口動態や経済状況等のマクロ情報を組み合わせて、各事業の仮説を構築し、企業価値の源泉とらえ、企業との建設的な対話というプロセスをぐるぐると回すことで、事業の経済性を規定する3つの要素(付加価値、競争優位性、長期潮流)に関する仮説を構築し、その事業特性に応じた財務モデルを組み立てることで初めて、企業価値(将来価値)を合理的に計算することができます。

 仮説を導くときに一次情報以外の検索をするのは考え物であり、自分で考えることの妨げになるからです。
 断言できるのは、情報の量と考える量は反比例するということです。

 また、インベスターは価格より、価値にこだわり、「長期投資家の辞書に利確という言葉は存在しない」というのが著者の考えです。
 なお、個人投資家の利益確定は理論的に間違っています。
 重要なのは「PL(損益計算書)的発想」ではなく、あなたの資産形成にとって必要なものは「BS(貸借対照表)的発想」です。

第3章 インベスターが用いる3つの視点

 事業の経済性を見極める際に重要な3つの視点は次の3つです。
①俯瞰的に見る
②動態的に見る
③斜めから見る

①俯瞰的に見る
⇒産業全体を俯瞰的に見ることが重要です。産業バリューチェーンの考え方を参考に
②動態的に見る
⇒時系列で振り返って整理することが重要です。
③斜めから見る
⇒事業の経済性に迫るには、様々な企業同士の比較を通じてアナロジー(類似・類推)を意識する必要があります。

アナロジーには大きく2つあります。
一つ目は「一見、違って見えるが、実は根っこは同じもの」であり、もう一つは「一見、同じに見えるけれども、実は異なるもの」「似て非なるもの」です。

第4章 企業の本質の迫る5つのプロセス

企業分析のプロセスとして、次の5つあります。
①数値化する、可視化する。
②比較する:分析対象の過去との比較、バリューチェーンの川上・川下比較
③分ける:セグメント、地域、フレームワークを活用し数字を分解
④捨てる:事業の経済性に迫るという意識強く持ち、枝葉の情報は思い切って捨ててしまい、本当に重要なものに集中する能力が磨かれる。重要な20%を特定できれば、重要でない80%を捨てることができる。
⑤組み立てる:抽象的な仮説を基に再び具体的なビジネスに落とし込んでいくプロセス

第5章 お金と価値を生み続ける最強のポートフォリオ

 インベスターシンキングとして、自分資産と金融資産の組み合わせに関してですが、年を経るにしたがって金融資産の比重があがってきます。
 自分資産に関しては、付加価値、競争優位性、長期潮流の点があげられます。
 金融資産に関しては、①何も生まない資産(金・仮想通貨)②貨幣ベースの資産(貨幣・預金・債券)③価値を生む資産(不動産・株式)に分けられます。




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