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青春とは -アイドルネッサンス「Blue Love Letter」歌詞考察vol.2

“永遠に続くようで、一瞬で過ぎ去ってしまうあの頃の様子が頭の中に駆け巡る。”

アイドルグループ「フィロソフィーのダンス」の香山ななこさんがイベントに出演した際に、オーディションでBase Ball Bearの「17歳」を歌ったエピソードを話されていた。
香山さんは、アイドルネッサンスのカバーからその曲を知り、「オーディションのおじさんにウケると思って選曲しました」と話されていた。僕はその場で初めてアイドルネッサンスというグループを知った。調べてみると、フィロソフィーのダンスのプロデューサー・加茂啓太郎さんが発掘したBase Ball Bearの小出祐介さんも複数の楽曲に関わっているとあった。

元々、Base Ball Bearの楽曲も好きだったし、岡村靖幸さんとの「愛はおしゃれじゃない」や、東京女子流に提供した「Partition Love」なども大好きでよく聴いていたので、アイドルネッサンスの楽曲も聴いてみようと思った。
特に「Blue Love Letter」の歌詞を読んだ時、一瞬でその情景が目の前に浮かび上がってきたのが感動的だった。10代の少女が今まさに青春を駆け巡っている風景が、どこまでも奥深く広がっていく歌詞が刺さった。まず読み始める前に楽曲を聴いていただきたい。そして、歌詞を横に並べながらこの後の文章を見ていただきたい。

「青い文字は忘れにくいって聞いたから 青いインクで書きます」
“忘れにくいって聞いたから”という言葉の裏にある相手を想う様子や少し照れ隠しのように感じる歌詞が心の奥底にある部分をくすぐってくる。“忘れてほしくないから”と素直に言えず、少し変わった表現をしてしまうところが、忘れていた感覚を呼び起こさせるようである。
手紙をわざわざ青いインクで書くことや「君のさよならも青色だったのかな」といった、“青”という色に象徴された10代の心の動きがこの曲の冒頭で描かれていて、歌詞の全体的な方向性を示しているように感じた。

「届くかわからない 届けようとしてないのかもしれない手紙」
思いを寄せる相手に宛てた手紙を実はまだ差し出せずにいることがサビで明らかになる。「自分でも忘れちゃいそうなこと 君が憶えてたなら 魔法みたいだね」なんて少し恥ずかしくすらあることを書く勇気はあるのに、手紙を差し出すところまではいかない(もしくはそういったことを書いているからこそ、思春期らしい自意識との狭間で差し出すことができない)ところに、10代の機微が見える。

そしてその後に、「携帯が鳴り 窓の外で君が手を振ってた」から「机の向こうには 忘れられそうにない青」という歌詞が展開されている。机の前でぼんやりしていると、突然“君”が迎えに来る。“君”がいた時の思い出を振り返りながら、今、君に宛てた手紙を書いている。手紙を書く女の子の様子とその頭の中に浮かんでいる思い出が同時に表現されていて、まるで目に見えるかのようにその情景が浮かんでくる。ここにもやはり“青”が使われている。

「届くかわからない」で始まる歌詞は2ブロックある。その間に挟まれる次の歌詞が一番グッと来た。

「この町にも遅い夏がきて
君の知らない季節が積もる
机の向こうには 忘れられそうにない青」

「遅い夏」から、雪を連想させるような「季節が積もる」(積もる≒雪≒冬)。ここのたった2行で一瞬のうちに過ぎ去っていく青春の儚さを感じさせられる。ここは見事な時間経過の表現だと思う。手紙を送るか逡巡しているこの1年の間にも、“君”への想いはしんしんと積もっていく様子に胸が熱くなる。「だめだ まとまらない」と言いながらも「書かずにはいられない」。

一瞬で過ぎ去ってしまう青春も、当人からすると、永遠に続いていくように感じられる。
「自転車 君の背中でどこまでもいけた」という歌詞が後半に出てくる。「携帯が鳴り 窓の外で君が手を振ってた」という描写があることから、おそらく“君”に外へ連れ出された後のことだろう。
僕たちの記憶の中にもある自転車で行ける範囲が世界の全てだった“あの頃”を思い起こさせる。
青春の只中にいるものの、成長した今(手紙を書いている現時点)では、もう“あの頃”の青春とは少し違うステージにいる。今まさに経験している青春は永遠に思えるけれども、気づかない間に青春は少しずつ終わっている。大事な思い出であることに変わりないが、それぞれのステージにおいて必ず終わりや区切りがあり、ずっとは続いていかないからこそ、青春は尊いということを感じさせられた。

冒頭の「長かった前髪はもう切りました」と最後の「短くした前髪にも慣れました」という時間の経過とそれに伴う心情の変化に少しずつ彼女が大人になっていくような雰囲気を感じる。それでもまだ「手紙を書きます」と差し出せてはいない主人公にもどかしさを感じながらも、この歌詞に出てくる彼女を愛おしく思った。

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