けん

台湾生まれ、台湾育ち。現在、東京大学教養学部4年生。

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    見慣れた物語から新たな意味を発見する。

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ブランドに囚われるアラサーたち:麻布競馬場『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』

六本木、東京タワー、丸の内仲通り、麻布十番、白金高輪、清澄白河、電通、博報堂、三菱、慶應、早稲田、商社、アメフト部、クラフトビール、ビストロ、ワイン、パーソナルトレーニング、タワマン、ビームズ、イケメン、美人… 『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』(以下『この部屋』)はブランドに溢れている。地域も、大学も、サークルも、飲むものも、食べるものも、付き合う人も、セックスする人も、自分に箔をつけるブランドとなる。アラサーの主人公たちは、さまざまなブランドを追い求めないといけ

    • イマドキの大学生は忙しすぎる

      「あいつとんだね」と。 どうやら「とぶ」とはある人の連絡がつかなくなり、その人が団体から脱退しているとみなせるということらしい。 初めて人が「とんだ」とき、僕は驚いた。「とべるんだ」と。この世で、ある団体から消え去るのはどうも容易いのだ。 忙しすぎるせいだ。イマドキの大学生は多忙を極める。その一因はコロナ禍の最中に登場し、大学生の間に浸透したSlackとZoomだと思う。23時のミーティングというバケモノが誕生。仕事中の会社員のような速さで返信するのが習慣に。僕が所属し

      • 蝉よ 思う存分に叫ぼうよ 渋谷の安い居酒屋で ミーンミーンと どうせ君もすぐ スーツを着て 嘘ばかりで どっかの会社に入るんだろう 蝉よ 思う存分に遊ぼうよ チーチーと どうぜ君もすぐ 趣味を 生活を 失って つまらない人間になるんだろう 蝉よ 思う存分に交尾しようよ ジリジリと どうせ君もすぐ誰かの夫 誰かの妻になって 恋も思わず 家を営んでいくんだろう 君のうるさいなき声を許してやる なぜなら君は 可哀想で 土の中に18年 木の上に4年 大人になって 死んでゆくんだ

        • 隅田川花火大会激混みはなぜ?

          激混みにもかかわらず浅草に行って、周りの人の手と手の隙間から打ち上がる花火をのぞくのは、なんかおかしいと思わないか。花火大会は、「納涼」は、もっとゆとりを持って享受するものなのではないか。ドラマの、アニメの、主人公たちの恋心を一歩推し進める花火大会は、もっとロマンチックなはずなのではないか。 なぜ、隅田川花火大会は混むのだろう。一見素朴な質問だが、そこには文化が同質的になってしまい、夏を楽しめる想像力が乏しいという、我々の時代精神があると思う。 隅田川花火大会の人混みと、

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          人生で一番シュールな誕生日

          女の、喘ぎ声が聞こえた。 ゆめうつつの中に、僕は頭から布団をかぶり、耳を塞いだ。眠ろうとした。だが女の喘ぎはペースを増し、声が次第に大きくなってきた。 アラームがまだ鳴っていないのは、まだ眠れるということだ。しかし頭が勝手に回りはじめた。今日は2022年11月20日、自分が実行委員を務める学園祭の最終日だ。そして、自分の21歳の誕生日だ。 よもや21歳が同居人の彼女の喘ぎ声から始まるとは思わなかった。僕はひどく疲労した身体を引きずりながら洗面台に行った。3日間(前日の準

          人生で一番シュールな誕生日

          ポルノに囲まれる人々

          「フードポルノ」という言葉がある。 別に、そういう部屋でこっそり観る動画や同人誌とは関係なく、いまで言う「飯テロ」に近い。すなわち、いかにもおいしそうで、鮮やかで、豪華で、食欲を掻き立てる料理の写真を指します。この造語はとても巧みだと思っている。思うに、確かにポルノとの共通点が多い。官能的な行為(セックス・飲食)の代替物として、欲望(性欲・食欲)を刺激する一方、行為そのものとは所詮異なる。なるほど、飯テロとエロ動画は本質的に同じかもしれない。 動物行動学者Nikolaas

          ポルノに囲まれる人々

          さらば、駒場ロッジよ

          静かな夜にかこまれ、真っ直ぐな道を進んでいる。その先にあるのは、駒場ロッジ。この長々しい夜道を歩きながら人生を思い悩む日常も、これが最後だなとまもなく駒場ロッジを去る僕は思わずにはいられない。 2年前に、14日間のホテル待機を終えて荷物を引きずりながら駒場ロッジへ入居した。程なくして、キャンパスから徒歩10分、光熱費を含め家賃4万円、渋谷まで電車で10分以内、という絶好な条件を有する寮はその住民たちに「北朝鮮空港の待合室」や「精神病院」と揶揄されていることがわかった。僕だっ

          さらば、駒場ロッジよ

          すれ違った「大学」への期待

          この間、ある先輩と夏休みについて話したとき、先輩に「一年生か、そろそろインターンを探す時期じゃない?」と言われ、驚いた。当時、先輩が特別で向上心のある人であると思っていたが、のちに一年生の夏休みでインータンをする人は少なくないことがわかった。SNSで「インータンを始めるぞ!」というつぶやきを見たことが次第に多くなり、大学生の本業が勉強であると信じ込んでいる僕も焦ってきた。昔、先生が皮肉に言った「いまの子は幼稚園からインータンを探さないといけないんだね」という冗談は、現実味を帯

          すれ違った「大学」への期待