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三浦龍司(順大)が出場したダイヤモンドリーグストックホルム大会(DNガラン)男子3000mと難民選手の優勝について

レース動画は以下。

三浦龍司のダイヤモンドリーグデビュー戦

今回のレースの結果は以下である。

スクリーンショット 2022-07-01 5.13.26

気温23℃ / 湿度73% / 曇り

【順位】
1. D.ロキニョモ・ロバル(難民選手団)7:29.47 PB / 今季世界最高
2. J.キプリモ (ウガンダ🇺🇬)7:29.55 SB
3. C.ケンボイ(ケニア🇰🇪)7:31.26 SB
4. S.マクスウェイン(オーストラリア🇦🇺)7:31.93 SB
5. T.ディクウィナヨ(ブルンジ 🇧🇮)7:34.91 PB ブルンジ歴代2位
6. L.グリハルバ(グアテマラ 🇬🇹) 7:38.67 グアテマラ新記録
7. M.フォッペン(オランダ 🇳🇱)7:43.37 SB
8. G.ノルダス(ノルウェー 🇳🇴)7:44.28
9. J.ライナー(オーストラリア 🇦🇺)7:47.62 PB
10. 三浦龍司(順天堂大 🇯🇵) 7:47.98 PB
11. A.イフネ(エチオピア 🇪🇹)

(※日本学生記録は2004年のJ.ダビリの7:46.79

3000mSCにおいて国内で無敵の三浦が、ハードルのないフラットの3000mでダイヤモンドリーグに初出場。どのような目的での出場かは明らかになっていないが、自己記録を0.09秒更新するレースとなった(日本歴代4位)


今回の三浦龍司のレース展開

レース前は大迫傑が持つ日本記録(7:40.09)の更新を視野に入れていたかもしれないが、今回の3000mのレース序盤では2人のペーサーを除いて2番手(S.マクスウェインの後ろ)に位置していた(見た目では4番目に位置)

1000mはペーサーが2:30.38(7:30ペース)で通過。↑の動画ではフィールド種目がメインだったところ(650-1300m間)が省略されていて、3000mのレース全てを見ることができないが、1300m地点で三浦はペーサーを除いて8番手に位置を落とし1500m通過が3:46.5。

その後、1700m地点で先頭集団についていけなくなり、2000mを5:04.8あたりで通過(2000mの日本記録の5:07.24を上回っている)。1500m通過とペーサーのペースを考えると三浦は1000mを2:31.00あたりで通過し、2000mまでの1000mは2:33.8あたりだろうと推測できる。

しかし、そこからのラスト1000mは2:43.5と、失速していることがわかる

三浦のラップ(非公式 / 手動での目測)
1000m 2:31.0?(位置不明)
1500m 3:46.5(8番手)
2000m 5:04.8(8番手 / 2:33.8)※2000m日本記録の5:07.24より速い
3000m 7:47.98(2:43.1)

当然、3000mや3000mSCではハイペースで突っ込むとラスト1000mは失速するし、中盤にペースが落ち着くとラストスパートを効かせやすい。

三浦の特徴といえばそのラストの強さにあるが、3000mSCも含めて国際舞台でのハイペースのレースに課題が残る内容となった(彼はまだ世界大会の決勝では中間走に課題があり、実際に東京五輪の決勝ではそのようなレースとなった)

7:47.98という記録は三浦の自己新、日本歴代4位であるが、今回の優勝者や4位の選手との差が120-130m開いていることも留意して欲しい。レース内容としては、全く勝負させてもらえなかった。

今回のレースはエチオピア、ケニア、北米のトップクラスの選手の出場はなく、ダイヤモンドリーグにしては手薄なメンバー構成だったので、そのレースで10位であったということ、ラスト1000mの失速を含め本人にとって課題の残るレースだったのではないだろうか。

ユージン世界選手権へ向けての「調整レース」だから、7:47.98の記録は十分良い成績と考えることもできるが、今回の2, 4, 5, 6, 8, 9位の選手はユージン世界選手権に出場予定。彼らにとっても「調整レース」であることになんら変わりないし、2位のキプリモに関しては今季トラック初戦である。

三浦はまだ学生であるが、五輪の入賞選手であり、そのような国際的な実績を考えると彼の競技成績に求められるレベルは当然高い。記録はさておき、ダイヤモンドリーグにしては手薄のメンバー構成のレースで、三浦はPMを除いた12人中10位の順位。この結果に満足できる選手ではないだろう

しかし、まだまだ海外遠征の経験が比較的浅い選手なので(東京五輪では地の利があったといえる)今後経験を積んでダイヤモンドリーグを転戦するような選手になることを期待している。


難民団の選手が歴史的なDL優勝

私のnoteでは日本人選手のみならず、包括的に陸上中長距離のエリート選手について発信しているので、今回のレースの優勝者にも触れる(日本以外の選手にも興味を持っていただき、それぞれの選手にストーリーがあることを理解するのが重要だと私は考えている)

今回のレースで東京五輪10000m銅メダリストのJ.キプリモに競り勝ち、3000mの自己記録を20秒更新したのがドムニク・ロキニョモ・ロバル(↓左)である。

ロバルはスーダン出身(正確には南スーダンであるが、南スーダンは2011年にできたばかりの国で彼の出生地はスーダン)で、幼少期に紛争の絶えない地域からケニア北部に難民として移り住んだ。

その後はテグラ・ロルーペが主宰するナイロビ周辺の難民選手団のキャンプでトレーニングを積み、2017年(19歳の時)に難民選手団の選手としてロンドン世界選手権1500mに出場。

その他の南スーダン出身の元難民といえば、米国籍を取得し五輪に複数回出場したBTCのロペス・ロモンが挙がる。UNHCRによる難民の定義は以下。

紛争に巻き込まれたり、宗教や人種、政治的意見といった様々な理由で迫害を受けるなど、生命の安全を脅かされ、国境を越えて他国に逃れなければならなかった人々のことを「難民」といいます。現在、世界の約2710万人の難民のうちUNHCRの支援対象者は約2130万人います。 UNHCRより引用

ロバルは陸上競技の難民選手団をサポートしているオンの契約選手であるが、2019年にスイスでの試合の後にケニアへの飛行機に搭乗を拒否。そのままスイスに滞在し、難民選手団としての登録を破棄した。

とはいえ、難民選手団出身の選手がダイヤモンドリーグで優勝することは、歴史的な快挙であった。

「難民選手として初めて(ダイヤモンドリーグで)優勝することを心から望んでいて他の難民選手のモチベーションを上げたい」Flash Quotesから引用

ロバルは現在オンなどの企業のサポートを受けてスイスを拠点としてトレーニングをしているが、経済面やビザの発給など多くの問題を抱えている。


ビザ発給等のハードルを抱えている選手

難民選手(やアフリカの若手選手)にとって、拠点以外の国での国際大会に出場する時に問題になるのが“ビザ”である。

(一部の国の選手にとってビザ申請のハードルが高いことがよくわかる)

ロバルは2017年以降の4年半は、現在の拠点であるスイス以外の国での試合出場がなかった。現在は難民選手団ではなく、南スーダンの選手であるロバルはユージン世界選手権に出場しないが、少なくとも3000mという種目においてその才能の大きさは明らかなものである。

ちなみに、このレースで6位に入ったルイス・グリハルバ(グアテマラ、東京五輪5000m12位)は、去年の今頃、東京五輪に出場するには早急にビザを発行しなければならない状況にあった。

それをサポートしたのが、グリハルバが全米学生選手権で2位に入った後に契約したホカだった(ホカは彼のビザ発給に関する費用を全て負担した)

今回のドムニク・ロキニョモ・ロバル(左)の優勝、そしてグリハルバ(右)の7:38.67でのグアテマラ新の記録はそういった壁を乗り越えてきてのものであったことから、とても価値にあるものだったのではないだろうか。


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