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ジョシュア・チェプテゲイ🇺🇬が8/14モナコDLで男子5000mの世界記録(12:37.35)に挑戦。ドーハ世界選手権男子10000m金メダリスト / 2019年世界クロカン優勝者が五輪延期の1年で目指すもの

ドーハ世界選手権男子10000m金メダリスト / 2019年世界クロカン優勝者のジョシュア・チェプテゲイ(ウガンダ)が8/14のモナコDLで男子5000mの世界記録に挑戦する。

男子5000m世界記録(12:37.35)更新ペースは
・2:31.47/km
・1周60.58ペース

ベケレの世界記録更新時も、今回の場合もペーサーが半分まで持つかどうかで後半は単独走になる。また、ハイレやベケレが世界記録を更新した時は気温が低かったが、今回が気温が1つのポイントになりそう。

私が最初に、この選手(ジョシュア・チェプテゲイ)の走りに魅了されたのが、2017年の世界クロカンのレースで、実際に現地で自分の目で彼の走りを見たのがその夏のロンドン世界選手権男子10000mのレースだった。

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(ロンドン世界選手権では果敢に集団を引っ張って、世界選手権のトラック種目では母国ウガンダに初のメダルをもたらした)

着実に階段を上る

ジョシュア・チェプテゲイはアフリカのウガンダで生まれ育ち、ロンドン五輪とモスクワ世界選手権の男子マラソン金メダリストのステーブン・キプロティチの活躍に影響を受けて、高校卒業後に陸上競技を始めた。

それから、2014年ユージン世界ジュニア5000mで4位、2015年北京世界選手権10000m9位、2016年リオ五輪5000m8位、10000m6位と着実にステップを重ねていった。

そして、2017年ロンドン世界選手権ではレースを終始引っ張りながらもファラーに負けたとはいえ銀メダルを獲得し、母国ウガンダにトラック種目としては初のメダルをもたらした。

ここまで、彼の2017年までの経歴について触れたが、8/14のモナコDLで男子5000mの世界記録(ケネニサ・ベケレの12:37.35)に挑戦するチェプテゲイについて、あなたがもっと知りたいのであれば、私が3年前に翻訳した以下の記事を参考にしてみてください。

2017年の母国ウガンダの首都カンパラで開催された世界クロカンでは、終盤まで先頭を独走していながらも、熱中症の影響で最後はフラフラになりながらフィニッシュ。チェプテゲイは地元の大歓声の期待に応えられなかった。

しかし、彼の不屈の精神やその強靭さをもってして、その後の活躍は目をみはるものだった。

2017年11月のセブンヒルズ15kmでは41:13の世界最高記録に肉薄する41:16(ave.2:45/km)で優勝。2018年にはコモンウェルスゲームで2冠(5000m、10000m)、そしてセブンヒルズ15kmでは41:05(ave.2:44/km)の世界最高記録を見事にマークした。

この時からもうすでに彼は、次世代のトップ選手として活躍することが期待されていた。

そして、この年に彼がコモンウェルスゲームで2冠をする直前に、グローバルスポーツ総裁のヨス・ヘルメンスが率いる、キプチョゲやベケレらを筆頭とした、ナイキスポーンサードの世界最強長距離チーム:NNランニングチームの結成が公式に発表されていた。

チェプテゲイは、自らが競技を始めるキッカケとなったスティーブン・キプロティチに影響を受け、キプロティチが練習拠点としていたキプチョゲが所属するグローバルスポーツのカプタガトキャンプ(ケニア)で練習を摘んだ時期もあった。

しかし、彼は最終的にはケニアとの国境に近いウガンダの小村、カプチョルワでの高地のトレーニングキャンプで、彼のコーチであるアディ・ルーターと人生をともに歩むことを決めた。

(自転車競技の元選手であるオランダ人コーチのアディ・ルーターについての記事は以下より)


世界最速から世界最強へ。

チェプテゲイにとって世界最高記録はこの15kmだけにとどまらず、2019年12月には10kmロードで26:38(その後2020年1月にR. キプルトが26:24に更新)その後2020年2月に5kmロードで12:51の世界最高をマークしている。

それでも、彼にとって2019年で最初に目指すべきものは記録ではなく、1位になることだった。2019年世界クロカンでは、前回の2017年世界クロカンで終盤まで独走しながらも、惨敗に終わったレースの雪辱を見事にはらす快走で優勝。

それまで世界クロカンを2連覇していたジョフリー・カムウォロルを退けての優勝だった。

その勢いはトラックシーズンでも発揮された。5000mでは自身2回目の12分台(12:57.41)でDLファイナルを優勝。

その後のドーハ世界選手権10000mでは26:48.36の自己新で優勝。ラスト1周は55秒39で走り、他の選手を圧倒した。

その後は先述したようにロードで世界最高記録を立て続けにマークしていき、象徴的な1年のシーズンを終えた。


五輪延期の1年でチェプテゲイが目指すもの

コロナ禍以前の目標は、2020年3月に予定されていた世界ハーフでの金メダル獲得と(彼は初ハーフながらも、世界ハーフ3連覇中のカムウォロルと対戦する予定だった)、東京五輪でのトラック種目での金メダル獲得だった。

しかし、コロナ禍によりウガンダでも集団練習が禁止された。

彼のコーチのアディ・ルーターは、母国オランダで以前から指導していた選手や、自らの家族がいることで、普段からオランダとウガンダと往来をしていたが、コロナ禍ではウガンダにとどまったことで、チェプテゲイの指導に時間を割くことができた。

そこで、彼らは2020年の目標を修正し、8月14日に日を改められたモナコDLでケネニサ・ベケレが持つ5000mの世界記録を更新することを目標とした。

ベケレが5000mと10000mの世界記録を更新したのは、それぞれ2004年と2005年で(10000mは2回更新)、その2年間はアテネ五輪とヘルシンキ世界選手権があったので、ベケレは世界記録も世界一も同時期に手に入れることを達成した。

一方で、ハイレ・ゲブレセラシェも10000mにおいては1993年から2000年までの世界大会で6連勝(1993、95、97、99世界選手権、1996、2020年五輪)していたが、5000mと10000mの当時の世界記録を最後に更新したのは1998年であり、その年には世界大会はなかった。

簡単にいえば、ゲブレセラシェは世界大会のない年に、世界記録に挑戦することにフォーカスできたのだ。

チェプテゲイはベケレやゲブレセラシェほどの突出した成績をこれまでに納めてきていないのかもしれないが(それでも彼のこれまでの実績は素晴らしいものである)、彼らの陣営にはこれまでの経験と勢いと自信がある。

そして、今年はゲブレセラシェの時のように、世界大会がない1年だからこそ世界記録に挑戦するという機会を持つことができている。

日本でも今年のインターハイがなくなったことも影響して、石田洸介が高校記録を破ることにフォーカスできたということが事実としてある。

ベケレのように、史上最速とその年の世界一を両立することは難しいにしても、ゲブレセラシェや石田洸介のように、チェプテゲイが5000mにおいて、世界大会のないこの1年で世界記録更新にフォーカスすることは十分可能である。


現世界王者の期は熟した。

現世界クロカン / 10000m世界王者の目標は決まった。

チェプテゲイは、7月22日にウガンダの首都のカンパラ(標高約1,200m)で行った2マイルのタイムトライアルの3000m通過が7:41だったという(2マイルのタイムは明らかにされていない)。

このTTは準高地で行われたものであるということと、風が強かった中での記録ともあり、彼の陣営は今回の世界記録更新に向けて良い仕上がりであると感じている。

しかし、ベケレの12:37.35という記録は偉大である。この16年間でベケレ以外は誰も12:43よりも速い記録をマークしていない。しかもチェプテゲイのトラックの5000mの自己記録は昨年の12:57.41(世界歴代73位)である。

とはいえ、チェプテゲイは男子では歴代でただ2人のみ、同年に世界クロカンと世界選手権のタイトルを獲得した選手の1人である。そして、そのもう1人はベケレである。

チェプテゲイのトラックの自己記録(3000m7:33 / 5000m12:57 / 10000m26:48)は、ベケレが5000mの世界記録を出す前の2004年当時の自己記録(3000m7:30 / 5000m12:49 / 10000m26:49)ほどは優れていない。

しかし、チェプテゲイはトラックよりもロードレースで良い記録を出している(5000m12:51 / 10000m26:38)。もちろん、ナイキのネクスト%の後押しもあるだろうが、それにしても彼はトラックでもロードでもフロントランが得意で、ペーサーが抜けてからも1人でペースを維持する能力に長けている。

今回のモナコDL男子5000mのペーサーは3人いるが、第1ペーサーのロイ・ホーンウェグは、チェプテゲイがロードの10kmと15kmでそれぞれ世界最高記録で走った時にペーサーを務めたオランダ人。今回のレースは彼が1,000mを2:31-2:32で先導する。

第2ペーサーはチェプテゲイの練習パートナーである、スティーブン・キッサが少なくとも1,800mまでは先導する。今年のBTC記録会で男女で北米記録が更新されたように(男子12:47.20、女子14:23.92)、普段から一緒に練習しているチームメイトがペースを作ってくれるのは、精神的にも大きなメリットになるだろう。

第3ペーサーはオーストラリア期待の若手、マシュー・ラムスデンである。彼はこの数週間で2000m4:55、3000m7:39で走っているが(どちらもTT)、2,500mまで世界記録ペースで引っ張ることが予定されている。

3人のペーサーが抜けた後、約5-6周はチェプテゲイが単独走で世界記録のかべに挑戦する(ベケレが世界記録を出した時、後半の3000mは単独走だった)。ただ、チェプテゲイの強みは5000mでも10000mでも単独走であり、それはこれまでの彼のレースで見られてきた多くシーンである。


厳しい気象条件に対し、チェプテゲイにとって追い風となるベケレ時代になかった2つのもの

レースはモナコでの午後9時13分に行われるが、予報では気温が約26℃と高い。男子5000mで過去2回世界記録が更新されたときは気温が低く、歴代上位記録もやはり26℃よりかは低い気温で行われたレースでのものだった。

また、チェプテゲイにとっての困難はこの数ヶ月にも発生した。コロナ禍での練習過程にしても、今回のウガンダからモナコまでの移動もこれまでよりもストレスの多い環境下であった。

ソンドレ・モーエンが練習拠点のケニアから母国のノルウェーの戻る時と同じようにチェプテゲイも長旅の陸路 → 空路 → 空路を経て約3日間をかけてアフリカ(ウガンダ)から欧州の地(モナコ)にやっと上陸することができた。

その一方では、彼にとっての追い風となるものが2つある。

2018年から導入された「電子ペーサー」ことウェーブライトの技術を使って、特にペーサーが抜けてからチェプテゲイはこのウェーブライトの光とともにチェプテゲイは周回を重ねることとなるだろう。

(以下も私が書いたものですのでご参考までに)

そして、チェプテゲイは新色のドラゴンフライでレースに臨む。このスパイクがヴェイパーフライほどの追い風となるかどうかはわからないが、ベケレが16年前に履いていたものよりも良いスパイクであることは間違いない。

とはいえ、最後はやはり、アスリート自身の心技体が揃わなければ、最高の記録は生まれない。

ジョシュア・チェプテゲイが五輪制覇の前に手にしたいもの。男子5000mの世界記録が更新されるかもしれない、コロナ禍での8月14日(日本時間8月15日)のその瞬間に多くの注目が集まる。

モナコDL男子5000m(日本時間8/15:午前4時13分スタート)
ダイヤモンドリーグの公式FacebookとYoutubeでライブ配信予定

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