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ペレ③カメハメハを王にする

ポリネシアでは、相対するものが一対で創られた。ペレとカマプアアの愛憎関係は、その例だ。彼はハンサムなチーフに化身し、背中の豚の剛毛を隠すためにマントを羽織った。また巨大な八つ目の豚や様々な魚、植物に変身できた。カヒキコロという棍棒で槍をかわし、戦士たちを倒した。

しばしばトラブルを引き起こし、本能的な欲望のままに行動するカマプアアの男性優位主義の性格には、ポリネシア人の知る豚の性質が表れている。
彼の数多くの好色な冒険や激怒した夫たちとの争いの話に、昔は様々な脚色が施され、ストーリーテラーが16時間もかけて、すべての物語を語ったと伝えられている。

カマプアアは、島の風上側の、雨の多い涼しく湿った環境を好む。河川に浸食され所々に滝のある渓谷は、巨大な雄豚であるカマプアアが鼻で地面を掘ったことで出来たと言われている。そこは豚が好む植物が豊かなところであり、農業神ロノと関係があることを示している。彼が好む環境は、ペレと正反対だ。

Kamapuaʻa

カマプアアはペレを見て興奮して言い寄るが、ペレは彼を豚と呼び、炎と溶岩を浴びせ、海へ追い立てた。カマプアアはフムフムヌクヌクアプアアに姿を変えた。溶岩で沸騰する水の熱から身を守る丈夫な皮を持っている小さな魚だ。カマプアアが再びペレに近づくと、ペレはまた攻撃する。

彼は嵐を起こし、沢山の豚を呼び寄せ、ペレの土地を鼻で掘り返してめちゃくちゃにした。激しい雨でペレの火が消えそうになったので、ペレの兄たちはペレに降参を命じた。ペレは彼を恋人に迎えるが、一緒にいられないので、島を二つに分け、ペレは乾燥した風下側、カマプアアは緑豊かな風上側を選んだ。

しかし島の乾燥した側でも、溶岩流を見ると、ペレがカマプアアに降参していると分かる。溶岩の上に落ちた種は、雨によって芽を出し、力強い根が溶岩を貫き、何千年もかけて豊かな土壌を作る。ペレが溶岩で作った島は、カマプアアの絶え間ない戦いで肥沃になる。相対する者同士の相互作用が世界を作る。

Kamapuaʻa vs Pele

ホールアは、硬い木で作った細いそりで、積み上げた石の上に目の粗いマットを重ねて敷き、良く滑る草で覆った滑走台を滑り降りる危険なスポーツで、チーフだけが参加できる。
プナ地区カポホの近くにあるホールアの滑走台の頂上に、カハーワリという高慢な若いチーフが立っていた。

そこに、見知らぬ女性が「競争したい」と近づいてきた。彼はぞんざいに断ると、そりに乗って滑り下りた。下にいる見物客の叫び声と背後の轟きを耳にしたカハーワリが後ろを振り返ると、全身を炎に包まれた女性が、燃える溶岩流に乗って追いかけてきていた。馬鹿にして競争を断った女性は、ペレだった。

カハーワリは、ペレに追いつかれないよう、あらゆる技を駆使してスピードを上げた。下に着くと、そりから飛び降りて全速力で海岸へ走った。溶岩は足元に迫っていた。彼は兄が偶然出していたカヌーに乗り込み、海に流れ込む溶岩から辛うじて逃れ、ハワイ島では無事でいられないので、マウイ島へ逃げた。

Escape from Pele

1790年、ハワイ島の統治をめぐる争いで残ったのは、故カラニオプウ王の息子ケオウアとその従兄弟カメハメハ。カメハメハは危険な成り上がり者と恐れられ、ケオウアは、彼の遠征中に、風上側の彼に忠実な地区を襲う。カメハメハは急いで島へ戻り、ケオウアと戦うが、決着がつかない。

ケオウアの軍隊は3つの部隊に分かれて行軍。第1部隊がキラウエア火口ーへ向かうと地震が起きた。ケオウアはペレに祈りを捧げ、無事に通ることができた。第2部隊は激しい噴火に遭い、熱い灰、岩、毒ガスの雨を浴びて全滅した。第3部隊は噴火が止むのを待って急いで前進し、無傷であることを喜んだ。

しかし、死んだ仲間が隊列を組んだまま、眠っているかのように横たわっているのを見ると、歓喜は落胆に変わった。全員が鉛色の灰に覆われていて、なかには身体を起して座り、妻子を抱き寄せていた者もいた。この災難で動揺したケオウアは、ペレに嫌われていることを確信し、戦いを続ける意欲を失った。

Destroyed Keoua Army

カメハメハは、偉大なる戦いの神クーカイリモクに捧げる巨大な神殿プウコホラを、コハラ地区のカワイハエ湾を見下ろす山の上に完成させつつあった。戦いの神の力がカメハメハに捧げられたと敵に思わせる心理作戦だ。カメハメハはケオウアへ使者を送り、自分に会いに来るよう伝えた。

ケオウアの艦隊は、助言者たちの警告に耳を貸さず、ハワイ島の西岸をカワイハエ湾に向けて北上。途中、浄化の儀式で船を停めると、カヌーの漕ぎ手たちに、武器を持つな、死を共にする覚悟を持てと伝えた。
浜で待っていたカメハメハは、海の中へ入り、浜へ上がって話をしようとケオウアに声をかけた。

ケオウアがカヌーから降りた時、気性の激しいコナのチーフ・ケエアウモクが飛び出して槍を投げた。それを契機に戦いが始まり、カメハメハが止める前に、ケオウアと一緒にカヌーに乗っていた者たちは殺された。ケオウアの遺体は生贄として神殿に運ばれた。彼の死はカメハメハの敵対者たちを狼狽させた。

Arrival of Keoua Below Puʻukohola

1801年、カメハメハがコナの首都カイルアで新しい国を治めている時、フアラライ山が爆発し、溶岩流が海岸の多くの村や養魚池を破壊した。聖職者が供物や祈りを捧げたが、溶岩流は広がり、大きな被害を及ぼした。カメハメハが神に捧げものをすることになり、マハイウラへ向かった。

神への最も尊い供物は、人間の命。しかし、それは仕事・戦争・政治の守護神クーにのみ行うことができた。ペレは人身御供を受け取らない。カメハメハが捧げることのできる最も尊い供物は、自分の身体の一部だ。彼は、自分の髪を一房切り取ると、ティの葉に包み、祈りを捧げながら溶岩の中に投げ入れた。

すると、すぐに溶岩流は止まった。人々は、それがカメハメハの力を示すものだと考え、この出来事によってカメハメハは大きな信望を得た。それ以降フアラライ山は噴火していない。
近年、この山の斜面を分譲地にした者がいるが、地質学者は、この山を、いつ噴火してもおかしくない活火山に挙げている。

Kamehameha Sacrificing to Pele

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