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ペレ④石を持ち帰ると災難に見舞われる

1819年にカメハメハが亡くなると、ハワイアンの信仰は廃止された。40年間の外国人との接触によって、神々への信仰が揺らいだのだ。
信仰の放棄を拒んだチーフたちは首都カイルアに向けて行軍した。しかし政府軍が応戦し、チーフたちの軍は敗れ、神々はマスケット銃の前に倒された。

数か月後、アメリカ人宣教師がやってきた。
古い信仰の断片は、地下に潜ったり、人々の習慣の中に保護されたりして、今日に残されている。
女性チーフのカピオラニは熱心なキリスト教改宗者で、新しい信仰の力を示すため、ペレに逆らう行動をとると決めた。彼女は人々を率いてキラウエア火口を訪れた。

「自分が殺されたら、ペレを信じ続けられるだろうが、もし無傷で済んだら、全員が唯一の神へ改宗しなくてはならない」
彼女は聖書の一節を読み上げると、ペレに許しを請うことなく、オヘロの実を食べた。キリストの神への信仰を示し、溶岩の中へ石を投げた。無傷で自宅へ戻り、人々の改宗を期待した。

Kapiolani Defying Pele

あるアメリカ人の船長が退職してマウナロアの山麓で牧場を始めた。ある洞窟で、敷物の上に置かれた変わった形の石を見つけた。彼はそれを持ち帰り、庭に置いた。ハワイアンのカウボーイたちは、ペレを崇拝するための神聖な物なので元の場所に返してほしいと懇願したが、彼は拒んだ。

要求に応じると、ペレの存在を認めることになるからだ。
マウナロアが噴火し溶岩流が牧場に流れ込んだ。ハワイアンは石を渡すように頼んだが、彼は断る。
溶岩流は彼の家に近づいた。ハワイアンは一緒に逃げるよう説得したが、彼は断る。家に煙が充満し溶岩の熱で熱くなる。彼は聖書を手に祈り続けた。

翌日、溶岩流は止まった。家は残り、彼は聖書を握りしめていた。
「わしは助かった。君達はペレをどう思う?」
「夕べ、あの石を持ち出して、しかるべき場所に戻し、チャントを唱えたのです。ペレは存在しないかもしれないが私達は友人のために何でもしたかった」
その後、彼は精神に異常をきたした。

The Man Who's Faith Was Strong

アメリカ人宣教師ウィリアム・エリスは1823年、ハワイの火山を訪れた。
「我々は空腹で喉が渇き、道端のオヘロの実をもぎとり、食べた。現地の人たちは、それを見るなり、やめてほしいと懇願した。オヘロの実はペレのもので、ペレに捧げて食べる許可を得るまでは、禁じられている。

我々は言った。地上の果実を所有する神はエホバだけ。このような状況で、この実を下さるのはありがたいことなのだ、と。
すると、彼らの何人かが言った。私達は怖いのです。ここを去るまでに災難が降りかかるでしょう。
我々は恐れを捨てて一緒に食べるように勧めたが、彼らは首を振り、黙って歩いた。

午後2時頃、キラウエア火口が目の前に現れた。彼らは火口の縁へ行き、手に持った枝を二つに折り、そのひとつを崖の下へ投げ、チャントを唱えた。
ペレよ、ここにオヘロの実があります。
あなたへ捧げ、私も食べます。
彼らは振り向き、この様に承認を得てから安心して実を食べるのだと教えてくれた」

William Ellis

エリス一行は、彼らに導かれてキラウエアのカルデラへ降りていく。
「驚きと畏怖の念で、我々はしばらく無言のまま彫像のように立ちすくみ、目は足元の深い穴に釘付けになった。すぐ前の地面が大きく裂けていた。裂け目は三日月形をしており、長さ3㎞、幅1.5㎞、深さ250mもある。

穴の底には、燃える溶岩の湖が、ふつふつと沸き立ち、赤く燃え立つようにうねっていた。様々な形や大きさの円錐形の島が湖から聳え立ち、灰色の煙の柱や輝く炎のピラミッドを絶え間なく噴き出していた。燃える口から吐き出された溶岩は、黒くごつごつした側面をうねりながら、溶岩の湖へ落ちていった。

驚きの感情が落ちつくと、我々はその光景を見つめながら長い間そこにいた。この世を創った畏れ多い存在がもたらす圧倒的な光景に対し、驚異と称賛の念が溢れた。その存在は、いつの日か火によってこの世を破壊すると示したのだ」
火山を発見したハワイアンはエリスと違い、そこに先祖ペレの魂を見た。

The South-West End of the Volcano of Kirauea, in 1823, sketch by William Ellis

日光に照らされてキラキラ輝く溶岩の美しさに魅せられて、訪れた人たちは、きれいな石を持ち帰りたいと思うかもしれない。
ペレの石を持ち帰った人には不運が降りかかるという言い伝えがある。ペレに対するどんな無礼な行為も慎むというハワイ的考え方から生まれたのかもしれない。

宣教師たちは、そうした考え方を事ある毎に侮辱し、対立を招く。宣教師ハイラム・ビンガムは書く。
「女性預言者のハカ(霊媒)は、自分をペレと呼んでいる。彼女は怒りながら、堂々とした足取りで、長い黒髪を振り乱し、興奮した顔つきで、両手に槍とカヒリ(羽根飾りのある王旗)を持って近づいてきた。

彼女は宣教師たちに『ペレに背いた』と言い、オヘロの実を先にペレに捧げずに食べたこと、火口に石を投げ入れたこと、ペレの髪の毛(火山の噴火の際にマグマの一部が吹き飛ばされ空中で急速冷却し髪の毛の様になったもの)のかけらを持ち帰ったことを責めた。彼女は宣教師たちに『帰るべきだ』と言った」

Portrait of Hiram Bingham I from ''A Residence of Twenty-one Years in the Sandwich Islands''

ハワイ火山国立公園には、溶岩などが入った小包が届く。それを持ち帰って以来、災難に見舞われたという悲しみに満ちた手紙が添えられている。
「同封した溶岩をペレへ送ります。それらは彼女のものです。持ち帰ったのは1937年、米陸軍にいた時です。これで私の運が変わるでしょう」

「災難が降りかかると警告されましたが、それを無視して、お守りとして持ち帰りました。それから5年間に自動車事故10回、仕事上の投機の失敗2回、失恋2回を経験し、同封した溶岩は、もともとあった場所にあるべきなのだと認めるようになりました。岩を山へ返してください。先にお礼を申し上げます」

「展示の中の、溶岩を持ち帰った観光客からの手紙を、私は面白がっていました。黒砂を詰めた小さなガラス瓶を持ち帰ってから、夫は2回入院し、職を失いました。クルマ、テレビ、いろいろな家電が故障し、これまで経験したことのない不運が続いています。今では私も言い伝えを信じる人たちの一人です」

Haleakala National Park shared a photo of a box full of rocks.

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