食べログ逆転勝訴報道だけではわからないアルゴリズムvs公正取引委員会の今後
食べログ訴訟の控訴審判決が出たが…
数日前にフォートナイト訴訟の件をnoteに書いたばかりですが、
1月19日には再び(今度は国内ですが)、独占禁止法に関する注目の訴訟について控訴審判決が出ました。
「食べログ」がアルゴリズムを不当に変更したために評価点が下がったことが客足に影響し大きな損失を被ったとして焼き肉チェーン店の運営会社がカカクコムに損害賠償を求めた訴訟です。
食べログの勝訴!と単純には割り切れないかも
今回の控訴審(東京高裁)判決は、食べログの独禁法違反(優越的地位の乱用)を認定して3840万円の賠償を命じた一審(東京地裁)判決を覆し、焼肉チェーン側の訴えを退けるものとなりました。
これを受け、大手新聞のサイトには「食べログ逆転勝訴」といった見出しが並んでいるのですが、
個人的にはこの話、単純に「食べログ(カカクコム)の勝訴!」ととらえることはできないと思っています。
※ちなみに本件判決に関する原告(焼肉チェーン)と被告(カカクコム)のコメントは、NHK記事によれば下記の通りです。
損害賠償請求が認められなかった=敗訴とは言い切れない
カカクコム側の「逆転勝訴」と報じられている大きな理由のひとつは、一審では認められていた損害賠償が控訴審(二審)では認められなかったことにあるでしょう。
ですが、独禁法訴訟における損害賠償請求は、もともとかなり難しいと理解しています。というのも、損害賠償請求においては、損害の存在やその金額を立証するのは原告側(この場合は焼肉チェーン店)の責任となってしまうのですが、その証拠を手に入れるのは至難の業なのです。
※実際、原告(焼肉チェーン)側の勝訴とされた一審判決でも、実は、損害賠償額については大幅に減額(約6億円→3,840万円)されています。
独禁法違反での損害賠償請求はそもそも無理ゲー要素が強いため、この件だけをもって原告側の敗訴とするのは違うのではないかなと思うのです。
アルゴリズム変更に関する違法性判断の根拠は一審と異なっているように見える
カカクコム側の「逆転勝訴」が報じられているもうひとつの理由は、被告のアルゴリズム変更について、控訴審が(一審とは異なり)「独禁法違反にはあたらない」と判断したことでしょう。
ですが、これについても、実は一審と控訴審(二審)とでは微妙に異なる判断をしているのではないかと考えられます。
朝日新聞デジタルの記事で筑波大准教授の平山賢太郎弁護士がコメントしておられるように、
一審では、カカクコム側がアルゴリズムに「チェーン店ディスカウント」を付していたことについて絞って判断されていたのですが(詳しくは、こちらの法律事務所さんの記事をお読み下さい)、なぜか控訴審(二審)では、アルゴリズムの違法性を判断する根拠を広げて(「『アルゴリズムの定期的な見直しや、それに伴い評価点が変動することはサイト上で公開されており、飲食店側も認識し得た』と指摘)」判断しているんですよね。。。
判決文が入手できないので正確なところを申し上げることはできませんが、各報道を見ていても、ここは一審と違う根拠で判断していると読めました。
重要なのはアルゴリズムに「不当な差別」が存在したか否か
実は、一審裁判にあたっては、裁判所が公正取引委員に対して意見を求め、これに対して公正取引委員会は「公審第650号」文書を提出し、書面で回答しています 。
この文書の中で公正取引委員会は、独占禁止法の趣旨及び判断基準のひとつとして差別的取扱い」とは何を指すのかについて丁寧に解き、「不利益」や「不当」はこの文脈で判断されるべきことを説明しています。
公正取引委員会がここまで本件訴訟に力を入れた(協力した)理由は、彼らが近年、IT技術を使った独禁法の摘発ノウハウを手に入れようとしているためだとの指摘もあります。
「アルゴリズム/AIがもたらす競争上のリスクに関していち早く知見を集積し、適切に対処していかなければならない」
公正取引委員会は、今、来るべきビッグテックとの(事前規制を含む)対決に向けて精力的に動いているように見えます。
2023年10月には、公正取引委員会は、巨大IT企業からの人材引き抜きに乗り出していることが報道されていました。
人材獲得は重要です。かつては立件が難しいと言われたGAFA向けの(反トラスト法)訴訟が2021年頃から急に増えたのは、過去にデジタル広告企業の幹部であった人物が反トラスト法研究者となったことがきっかけとの報道もありました。
2021年10月の時点で、公正取引委員会の委員長は記者との懇談会で次のように述べています。
アルゴリズム/AIがもたらす競争上のリスクに関して、いち早く知見を集積し、適切に対処していく――この決意こそが、食べログ訴訟の一審判決に反映されたとみるべきでしょう。
そして控訴審(二審)においても、「優越的地位を利用した不利益な取引」があったことは少なくとも認められています。
「採点は権力である。その行使には責任が伴う。(しかし)インターネット上の紹介サイトには採点があふれている」と、坂井豊貴・慶応義塾大学教授は指摘します。
考えれば考えるほど、判断の難しいことがらが多い「評価」。それをばっさりと独自の(しばしばブラックボックスな)基準で格付け・点数化して"わかりやすく”提示する――ESG評価機関と企業の関係にも見られるこの新たな「権力」とどう対峙していくか。
2024年、本件裁判の行方とともに公正取引委員会の動向にも注目しておきたいと思います。
以上、サステナビリティ分野のnote更新1000日連続への挑戦・103日目(Day103)でした。それではまた明日。
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