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【読書日記】まとまらない言葉を生きる / 荒井裕樹

2023年6月25日 読了。

普段小説ばかり読んでいる自分が、小説以外の本も読みたいなと思って手に取ったのがこの本。

最近は自分の心との向き合いがとても大切だと思っていて、小説も良いけれどそれ以外の、哲学や心理学、社会に関すること、そういった本を読んでみたいと考え始めていたのだけれど、何から手を付けてよいかわからずにいた。

そんなとき、noteでたまたま見つけたとある選書サービスが気になって利用させていただいた。
神保町のシェア型書店で書棚を運営している、「いつか読書する日」さんの選書サービスだ。

選書サービスと言えば1万円で選書した本を送ってくれるというのをよく聞くけれど、こちらの選書サービスはなんと無料で行っていただける。本は自分で購入する必要があるが、3冊だけ選書までをやっていただけるサービスだ。

Googleフォームでカウンセリングを受け、好きな本や興味のあることを回答すると、3冊選書していただける。
要望として、「小説ばかり読んでいるけれど、自分の心と向き合えるような小説以外の本が読みたい」ということを伝えたところ、今回紹介するこの『まとまらない言葉を生きる』という本を選書いただいた。

3冊選書していただいた中でも一番読んでほしいのがこの本、とのことだったので、即注文して読み始めた。
とてもしっかりと選書・紹介をいただいたので、近いうちに必ずこちらの書棚に赴いて本を購入させていただき、少しでも還元させていただきたいと思っている。
(お礼として本の感想もお送りさせていただいた。本当にありがとうございました。)

さてこの本は、「言葉が壊されている」という現代の状況に対し、文学者である著者が警鐘を鳴らすという内容。

「言葉が壊されている」というのは若者言葉だとか略語だとかそういうシンプルな問題ではなくて、もっと概念的な、簡単に説明できない問題に切り込んでいこうとする挑戦的なテーマだ。

たとえばSNSの発展によって、憎悪表現に出会う頻度が増え、都合のいい言葉の意味は拡大され、「人を黙らせる言葉」がどんどん力を増していく。本来は社会の問題であるべきはずのことを個人に押し付けて攻撃する。これも一つの「言葉の壊れ」による問題である。

特にわかりやすく共感できたのが「自己責任」という言葉だ。この言葉の意味の拡大されっぷりは確かにすごい。
女性が性暴力に遭うのも自己責任、いじめられるのも自己責任、貧困に苦しむのも、子育てに苦労するのも、鬱になるのも自己責任……。本来は社会の問題であるべきことを、「それって自己責任ですよね?」と個人に押し付ける圧力的な言葉として「壊れ」てきている。

こういった「人を黙らせる言葉」は、「他人の痛みへの想像力を削いでいる」ということも問題として書かれていて、読んでいて大きく首を縦に振った。
この本では特に掘り下げられていないが、個人的に「想像力」というのはとても大切なキーワードであると前から考えている。SNS社会が奪っていったものは「想像力」だと自分は思っていて、今の人たちには想像力が圧倒的に足りていないと思う(自分も足りていないので偉そうに言えることでは決して無いけれど)。

新井英樹の漫画『ザ・ワールド・イズ・マイン』では、ユリカンという日本の首相がテレビ中継で「想像力が無いものは馬鹿だ。」と挑戦的に発言し、炎上するというシーンがある。
この発言はとても本質を突いていると思っていて、自分の中に常に突き刺さっている考え方だ。

新井英樹『ザ・ワールド・イズ・マイン』の1シーン

人の痛みが想像できない、他人にかかる迷惑を想像できない……そしてSNSは人間そのものの存在を想像できなくさせている。
自分が普段から考えている問題と、この本で描かれている内容とが繋がり、より具体的に言語化してもらえた感じがあり、改めて深く考えさせられた。

この本では問題をただ取り上げるだけではなく、筆者が出会ってきた運動家たち(特に障害者運動に携わる人たち)などの、とても重要な言葉を引用して、そこから考える機会を読者に与えてくれる内容になっている。

一つ興味深かったのは、日本語には「純粋に人を励ます言葉は存在しない」という話だ。
たとえば「頑張れ」は時に無責任にもなるし、叱咤する際にも使われる。「大丈夫」は「いえ、自分は大丈夫です〜」と距離をとる言葉としても使われる。どんなシチュエーションでも100%励ましの意味を持つ言葉は日本語には無いらしい。

しかし、無いからこそ真剣に想像力を働かせていくべきだと筆者は述べている。「存在する言葉」が都合よく使われすぎて壊れてきている中で、そういう「無い言葉」を想像していくことが大切だと言う。

(余談だけどこの章で川上未映子の『ヘヴン』が取り上げられているのは、小説好きとして「おっ」と嬉しくなった。好きな小説なので……)

かなり前に読んだ、詩人・最果タヒさんのエッセイ『きみの言い訳は最高の芸術』で、「比喩表現というのは意味をぼかすためではなく、比喩でしか到達できない意味を示すためにある」と言うようなことが書いてあった記憶がある(うろ覚えなので間違えていたらごめんなさい)。

言葉で簡単に表現できないものでしか示せない意味というのがあって、それが例えば人を励ましたり、救ったりする、今の社会にとっての大切なヒントになっているのかもしれない。

この本自体に明確な回答はないので自分も綺麗に感想がまとめられず、書いてあることをただ紹介するような感想になってしまったけれど、他にもたくさん考えさせられることが書いてあってたくさんメモを取り、とても考えさせられた。
まさに自分の考えを整理して向き合わせてくれる、自分が求めている本だったので、話は戻るけれど選書してくださった方にはとても感謝している。

他に選書していただいた本もぜひ読んでみようと思うが、みなさんもこういったジャンルの本で何かおすすめあればぜひ教えてください。

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