【映画】シック・オブ・マイセルフを観てきた

シック・オブ・マイセルフ /2023

シグネの人生は行き詰まっていた。長年、競争関係にあった恋人のトーマスがアーティストとして脚光を浴びると、激しい嫉妬心と焦燥感に駆られたシグネは、自身が注目される「自分らしさ」を手に入れるため、ある違法薬物に手を出す。薬の副作用で入院することとなり、恋人からの関心を勝ち取ったシグネだったが、その欲望はますますエスカレートしていき――。

シックオブマイセルフ公式HPのあらすじより

観る前の宣伝を見た時の感想なのだけど、承認欲求と異常なまでの自己愛、そのテーマの追求に病気(薬の副作用によって病気を自演する)って題材が絡んで最高に不謹慎が過ぎる映画だなぁと思った。ジャンルも観る前段階で調べる限りコメディだとかホラーだとか、もう内容が予測できない怖い物観たさで観に行ってしまった。

以下ネタバレなのだけど、なんか暗めの感想なのでサブカルでポップな部分を大事にしたい人はブラウザバック推奨かな。

真面目な事を結論から言うと、病気とは何か、そして人格障害(サイコパスのほうかも)は病気として扱わなくてよい物なのだろうか?というのがうっすら最後に問いとして残る映画だった。

ネットのスラング的な意味での承認欲求とか何者か論みたいな話というより、本当に病的な少しでも自分の意見が通らないと癇癪を起したり嘘をついたりという小さい我慢ができない気質という生々しいキャラクターがヒロインのシグネだと思う。確かに彼女は中盤に同情を集める為にネットも使うし障碍者モデルになった後は周りの人間を見下したりもする。でもそのはじまりは身近な人の関心をひきたいという物ばかりで、ネットが人を狂わせたとかというのがメインの話ではないのだと思う。
そもそも相手の立場になって考えるとかそういう事が全くできないのに自分の事をもっと見てほしいと実行する努力(異常行動)は想像を超えた事をしてしまうとかいう病的部分のある人間の話でこういう人は実際にたくさん居るって事まで考えると真面目に観てしまうというか。都合の良い副作用のでる薬の乱用っていう映画的フィクション設定以外のシグネの行動は実際にこういう事やる子居たなって事が多く、正直もう二度と関わりたくないと心から思う反面、そういう人に苦しさが無かったかなんて簡単に言えないので。

作中シグネの対比として病気のカウンセリング自助会的なシーンや、障害を前向きに受け入れモデルをする子がでてくる。これは持論でありふんわりした話なのだけど、病気や障害になるというのはやはり相当辛い。その中で病気や障害のある自分自身を受け入れ、また周囲の無理解の中であったとしても自身を信じ自虐せず、治るではなく病気や障害と共に生きていく事を受け入れ自分なりの普通をきちんと得るというのが大事だと思ってる。
作中のシグネには病気という自覚がなくその当事者性を何度も問われたり疑われたりする。でも物語の最後でシグネはたぶん病人なのである。話の途中で馴染む事ができなかった自助会グループで最後は他人の話ではなく自身の苦しみに向かい合う姿で終わる。それは副作用が残っている病人でもあり、なんであんな事をしてしまったんだろうという心の病人でもあると思う。最後付近は急に死が怖くなったというよりは全てを失ってやっと自分がどんな取り返しのつかない事をやってしまったか気づく、そういう涙(いや涙でてたかハッキリ自信もって思い出せないけど)なんだろうなと思った。

若い頃はこういう人間の痛々しい雰囲気をテーマにした作品をヤバいと思いつつ楽しむのはあったなと。共感にしろ反面教師にしろ色々考えたり、少しアングラな物が好きっていう事で気持ちがなんとなく少し背伸びした気になったり。逆に歳をとってしまうとこういった気質も本人の意思でこうなったのだろうか、遺伝等の個体としての個人差や環境、そういった物を全て無視していいのか、でも理由があれば他者に無意識だからといって加害的であることは許されるのかとかずっと考えてしまうんですよね。なので物語って出会うタイミングってのも大事なのかもしれないなとも思うのでした。

若干どうでもいい話なのだけど私は椅子に座ってると足が痛んだり痙攣するタイプの人間だ。5年以上前からずっと続いていていろんな診療科もまわったけど原因がわからないので映画館での2時間というのはなかなか大変だったりする。常に痛みに気を取られるというのはなかなか大変なのだけど具体的な病名が無い以上は体質なので誰かに理解を求めるというのが難しくちょっと辛い。
映画の中盤の自助会で緑色の服の女性がシグネの愚痴話にしびれを切らして言う言葉がある。アナタの病気は目に見える形だからよいわねって。現実の世界では絶対口にしてはいけない言葉。でもちょっとだけその気持ちがわかるから少しだけ泣いてしまった。
痛みや辛さは目に見えない。だから辛いというのならばそれが重いか軽いかは他人が勝手に判断するべきではなくまずはその認識に寄り添うべきである、私自身はそう考えるようにしてる。
なのでシグネみたいなタイプに対しても最初から何も聞かずに拒絶すべきかって考えてしまう。結果ろくなめにあわない。だから映画の最後で元友達がこれでもかってシグネを罵倒して去っていく。これも私が今までの人生で上手く言えなかった言葉なので、展開としては辛いシーンだけどこれがハッキリ言えるって言うのが羨ましくてやっぱり少し泣いてしまった。
現実じゃないから言える言葉があってフィクションだから多少の不謹慎が許される。その中に日頃表に出せない感情に近い物を感じて癒されるってのもあるのかもしれないなと。

とはいえやはり人に勧めれる作品かと問われると盛大に困る作品だなと。アナタの共感性に対する思い次第で観た感想が変わる映画だと思う。人によっては時にコメディ、時にホラー、場合によっては悲劇であったり勧善懲悪のスカッと映画だったりすると思う。なので人にすすめるのはなぁ……となる。それ以前に人によっては共感性羞恥(ヒロイン側でも迷惑かけられる側でも)が爆発して観てられない可能性まであるのでいろんな意味で自己責任でどうぞという感じです。一番最初に書いた通りこの問題って大事な問題だとは思うんですよ。万人にオススメかどうかは別として個人的には観て良かったです。



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