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Xジェンダーの胸オペ その後

 閲覧ありがとうございます。一年半以上間が空いての更新です。
 ありがたいことに前回の記事を読んでくださった方から、公開後一年以上たった今でも「スキ!」がちょこちょこ来ています。
 私の経験が少しでも誰かの参考になっていること、嬉しく思います。

 今でも反応が来るということは、やはり一定数胸オペに関する情報を求めている人がいるということでしょう。
 なのでこの記事では、前回の記事よりももう少しカジュアルに胸オペに関する実体験や、胸オペ後の気持ちについて情報をシェアしたいと思います。



胸オペ直後を振り返る

めちゃくちゃ痛い

 私は現在、都内の大学に通う大学三年生。胸オペをしたのは大学一年生の五月。直後は動けないのでGWに合わせて日程を組みました。
 もう二年以上前になりますが、手術前と直後がどんな感じかを振り返ります。

 手術に関しては麻酔をかけるので手術室に入って、なんかいろいろ機械をつけられたところまで覚えています。消毒用の何かなのか上半身に濃茶色の液をべったり塗られて「なんだこれは!」と思った記憶(笑)。
 そして先生が私の胸に、マジックペンでちょんちょんと印をつけていく。
 先生になんか言われて、意識がスーッとなくなりました。

 手術後はとにかく体が動かなかったです。というのも、手術後は胸部をバンドでぐるぐる巻きにして圧をかけ固定するからです。
 「入ってたものがなくなったから、そこの空洞を押さえつけてくっつけているのかな?」と思って、動きづらさに耐えていました。乳頭壊死とかも怖いし。
 痛み止めが効いている間はマシですが、切れ始めるとやっぱり痛くて、痛み止めを追加します。手術から起きたばかりだけど眠ってた方が痛みを感じないし時間もすぎるし楽でした。

 胸の脇からはドレーンといって血液をためるパックみたいのが右と左で一つずつぶら下がってます。胸の中に血液が溜まらないように外へ出して受け止める用です。

 あと地味に人生初の尿道カテーテルだったのでこれもストレスに。(そんなことは言ってられないけど)
 尿道にぶっ刺さった管に、「いや、これ本当に排泄できてる!?」(できてます)「これ逆流してるんじゃないの!?」(してません)とアワアワしていました。

日帰り手術の多さ

 胸オペする病院を選ぶために母と何件か病院を巡りました。そして感じたのはどこも日帰り手術で承っていることでした。

 胸オペを受ける人は確かにもともとの身体は健康な人です。だからニュアンスとしては「なりたい自分になるための手術」=整形みたいな分類になるのだと思います。

 多かったのは、手術を受ける→近くのホテルに自分で泊まる→翌日再来院の流れ。抜糸&ドレーンを抜くため、手術翌日来院の必要があるのでそれまでホテルに泊まってください、ということ。

 当時の私は色々調べてそれがメジャーであることを知っていたので「まあそんなもんでしょ」と思っていましたが、母親からしたら「とんでもない」といった感じだったそうです。

 受けた本人が振り返って思いますが、あんな状態で一人で、あるいは同伴してくれる人がいたって宿泊施設まで移動できたもんじゃありません
 胸をがっちり固定しているからか、実感では首もろくに動かせない。術後すぐに歩くなんて、相当厳しいですよ。車の振動でもウッてなります。

 もしこれを見ている人で、どこの病院にすればいいかわからない人がいるのなら、一つの規準として「入院させてくれるところ」を探してみるのはいかがでしょうか。
 規模の大きな病院になるとは思います。私が手術を受けたところも名前は有名な病院で大きなものでした。
(それでも入院のためのベッドは質素だし、部屋もせまめ。病院の一室が「術後の一泊用」って感じなのでしょう。でも、だからこそ個室でした!)

胸オペ後~

 数日して胸のバンドを外していいってなってから、初めて鏡で胸を見た時、私は「わぁ~! きれ~い」みたいにはなりませんでした。

 手術のダメージで胸部全体に内出血の痣が広がり、紫と黄色で胸が変色しています。形よりも色にギョッとし、「早く治まってくれ」と願いました。もちろんそれもしばらくしたら綺麗になるので大丈夫ですよ。
 他にも乳首から出血、かさぶたができるなどして私はいちいち驚いていましたが、一週間後の健診でも「順調」と言ってくれました。

 しばらくすると動けないほどの痛みがなくなり、今度は胸の表面が神経痛のようにたまにピリッとする、という風に痛みの種類が変わってきました。それでも私は軽度で、GW明けからは大学に電車で通えています。
 リュックとか斜め掛けバッグとかは避けてハンドバッグでいきました。

 その頃でも依然として乳首周辺の感覚はなく、歯医者さんで麻酔をかけた時みたいに触っても、触る指側にしか感覚がありません。
 でもなんか痒い気がして掻いてみる、掻いても全然気持ち良くない、なんやねんって思うなど(笑)
 感覚は一年もたたないうちに徐々に戻ってきました。二年以上経った今では完全にあります。

胸オペ後の日常①乳首について

乳首の大きさ(持論)

 日常ってほどでもないんですけど、胸オペをして気付いたことがあります。胸オペからしばらくして自分の平らになった胸とその上の乳首を見ていると、こう思ってきました。

「あれ……私の乳首大きくないか?」

 胸オペは中の乳腺を切除して平らにするので、基本的に乳首には何も手は加えられません。
 そして重要なのが、「乳首・乳輪の大きさは乳房の大きさに比例する」ということ。もちろん個人差はあれど、胸の大きい人はそれに相応しいサイズの乳輪・乳首を持っているのです。たぶん。
 少なくとも男体の持つ乳首が女体の持つそれよりも大きいとは考えられません。

 手術をする前、私の胸はD~Eカップほどあったと記憶しています。つまりその女体サイズの乳首が、ぺったんこになった男体サイズの胸にそのままやってきているので、術前は気にならなかったはずなのに、術後に「あれ大きくない?」と感じるのは当然のことなのです。

 もっと大変なのは少し肥満気味の人とか下垂気味の人とかでもともと大き目なものを持っている人です。そういう人は多くが「乳頭縮小手術」も併せて受けることを検討します。
 もちろんその手術は乳首に手を加えるので、壊死のリスクも胸オペより高まります。

 私は、「まあこういう乳首があってもいいだろう」と思い、大きさは気にしなくなりました。

乳首の傷跡

 私の場合、手術痕は両乳首の下半周(私は勝手に南半球と呼んでいる)とドレーンを刺していた脇のところにちょこっとの四か所ついています。
 ドレーンの痕は些末なものなので、もう右の痕はどこだかわからなくなりました。気にしないでいいです。

 乳首の南半球に残った傷跡は目視できます。そしてわずかに盛り上がりも残っています。
 そのことで気付いたことがあります。まあ正直どうでもいいっちゃどうでもいいことなんですが。

 私、重度の猫背でして常に前に丸まっているのですが、その姿勢の時、胸の肉もそれに合わせて内側に傾きますね。そうすると少し盛り上がっている南半球の痕に乳首が乗り(?)、なんかそこにシワ? 折れ目? が爆誕します。左胸だけ(笑)。

 写真を乗せて、矢印でも描きこんで説明したいのですが文章で失礼します。想像力を働かせてください。

 理想の平らな胸が手に入ったのだから、こんなことに気を取られるなとは思いますが、なんか驚きと笑いで衝撃だったのでシェアさせていただきました。

~解決策~

  • 猫背で胸の脂肪が圧迫されて起こるので、猫背を直し胸を張る

  • 右乳首はそうならない→右乳首の方がしゃっきりしていて硬めだから。なのでふにゃふにゃな左乳首をしゃっきりさせる()

  • 筋トレをして胸部の脂肪を落とし、胸筋を肥大化させる。→傷跡に乗っかる脂肪が無くなる&筋肥大でハリが出る。

……筋トレ頑張りましょう! 男でも女でもそれ以外でも、正しい姿勢や適度な運動は大切ですからね。

胸オペ後の日常②生き方・振る舞いについて

心の性別、胸オペの有無と社会的振る舞いは本来無関係

 胸オペをして私自身が一番実感・再認識したこと。
 それは心の性別(性自認)と身体の性別・胸オペの有無などの身体的特徴と社会的な振る舞いはあんまり関係ないということですね。

 だいぶ極端な例を出すと、女性として生まれ、私は女性だと自認し、いわゆる女性らしい振る舞い・ファッション・口調をする、というのは一貫性があり「わかりやすい」です。
 さらにはそこに「恋愛の傾向」などの要素を加えたりして。


①身体の性別(あるいは身体的特徴)
②心の性別
③表現したい性別
④好きになる相手の性別(あるいは恋愛傾向)

 この四つの要素は本来独立したものであり、一貫性がある必要はありません。そのことはもう多様性の時代の今はポピュラーな考えとして広まっています。

 だから「女性らしい人」「男性らしい人」というのと同じように、「LGBTQらしい人」「Xジェンダー、ノンバイナリーらしい人」みたいなのを目指す必要など皆無です。
(まあ普通にそういう人のほうが多いと思いますが)

 前の記事でも述べましたが、心の性別に関してはもはや自称の範囲です。基本的にはそれにどうこうは言えません。(※犯罪行為に関わる場合を除く

めっちゃスカート履いてます

 これだけだらだらと話して、何が言いたいかというと、私は胸オペする前もした後も、めっちゃスカート履いています
 しかもナチュラルなやつとかじゃなく、ミニのフレアスカートとか、フリルついたブラウスとか。好きだし、似合ってると自負しています。
 胸元はもちろんぺったんこですが、私らしくてむしろうれしい。ハイウエストスカートとか履くとより胸がないのがわかり、他人からしたら違和感があるかもしれませんが、じゃあ胸になんか詰めますか? と言われればそれは私らしくないし望んでいないのでやりません。

 もともとそういう趣味なんです。胸の喪失に趣味嗜好は影響を受けないでしょう。

 彼氏もできました。素直に話して理解してくれています。(しばらくして普通に別れました)
 一人称も私だし、髪もボブヘアです。名前も変更してないし、男女でグループ分けがあるのなら、それにいちいち刃向かったりしません。

 胸オペをした非女性的な身体も、私の在りたい姿であり、そのうえでの私の趣味嗜好や社会的な振る舞いは「もはや女性的」と思われるでしょう。
 でも別に好きなようにやっているだけなので、無問題です。

「じゃあもうお前、Xジェンダーなんじゃなくて、ただ胸が嫌いな女性なんじゃないの?」
 と言う人がいるかもしれません。
「もしそうだったとて……」
 としか答えようがありません。胸が嫌いだったから胸を取った__もちろん熟考のうえですが__それでいいじゃないですか。私が女性か否かなんて、無関係ではないけど絶対的直接性がなくてもいいと思います。
 一応私はXジェンダー・ノンバイナリーという名称をお借りして自分をそれかもなと思い自称していますが、自称しているというだけに過ぎません。
 もし私が本当にXジェンダーじゃなかったとて、私の生き方がごろっと変わることはないです。

弊害と言えば……?

 Xジェンダー、ノンバイナリーとしての生き方を選択しながら、世間一般的に女性らしいとされる振る舞いをすることによって挙げられる弊害と言ったら、「察してはもらえない」ということです。

 例えばFtM(女性に生まれたが心は男性)の人がいたとして、男性的に振舞っていたら、カミングアウトを受けていない人でも、「なんかあの人、すごくボーイッシュだな? トランスジェンダーってやつなのかな?」って察するかもしれません。
 だからカミングアウトするぞってなった時に少し楽かもしれませんね。
「前からそんな気はしてた(笑)」みたいな感じですんなり受け入れてくれるかもしれません。

 そうではないと、察してはもらえません。私の周りにいる多くの学友が、私のことは「ふつうに胸の小さい女」と思って疑わないでしょう。だからカミングアウトの必要が出てきた時に、前述の例よりは驚くと思います。
「なんだよ、女だと思ったから好きになったのに! 告白取り消しだ!」
 みたいのは大いにあるでしょうね。

 避ける方法としては、そうやって振舞いながらも「こんな感じだけど、Xジェンダーで胸オペもしてるんだ」って公言することが挙げられます。個人の判断ですね。
 私は仲のいい人にしか言っていないけれど、隠しているつもりはありません。

まとめ:今の心境

 胸オペをした安心感からなのか、自分の性別にこだわりが無くなってきました。

 中高生の頃は、「名前も変えて、服もメンズしか着ない! Xジェンダーらしい髪型! うんぬんかんぬん」とか息巻いていましたけれど、あれも思春期のアイデンティティの追及だったのでしょう。名前に自分を当てはめに行ってました。

 小さい頃から言葉遣いをあえて悪くしてきたのは、そっちの方が女性らしさを消せると思ったからです。足を開いて座ったり豪快に笑ったりしていました。

「でもそれって美しくないよな……性別とか関係なく下品な人ってどうなの?」
と思い、今は自然に振舞っています。

 胸オペをして私は解放されたと感じます。女性的な胸が私から無くなったという安心感が、もう無理に豪快に振舞う必要などないと思わせてくれました。可愛いお洋服もメイクも好きにできます。
 でも本当はお気づきの通り、胸オペ済みでもそうでなくても、Xジェンダーらしさを追求する必要などなかったのです。当時はそれが自分のアイデンティティだと思い執着し、自分の趣味に蓋をしていたのだからよくなかったなって思います。

 私の性別に関する追及や関心は以前より薄れました。胸オペをしてやっと私の頭のリソースが、本来気にしなくていい性別へ割かれることがなくなったのです。
 今は自分の好きなファッションを心から楽しんだり、研究者になり論文を執筆するという夢のために勉強したり、たまに趣味の小説を書いたりしています。
 もはや性別のことをじっくり考える事は少ないです。毎日お風呂で鏡を見て純粋に、美しい身体だなとは思いますが(笑)。

 私の中で性別に関する議論は一区切りついたのです。やっと。

 後半はマインドの話になりましたが、前半の具体的な話とも併せて参考になると嬉しいです。
 胸オペする人もした人も、そういう人が周りにいる人も、一当事者のリアルを感じてくれたら嬉しいです。

 長くなりました! 読んでくださりありがとうございました。

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