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『ジェロニモおめでとう短歌会』を終えて

昨日は『ジェロニモおめでとう短歌会』でした。米米CLUBさんの『O・ME・DE・TORE』を出囃子に入場。待ちきれずに自ら「おめでとうございま〜す」と言いながら出てきてしまい、イベントの方向性が危ぶまれましたが、皆様のおかげで無事に終えることができました。ゴウヒデキさん、鈴木晴香さん、水野葵以さん、山田航さん(五十音順)から祝電をいただきました。ほんとうにありがとうございます。ご来場の皆さま、配信でご視聴の皆さま、ありがとうございました。嬉しかった言葉を書き起こします。

「ものすごいマンション」を読んで

リップグリップ倉田さん(以下/倉)
「まず、めちゃくちゃ「芸人っぽいな」というのがありました。表現とか、言葉遣いなのかな。これがフリップに書かれていたとしても、面白い。情緒を排した言葉の選び方をしていて、クールだなと。作家や漫画家の方が、いいものを書いていると書き物と自分の表情がリンクしてくると聞いたことがあるんですが、このイベントの告知画像ありますよね、眼光が鋭すぎるやつ。

あの顔で書いているのかな、とか想像しました」

レッドブルつばささん(以下/レ)
「僕も全く同じことを思っていて。めちゃくちゃ「芸人っぽいな」と。僕が好きなお笑いをやってるんですよ……この短歌で。文章で笑える、ニヤッとするものとして、「同じ言葉を繰り返す」っていうのが好きなんですよね。3首目の

最初から横で撮られていないから横にしたら横になる動画だ
鈴木ジェロニモ「ものすごいマンション」

とか、同じ言葉を付け足していくのが僕は面白いと思った。僕はTwitterでよくやるんですけど。芸人のTwitterっぽさも感じるというか……ボイパしてるからかなあ? 鈴木ジェロニモはボイパが得意で、ボイパのネタがあるんですけど。ボイパも、音の繰り返しじゃないですか。それがニン(人柄)になっているというか。音の繰り返しを、もしかしたら鈴木ジェロニモ本人が面白いと思っていて、そういうのが自然と短歌に表れているのかなあと思ったり。特に好きだったのが、

押し付けるよりも導く表情が上手い役者の脱毛広告
鈴木ジェロニモ「ものすごいマンション」

上から順番に言葉を追っていくじゃないですか。「押し付けるよりも導く表情が上手い」まで読んだときに、何だろう、って思うんですよね。何を表しているんだろう。「役者の」……ああ、役者なんだ。でも何だろう。そして「脱毛広告」で、一気に世界がブワッてひろがるというか。ああ、こういうことだったんだ、みたいな。読んでてめちゃくちゃ気持ちよかった。だんだん視界がひろがって明瞭になっていく感じが、面白い」

倉「「導く表情」ってのも良いですよね。こういうのを、わりと僕は「芸人っぽいな」と思うんですよ。なんて言うんですかね、わざと……カタい、のかな?」

レ「そういう、お笑いの表現ありますもんね。わざと堅苦しく言う、みたいな。太宰治とかと近いかもしれないですね。太宰も、大したことないものを、めちゃくちゃ難しく言って、おおごとみたいにしてるけど、ただ犬が嫌いなだけ(『畜犬談』)とか。そういう話があったりするんですけど。なんか、「文豪のお笑い」でもあるというか」

倉「文豪のお笑い??」

レ「文豪のお笑い……感もちょっとあるというか。やっぱ面白いですね」

井口可奈さん(以下/井)
「繰り返しの歌が(短歌研究2022年7月号に掲載された「ものすごいマンション」30首からの10首抄に)全然採られていないのが気になって。ジェロニモさんのリフレインというか、繰り返しについて……なんで短歌で繰り返しが用いられるかというと、その言葉の意味を変えていく、こと。そのために、同じ言葉だけどこっちでは違う意味になるね、っていうふうに使うことが多いと思うんですけど。ジェロニモさんのリフレインは、何も意味が変わらないんですよ。

ハワイアンカフェのメニューに右手のアロハと右手のアロハと右手のアロハ
鈴木ジェロニモ「ものすごいマンション」

ぜんぶ、意味が変容しないですよね。それがすごく面白いと思って。

MサイズをM、サイズと言ったから正しく渡されるMサイズ
鈴木ジェロニモ「ものすごいマンション」

物体は変わっていない。っていう歌がいっぱいあるので、それを(選考委員にも)認めて欲しかったなあっていう気持ちがあります。最後の2首もけっこう好きで、終わり方としてすごくきれいだなと思って。最後の歌は、景の想像の仕方は難しいけれど、

誰かがわたしを応援しているのがわかる 58分に始まるテレビ
鈴木ジェロニモ「ものすごいマンション」

ちょうどに始まるんじゃなくて、少し前に始まる。そのぶんの「はやさ」というか。はやく、自分を追ってくれている人がいる。売れる前に応援してくれている人がいる、ということかもしれない。読みどころがある歌だなあと思いました」

倉「どういうテーマなのかな、って僕なりに考えてみたんですけど。ジェロニモさんの歌って「役割」に目をつけているなって。最初の、

びっくり を前の人より多くしてLINEのそういう流れに送る
鈴木ジェロニモ「ものすごいマンション」

グループラインとかでそういう流れがあって、その一員を担う、じゃないですけど。歯車になる、というか。流れのいちパーツという役割を自分に課すことで、自分の存在を主張する、みたいな。ジェロニモくんもTwitterにあげていた1首ですけど、

わたしから小学生が逃げていくゲームが始まって続いてる
鈴木ジェロニモ「ものすごいマンション」

傑作! これは傑作ですよ。おじさんから逃げるみたいなゲームって、みんな自分が小学生のときにちょっとするじゃないですか。僕はジェロニモくんと同い年なので、この状況に対して受ける感覚というか……そのゲームが始まったことが衝撃的、というか。自分がその立場になるんだ、みたいな。そういう驚きと、めちゃくちゃオッサンじゃん、みたいなアイデンティティの危機がやってくる感じ。これがすごくて。そのゲームが始まった後に、いくつか選択肢はあると思うんですよ。巻き込まれないように逃げるとか、「やめなさい」って言うとか、できるはずなのに、この主体は何も行動を取れずにいる。だからそのゲームが続いてしまっているんですよ。そこに手出しできない自分、みたいな。これはすごい、孤独というか、無力感というか。おれってそういう「役割」になっちゃったんだ、という」

レ「役割というところに落とし込むなら、確かにそうですね。けっこうショックかもしれないですよね。でもこの1首を読んだとき、鈴木ジェロニモから小学生が逃げていくシーンが、鮮明に写って。似合いすぎている。ニン(人柄)にあっている。めっちゃ想像つくのよ、これが」

倉「あの顔でね」

レ「あの顔で」

倉「しかも、

わたしから逃げ切った小学生がものすごいマンションに帰った
鈴木ジェロニモ「ものすごいマンション」

という。ウソでしょ!? ウソだろ!? って思いますよ。「ものすごい」ってのも良いですよね。高層マンションとか、タワーマンションではなく、「ものすごいマンション」に帰っていく」

レ「平仮名なのも良いですよね。漢字の「物凄い」だったら重々しすぎる、というか。平仮名だと、かわいらしい。「すげぇ〜」みたいな表情が想像されて、ファニーになりますよね」


上記はほんの一部分で、見どころの尽きないライブでした。アーカイブをぜひ見てほしいです

うれしくて山になりました

大きくて安い水