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障がい者のアートが地域を豊かに   ~NPO「ぷかぷか」に横浜文化賞 文化・芸術奨励賞~              <市民メディアの現場から Vol.2>                  B-maga 2023 11月号

❝福祉❞という枠組みの❝ご褒美❞
ではなく、<文化・芸術>として
評価された文化・芸術奨励賞

 第72回(令和5年度)横浜文化賞(※1)の受賞者が
9月22日に発表され、横浜文化賞文化・芸
術奨励賞に障がい者就労支援事業所で
あるNPO法人「ぷかぷか」が選ばれた。文
化・芸術分野の奨励賞を福祉の事業所や
団体が受賞するのは、横浜文化賞では初
めて。関係者は画期的なこととして受け止
め、世の中の変化を象徴した賞になったと
喜んでいる。
 「“福祉”という枠の中での“ご褒美”と
しての表彰ではなく、〈文化・芸術〉として
評価された、というのが、何よりも素晴らし
いです」…こんなお祝いの声が寄せられた
という。ぷかぷか理事長の高崎明さんは
「今回の受賞の本質を表現している気がし
ます。広く社会に通用する、普遍的な価値
として評価されたということです」と述べて
いる。
 そう、行政を含めた「世間」からは、障が
い者就労支援事業所と位置付けられた所
で繰り広げられるアートな取り組み…。1人
ひとりがアーティストとして認められ、地域の
人たちとフラットな関係で、文化活動に一
緒に取り組んでいる姿に注目が集まり、こ
れからの「共生」のモデルとしてこの奨励
賞が贈られたのだ。
 横浜文化賞の「過去の受賞者一覧」を
見ると、これまで社会福祉の分野で活躍し
た方々に横浜文化賞は贈られてきたが、
文化・芸術奨励賞はいわゆる「芸術家」の
方々に贈られている。

創作活動を通してつながる
障害のある人たちと
地域の人々との共生の輪

 ぷかぷかの受賞理由は、次のように書
かれている。
 —「障害のある人たちといっしょに生きて
いく」を理念に、横浜市緑区の団地でカ
フェベーカリーやお弁当屋、アートスタジオ等
の福祉事業所を運営するN P O法人。障
害のある人がアート作品制作や演劇ワーク
ショップなどの創作活動を通じて、地域の
人々と共生の輪を広げている。障害のある
人がプロの芸術家や地域の人と共に創り
上げ、出演する演劇は、表現する喜びと創
造的な舞台美術などエネルギーにあふれ、
大きな感動を呼ぶ。絵画や歌、演劇から生
まれる自由でいきいきとした自己表現は、
「そのままのあなたが一番魅力的」との、
人々へのエールともなり、今後の活動の広
がりが大いに期待される—

 高崎理事長のブログ「ぷかぷか日記(タ
カサキ日記)」にこんなことが書かれている。
 〈ぷかぷかは開設当初、「障害のある人
達が作ったものだから買ってあげる」という
関係ではなく、「おいしいから買う」という関
係の中でやっていこう、つまりは社会の中
で通用するおいしさで勝負しようと思いまし
た。…中略…結果、区役所などでの販売
の際は行列ができるほどのお店になってい
ます。
 演劇ワークショップも、「障害のある人達
がやってる舞台だから見てあげる」といった
関係ではなく、「芝居の舞台としておもしろ
いから見る」という関係の中でやってきまし
た。…中略…ぷかぷかさんたちを相手の進
行ですから、予定どおりいくことはまれで、こ
の予定どおりに行かないところにこそ、ぷか
ぷかさんと一緒にやっていくおもしろさがあ
ります。そのおもしろさが発表会の魅力に
なっています〉
https://www.pukapuka.or.jp/2023/10/08/8225/

 高崎さんらは通所の障がい者の皆さんを
「ぷかぷかさん」と呼んでいる。そんな「ぷ
かぷかさん」たちに、テレビの番組などマス
メディアのコンテンツに、もっと登場してもら
う時代になっていると感じている。
 東京2020パラリンピック競技大会に向
けて、WOWOWが制作した「パラリンピック・
ドキュメンタリーシリーズ WHO I AM」をご
存じだろうか。2016年から始まったメダリスト
を主人公にした番組は、ABU賞 テレビ・ス
ポーツ部門最優秀賞を受賞するなど、高
い評価を得た。「WHO I AM」のような番
組がもっと注目され、身体の障害だけでな
く、知的や精神の障害でもフラットな関係に
なれる番組づくりが増えてほしいと期待し
ている。
 今回の横浜文化賞の受賞をきっかけに、
年明けには「ぷかぷか」を広く知ってもらう
イベントも準備中だ。本稿を読んだメディア
の皆さん、まずは取材に来てみませんか。

(1※)横浜文化賞:横浜市の文化の向上及び発展に
寄与することを目的とし、横浜市の芸術、学術、教育、
社会福祉、医療、産業、スポーツ振興等の文化の発
展に尽力し、その功績が顕著な人々に「横浜文化賞」
(昭和27年度〜)を、また、文化・芸術の分野で現在
活躍中の若年層又は中堅層で、さらに今後の活躍が
特に期待される人々に「横浜文化賞文化・芸術奨励
賞」(平成3年度〜)を贈呈している。

鈴木賀津彦(すずき・かつひこ)
東京新聞(中日新聞東京支社)の記者として長年勤めた経験を活かし、定年退職後に複数の大学で非常勤講師としてメディア情報リテ
ラシーなどの授業を担当。特にデジタル・シティズンシップ教育に取り組む。記者時代から、誰もが発信者になる時代のメディアの在り
方として、市民メディアの役割を重視、NPOなどで市民メディアプロデューサーとして活動。横浜市在住。

【写真】演劇ワークショップで演技する「ぷかぷかさん」たち(横浜市緑
区で)

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