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#83 彼女とチョコレート工場

■とにかく明るい彼女

研究室に2年生の女子が来た。
いろんなことで行き詰まっているという。
真剣な眼差しだった。

日頃の様子を見ていると明るくて「よくしゃべる」「よく笑う」「よく食べる」

複数の友達といるときは常に輪の中心にいる。

もしかして、根拠に乏しい自己肯定感の鎧を身にまとい虚勢を張っているのかな。
ふとそう感じる瞬間が何度かあった。

だから、訪ねてきた時「ああ、やっぱりな」と思った。

それにしても、嘘だろう?と思うくらいよく笑う。

授業中、一番前の席から私の顔をまじまじと見ながら、私がちょっとでも変なことを言うとケラケラ、ケタケタ笑う。

「プププっ!」と吹き出し、隣に座っている友達の肩をパン!と叩きながら声を押し殺してグフグフと笑う。

ついには笑いが止まらず「ブヒブヒ、フンガフンガ」と変な音を出す。

「もしかして、オレは笑いのセンスがあるのか?」と勘違いしそうになる。

学食で食事をしている私の姿を見つけると声をかけてくる。

「センセー、席をご一緒してよろしいですか?アハハハ、イヒヒ、ウフフ」

「食事の時くらい落ち着け!」と言うと、

「私って落ち着きなくてうるさいですか・・・・」と急に表情が曇る。

あっヤバイ、傷つけちゃったかな・・・・

「いやいや、うるさかぁないけど、笑うツボがどこにあるか読めなくて気になるんだ。ウハハハウハハハ・・・・」

「ヌハハハ、わたし笑い出すと止まらないんです。
病気かもキャハハ!」

「困ったもんだな。俺が炭酸飲料を飲んだときの “ しゃっくり止まらない病 ” みたいなもんか」

「ちがうちがう、キャハハ、フンガフンガ、先生おもしろすぎ!」

いや、何が面白いんだか・・・・

■こころの置き場所はどこにある?

彼女は
「ここではないどこかへ行きたい」と言った。

話の筋からして物理的な場所ではなく
「心の置きどころ」を探しているのだろう。

サードプレイス(第三の居場所)が必要か。

「理想的な自分の立ち位置とか、心地よい心の置き場所って、どこにあるんだろうね・・・・」

「どこにあるんでしょうね‥‥」

こころの根を張る広さと深さは環境に左右され、根を太く長くするには「出会い」あるいは「出会いなおし」が必要だ。

時間もかかる。

みんな違って、みんないい。

ティーチャーはティーチングしたがり。
指導したがり。
教えたがり。
導きたがり。

とりあえず解決することは横っちょに置いとこう。

ひたすら傾聴。
共感には至らないかもしれないけど、思いを受け止めることはできる。

アップダウンが激しく、ポジティブワードとネガティブワードが交錯している。
彼女は彼女の言葉でできている。

ネガティブワードを丁寧に拾い集めて、ひとつひとつ否定しポジティブ思考に変換してみた。

「キミにはキミのよさがある。自分のご機嫌の取り方が上手だね。
でも、無理にご機嫌なフリしちゃいけない。
迷ったとき、答えは必ず自分の中にあるもんだよ。
それを探さなきゃね」

「・・・・・・・」

いやな沈黙の時間が流れる。
マズかったかな。
適切な言葉が思いつかない。

「そうだ!チョコ食べる?」
「えっ?」
「お土産にもらったチョコレートがあるんだ」
「センセー、チョコ食べるんですか?」
「人間だもの。チ、ヨ、コ、レ、イ、ト・・・・」

「ぬははははぁ!ヒックヒック!いただきます!ぷぷぷぷっ」

例のアレが始まった。

「センセーも大変ですね。私みたいな学生を相手にして・・・・クックックッ」
「人と向き合うことで飯を食ってるからな」

彼女の涙が悲しみなのか、喜びなのかはわからない。

確かめる必要はない。
笑いで補えないストレスホルモンのデトックスは涙が手伝ってくれる。

ティーチングよりコーチングやカウンセリングマインドが必要だと考えていたのに、究極はチョコレートがキラーコンテンツか・・・・・

チョコレートに勝てない自分。
修行が足りないな。

研究室を「人間再生工場 “ 虎の穴 ”」改め「K1とチョコレート工場」にしたほうがいいかもしれない。