蝿をはらうな【短編小説】

「おい…!冗談だろ…!やめろ!飛び降りなんてよせよ!ここ、校舎の屋上だぞ!20mはあるぞ!」

『うるせぇなぁ!…俺だって…もう……………無理なんだよ…』

「何があったんだよ!言ってみろよ!」

『…俺、好きな子がいたんだ。』

「幼なじみのミノリちゃんか。」

『うん…俺たちのバスケ部のマネージャーとしてチームを支えてくれて、気づいたらミノリのことが好きになっていたんだ…
ある日の練習後、俺とミノリが2人きりになる機会があったんだ…俺はそこで賭けに出た。』

「何をしたんだ?」

『よくあるやつだよ。「ここで俺がシュートを決めたら、付き合ってくれないか」っやつだよ』

「バスケ部の人ってみんなそれやるの?」

『多分やる』

「そうなんだ…で、成功したの?」

『ああ…スリーポイントラインから放ったシュートは綺麗な弧を描いてネットに吸い込まれていったよ…でもな…』

「でもなんだよ」

『俺がドヤ顔でミノリの方を振り向いたんだ。そしたらミノリ、何してたと思う?
顔の前を飛んでた蝿をはらってたんだよ…』

「はぁ?」

『「ちゃんと見てた?」って聞いたら、
「ごめん、蝿が目の前飛んでてよくわからなかったわw今回の話は無しねw」
とか言い出す始末だよ…』

「なんでそんな女好きになったんだよ」

『わからねぇ…惹かれちゃったんだよ。今でもミノリのことは忘れられないんだよ…ミノリと付き合えないなら俺は死んでも良い…飛び降りさせてくれよ…』

「そんなんで命を無駄にするなんて馬鹿げてだろ!思い直せ!」

『もううんざりなんだよ…!勉強はできない、スポーツも人並み、顔は平均以下、大した取り柄もない。唯一の生きがいだったミノリも無くなった…もう俺には…何も残ってないんだよ…』

「俺がいるだろ!」


『…え…?』


「いつだって俺がいる!俺はお前とこれからも楽しい思い出を作っていきたいんだよ!今までもそうだったじゃんか!」


『…………』


「なんでここで終わりにしちゃうんだよ!もっともっと遊び足りないじゃんか!お前と一緒にカラオケで歌いたい曲があるんだよ!お前と一緒に見たい映画があるんだよ!」



『…………………』



「だから…飛び降りなんて……やめてくれよ……」



『……………………………』



「…………聞いてる?」


『ごめん、顔の前飛んでる蚊はらっててよく聞いてなかったわ』

「蚊はらってんじゃねえよ!!」


〜Happy End〜

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