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デザイナー、初めての転職活動のはなし


転職はこれまで何度か経験しているけれど、一番最初の転職が最も印象的だった。新卒から5年働いた会社を退職して、ステップアップするつもりでの転職活動。意気込んでまっさらな履歴書に向かってペンを走らせていく。氏名、住所、学歴….。
資格の欄に「普通自動車免許」とだけ書いたとき、漠然とした不安が降りかかってきた。自分は今まで何を成し遂げて、何ができるのだろう?

美大を卒業後、東京ビックサイトや幕張メッセなどで開催される展示会のブースデザインを請け負う会社に就職した。上司も良かったし、5年働くうちに主任になって、部下もできて後輩もできて、今振り返っても結構良い環境だったと思う。ただ仕事に慣れてきたことで「おれってずっとこれやってるのかな…」という気持ちが湧いてきていた。

展示会のブースは仮設なので、できるだけ安い素材で空間を作ることになる。そうすると、壁紙とかカッティングシートとか、決まりきった素材で空間を構成することになる。一方で建築業界では金属やタイルなど様々な素材を使うことができる。つまりデザイン提案の幅がぐっと広がるのだ。「もっと色々なことをやってみたい」そう思って転職を決意した。



転職活動は難航した。
展示会デザイナーは結構ニッチなジャンルなので、潰しが効きにくい。展示会場がガラパゴス化していて、そこに適応して、そこでしか使用できない独自ルールで動いている。でも一歩でも外の業界に出てみれば、その技術はちっとも役に立たない。



結局、ホテルを建てるベンチャー企業に転職し、そこでホテルのデザインを学ぶことになる。しかし先輩も上司も怖くて、極限の睡眠時間とパワハラで4ヶ月しか持たなかった。最後は適応障害で、会社に近づくほど目眩が激しくなり、道中倒れて救急車搬送だった。その日で即日、会社は退職となった。


それほどのことがあっても、初めての転職に後悔はない。
あのときもっとこうしていたら、違う道を選んでいたら…とも思わない。今となっては全部必要な要素だったと思える。

あのとき踏み出したからこそ、転職という選択肢をそれからも持つことができた。一度転職をした人間は、転職に対する過度な抵抗がなくなるのは大きなアドバンテージだと思う。2、3回転職すれば、もう抵抗なんか全然ないのだ。退職のハードルも低い。「嫌ならやめるかな〜」くらいのライトな感覚だ。


結局3度の転職で今の会社に辿り着いている。今の会社は仕事が面白いし、色々良くしてもらってると思う。これからもできたら長く働きたい。でも一方で僕は「転職する」という切り札を持っている。「ほんとうに辛かったら、いつでも辞めさせてもらいまーす!」という気楽さが、救いだ。


「ひぇ〜」なんてバカみたいな声を出しながら、前に進んでいきたい。


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