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相続が争族になった日 3 違法登記 家族の裏切り

 父が亡くなったとき猛烈に悲しかったのは間違いないのですが、一方でほっとしている自分もいました。

「ああ、これでやっと実家から、母から解放される」

 振り返ってみれば、母と私が争族人となった瞬間でもありました。

 相続手続きの相談は知り合いの司法書士に少しずつしていましたが、土地の合筆と共有名義をどうするかについて、やむを得ず保留にいったん保留にしました。

「私の土地のことでなんで娘のあんたに指図されなきゃなんないのよ!」

 怒り狂った電話を掛けて寄越した母に、罵詈雑言を浴びせられました。

「話にならない。切ります」

 そう伝えて通話を切り上げ、相続人である弟と妹にもその旨伝えました。

 家庭裁判所で検認を受けた正式な遺言書がありました。そして私は遺言執行人でした。いつでも遺言を実行にうつすことはできました。けれども、家族全員が合意するべきだと考えていました。父に遺言を託された者としての誠意でした。

 相続税の申告だのなんだの心配も少しはありましたが、概算についてはこれも知り合いの税理士に相談済みでした。終活カウンセラーとして活動していたことがこんなに早く役に立つとはと、運命の皮肉を思いました。

 そしてこの間に、母は地元の行政書士に自分の要望を伝え、インチキな、やってはいけない作業に手を染め始めていましたのでした。それは、父の遺言書を無視するということです。本来、行政書士には土地の名義に関する業務を行うことはできません。それは司法書士の領域です。しかしこの行政書士は、これも後から発覚したことですが、この違法業務の常習者だったのでした。

「姉ちゃん、あのさ、悪いんだけどもう全部終わったよ。名義変更も登録も全部おふくろが行政書士と終わらせた。だからさ、もう諦めてよ」

 ある日、弟から電話が掛かってきました。私は耳を疑いました。

「諦めるってどういうこと? だって、遺言書があるのに」

「遺言書なんて関係ないって行政書士が言ってるよ。妻の権利は強いんだってさ。法定相続通りに進めたって」

 続いて妹からも電話が掛かってきました。泣いていました。

「お姉ちゃん、お姉ちゃんの味方はもういない。お母さんが親戚中に言いふらして悪者にしてしまった。私がいくら言っても聞いてくれないの。お姉ちゃんにひどいことされたって、あちこちに電話をかけまくってる。皆それを信じてる。お姉ちゃん、力になれなくてごめん」

 あまりのことに、しばらくは頭が回りませんでした。

 ともかく行政書士に確認をしなくては、と思い、妹から名前を聞き出し、電話を掛けてみました。

「ああ、手続きしましたよ。お母さんから頼まれましたから」

「だって、検認を受けた遺言書があるんですよ? 知らなかったんですか?」

「そんなの私は関係ありませんよ。頼まれたからやっただけですから。文句があるんだったら裁判でもしたらどうですか?」

 信じられませんでした。
しかし、どうしようもない法律家とどうしようもない母親が、引き寄せ合うようにくっついた結果という現実が、ここにありました。

 この行政書士を、私は許しませんでした。この後、彼には一年間の業務停止処分が下ります。

続く


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