呼ばれる男
私の夫は少々変わった体質なので困っている。
夫は自分では「霊感全く無しの零感」だと思っているようだが、私は夫を「無自覚の呼ばれ体質」だと思っている。
夫が行きたがる場所やお気に入りの場所は、なぜか心霊スポットだったり事件・事故で人が亡くなっている場所や跡地だったりする。勿論、夫はその事を知らない。
「あの霊園の中の道を抜けると近道できる!」
夫がドヤ顔でこう言うので、私は念の為にネットでその霊園を検索してみる。
「そこの霊園、心霊スポットらしいよ。ほら」
「えっ? マジで?」
夫はドヤ顔から一転、悲しい顔になる。
今から10年ほど前になるが、深夜に職場から自転車で帰宅中、なぜか急にいつもとは違う道を使って帰りたくなった夫が、ブラブラと住宅街を走っていて警官に職務質問された事がある。帰宅した夫からその話を聞いた私が、夫が警官に止められた場所を調べてみると、数日前に殺人事件のあった家の前だったという事もあった。
当時住んでいた自宅からわりと近い場所であり、かなり大きなニュースにもなって騒がれたのだが、
「殺人? 俺、そんなニュース知らんわ~! いきなり警官から職質でビビったわ! いつも同じ道通ると飽きるから、なんか今日はあそこ抜けて帰ろうと思っただけなんだけどな」
と夫は驚いていた。
一緒にドライブや旅行に行った時も、夫は「呼ばれ体質」の本領を発揮する。とある海岸の崖の上にある展望台、青い空、青い海、気持ちの良い海風、流れる白い雲。写真撮影するには最高の場所である。
「景色いいな~! 海綺麗だな~!」
嬉しそうにデジカメで写真を撮りまくっている夫を見ながら、
(あれ? この場所・・・先月テレビのニュースで見た気がする・・・)
私がその場所に違和感を感じて場所を検索すると、やはりこの場所で車の転落事故があり死者が出ている。先月、ニュースで流れていたので覚えていたのだ。
「先月ここで車の転落事故があって亡くなった人いるよ」
私がそう声を掛けると、夫は写真撮影を止めて車に乗り込み、
「俺、ここで事故あったの知らんわ・・・。写真撮りまくったけど変なモノ写ってないよな? 変なモノ写ってたらどうしよう・・・」
と不安そうに聞いてくるが、次の目的地に着く頃にはすっかり忘れて、また写真を撮りまくっている。
今日も夫と車で遠出したのだが、お盆が近いせいか夫の「呼ばれ体質」は全開モードだった。
「あ~、なんかそこに公園の入口あるから寄って休憩する?」
運転しながら夫が言うので、私がカーナビを確認すると「○○霊園」と表示されている。
「公園じゃないよ、霊園の入口だよ、そこ」
「えっ? 公園じゃない?」
しばらく車を走らせて、また夫が、
「ああ! 公園! 入口ある!」
と言うので、私がカーナビを見ると「〇〇墓地」と表示されていて溜息が出る。そこから1時間ほど走ってまた夫が、
「あっ! 今度こそ公園! 緑が多くて公園っぽい!」
と言ったので、ここで私がキレた。
「だから! 公園じゃなくて霊園! 少し先の看板見なさい! 〇〇霊園入口って大きな看板見えてないの?! ナビ見てもお墓のマークと〇〇霊園って表示されてるよね?! なんで普通の公園とかパーキング素通りして霊園に入ろうとするの?! お墓! わかる? お墓なの、あそこは!」
私が怒ると夫は、
「俺ヤバイかなぁ? 自分では意識してないんだけどなぁ。なんか緑が多くて気持ち良さそうな感じするし。やっぱり呼ばれてるんかなぁ・・・俺・・・」
と言って不安そうな顔をしていたが、どうせすぐにまたそういう場所で写真を撮ったり、眠くなって仮眠を取ったりするんだろうと思い、私は何も言わずに放置しておいた。
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