以前、私には「視えたり感じたりする」Kという友人がいた。

「なんかあの場所が気持ち悪い。いるよね？」

「ここに来ると首や背中が重くなる」

「ここを通るとなんか鳥肌が立ってくる」

友達同士で集まるとKはよくそんな事を言って他の友人を怖がらせたり気持ち悪がらせたりしていたが、次第に「霊が視える」と言い始めた。

「あの歩道橋の上に男の子の霊がいる。ほら！視えるでしょ？」

「そこの電柱の影から髪の長い女の人がこっちを見てて気持ち悪い！」

などと言って、怖がりの友人を泣かせたりすることもあった。Kと遊んでいても霊や心霊スポットの話ばかりするようになったので、他の友人達は徐々にKと距離を置いて付き合うようになっていった。

　私がKと遊んだり連絡を取り合わなくなったのも、丁度そんな時期だったと思う。

Kに会って霊の話をしたり聞かされたりしたした後に、なぜか体調を崩したり、立て続けに嫌な出来事があったりしたからだ。一度や二度なら偶然で片付けられる話だが、Kに会った後や電話で会話した後に必ず何か起こり、それが何度も何度も続くので流石に偶然で片付けられなくなってしまった。

ある時は原因不明の高熱と嘔吐で二日間苦しみ、ある時は横断歩道を渡る為に信号待ちしていた私に自転車が突っ込んできて右足を打撲し、ある時は車を運転中に、またも信号待ちで停車していた私の車に、後ろから中年女性が運転していた車が追突するという目にも遭った。他にもまだ色々な事があったが、たくさん有り過ぎて打つのが嫌になってきたので省かせていただく。

　Kとの友人関係を完全に断つきっかけになったのは、久々にKに会って話した時だった。

ｋは相変わらず、

「あそこに女の子の霊がいるでしょう？　あそこ通ると寒気がしてイヤなんだよね」

「あの道ヤバくない？　男の霊が睨んでて怖いから通りたくないな～」

などと話しかけてきたが、Kが視えるという女の子の霊も睨む男の霊も私には視えなかった。

私に視えていたのは、Kが視えると言う度にゴソゴソとその場所で蠢く真っ黒い塊。

黒カビがたくさん集まって人の形になったようなその塊は、Kが「視える」「感じる」と言う度に嬉しそうにゴソゴソと動いてKに寄って来て、彼女の足元から伸びている影の中にゆっくりと入り込んでいった。

　実はKは「感じられる」だけで「視える人」ではなかったのだ。霊が視えていないのに視えると言っていただけだった。

「霊が視えるとか感じるとか言うのは危ないから止めたほうがいいと、あれだけ忠告したのにまだ言ってる。本当にどうなっても知らないからね、これが最後の忠告だからね！　暫くKちゃんとは遊ばないから！　電話もしないからね！」

私が怒ってもKは納得できないようで、

「なんで～？　だって視えるでしょう～？」

と不満そうに言ってきたので、私はその場を離れてからKに私が視たモノを説明するしかなかった。

「あんたが視えるって言った場所にいたのは霊じゃないから！　あんたが視えるって言った場所で私が視たのは真っ黒な塊だから！　あの黒い塊はね、言ってみれば悪い気の塊なの！　恨みとか嫉妬とか、怨念とか邪念とか、飢えとか痛み苦しみ、そういう悪い感情や悪い気が溜まってる場所で、視えるとか感じるとか言葉に出して言っちゃうと憑いてくるの！　だから視えてないのに視えるとか言っちゃダメなの！　あんな負の感情の塊に寄ってこられてもヤバイだけで良いことなんてないし、体調悪くなったり怪我したり、嫌な事あったりして怖いから！　実際に私達はアンタに会ったり電話で話したりした後に被害被ってるんだからね！　熱出たり事故ったり、わけわからない影に付き纏われたりで被害被ってるからね！　アンタに寄ってきて憑いてるモノが周りにも悪い影響出して、Yはアンタと会った後にいつも体調悪くなるって言ってるし、Nちゃんはアンタと電話すると電話の向こうからゴボゴボ変な音して気持ち悪いって！　だからみんな最近アンタと距離置いてるじゃん、気付いてるよね？　人の気を惹こうとして霊が視えてないのに視えるとか言っちゃダメ！　こんな事いつまでも続けて取り返しの付かない事になっても知らないからね！」

そう説明してもKは、

「嘘じゃないって！　本当に視えるんだから！　アンタこそ視えてないんじゃないの！」

と私に怒るので、こちらも馬鹿馬鹿しくなってしまい、

「心配だからここまで説明して忠告してるのに、まだ言うの？！　もう知らん！」

とだけ言ってそこでKと別た後、二十年近く経った今日まで彼女との付き合いは一切無い。時々その頃に一緒に遊んでいた共通の友人と電話で話してもKの話題は全く出て来ないので、その後Kがどうしているかもわからない。

　皆さんの周りにも、Kのようにすぐ霊が「視える」「感じる」と言っている人はいないだろうか？　私の知る限り本当に霊が視えたり感じたり出来る人は、家族やごくごく親しい友人くらいにしかその事を話していないと思う。

　もし、視えていないのに「視える」と言っている人がいたら、Kのように良からぬモノが寄って来やすくなったり、友人や知人から距離を置かれてしまう可能性もあるのでどうか御注意ください。