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2022年の3冊をえらんでみよう(小説編)



2022年は120冊の小説を読みました。目標が月10冊、年間120冊なのでギリギリ達成という感じですね…2022年の私の読書事件(?)としては…衝撃的だったのは大好きな伊坂幸太郎の「マリアビートル」がハリウッドで映画化されたこと(清々しいくらいハリウッドでした…あすこまでぶっ飛んでいれば文句はないです…)と、寺地はるなさんの作品と出会えたことです。

基本的に新刊はあまり読まないので、なるべく近年の本を選びましたが2022年に発売になった本ではなく、2022年に私が読んで印象に残った3冊です。

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2022年の3冊

「箱庭の巡礼者たち」恒川光太郎

【あらすじ】
洪水の後、流れ着いた箱を見つけた少年はその箱の中に異世界が広がっていることに気づく。そこには人々が暮らしており、独自の文化、世界があり、箱の中だけの時間が流れている。クラスメイトの絵影にだけその事を教えた少年は二人で箱庭世界を観察し続けるが…

【感想】
元々恒川光太郎さんが好きで一通りは読んでいるのですが、なかなか筆が速くて…読むのに追いついてないのも数作あり、これから読めると思うと嬉しい限りです…!普段の少し物悲しさのある不思議感もありつつ、いつもと少し違うテイストも感じられます。

あらすじに付け加えると、絵影は箱庭の「観察者の視点で見ているからこそわかる事件」を捨て置けず、かつ自身は現実世界で家族に虐待されているのもあり箱庭世界に降りる事を決意します。そこから物語が動き出します。

短編6編、断章5編からなる連作短編集ですが、独立した短編としても成立していて断章である「物語の断片」で全ての世界が繋がっていることがわかる造りです。1章を読み始めた時には想像もできないほど物語がふくらんで、繋がって、読み終えた時には1冊の本で様々な世界を旅したような、読書ならではの楽しさがありました。一大幻想奇譚と呼ぶにふさわしい作品です。


「ガラスの海を渡る舟」寺地はるな

【あらすじ】
幼い頃から落ち着きがなく、コミュニケーションが苦手で他人の気持ちに共感したり「みんなとおなじ」ができない兄、道。一方で何事でもそつなくこなすが、それゆえに突出した「なにか」がなく自分の個性を見つけられない妹、羽衣子。

正反対の性格からか互いに苦手意識を持つ二人は、祖父の死をきっかけに兄妹でガラス工房を引き継ぐことになるが衝突が絶えない。そんな中「ガラスの骨壺が欲しい」という変わった依頼が入り…

【感想】
冒頭でも書いた通り、寺地はるなさんは人気作家さんですがタイミングが合わなかったのか今まで読んだ事がなかったのです。この「ガラスの海~」で大変気に入って2022年だけで寺地さんの本を10作読んでいます。まだまだ読んでない作品があるので楽しみです…!

寺地さんの作品は家族の物語が多い印象ですが、その中でも「不器用」だけの一言では片づけられない、なんというか生きるのが上手じゃない人、そしてその周りの人たちを描くのがとてもうまい作家さんだなぁと思います。周りに合わせない(合わせられない)からこそある真っ直ぐさは、そうでない側、それに振り回される側からすると羨ましくも、妬ましくもあるというか…家族だからこそわかってほしいけど、家族だからこそ分かり合えない、みたいな。

強固である、あってほしいと思う家族の絆も、実際はガラス細工のようにちょっとしたはずみで壊れてしまったり、それでいて落としても割れない丈夫さがあったり…人間関係の脆さとガラス製品がリンクしている感じも素敵だと思います。実直で丁寧な文章だからか、負の感情を書いていても辛さはあれどじんわりと心にしみるというか…違うからこそぶつかるけど、理解し認め合う事もできる。とても読みやすく優しい気持ちになります。


「宙ごはん」 町田そのこ

【あらすじ】
宙には育ててくれている「ママ」と産んでくれた「お母さん」がいる。厳しくも愛情いっぱいで育ててくれるママ「風海」と、美しくイラストレーターとして活躍するお母さん「花野」。お母さんが二人もいる宙は「さいこーにしあわせ」だった。

しかし宙が小学校に上がる時、夫の海外赴任で同行する風海の元をを離れ花野と暮らすことになる。待っていたのはごはんも作らず、世話もせず、授業参観日には恋人とのデートを優先する花野との日々だった。そんな生活に手を差し伸べてくれたのは花野の中学時代の後輩で商店街のビストロで働く佐伯だった。

【感想】
去年も選んだのにまた町田さんの作品を選んでしまった…だって好きだから…デビュー作の「夜空に泳ぐチョコレートグラミー」で一目惚れ(一読み惚れ?)して以来、ずっと追っている作家さんです。

簡単に言うと、産みの母の花野(カノさん)の妹、風海が「ママ(育ての親)」として育てていました。妹としてカノさんの奔放っぷりをわかっていたので「育てられるわけがない」と宙を引き取ったのです。宙から見ると叔母ですね。ただ二人の母以上に佐伯、こと、やっちゃんの存在感がすごいです。読んだ人にはわかってもらえると思う…やっちゃんの…懐の深さというか…この…(ネタバレになるので地団太を踏むしかない)

主人公・宙にとって忘れられない食べ物と共に描かれる物語。宙の成長に伴って視座が変わることで、見えなかった周りの大人の色々なことが見えるように、わかるようになる事。そしてそれによって諦める事、楽になる事が丁寧に描かれていて、その成長が頼もしいというか辛いというか…ただ宙が成長していく中で大人たちも成長し変わっていきます。カノさんとやっちゃん、カノさんと風海などの関係性も変わっていきます。

読んで思ったのは「母親に向いていない」と言い切るカノさんの代わりに面倒を見てくれる人がいて良かったね、と単純に言い切れないな…と。たまに登場するこどもたちの方が大人よりよほど大人っぽい時あるんですよね…大人にならざるを得なかったというか…前半と後半でかなり印象が変わりますし、やはり町田さんの作品なので読み進めるにしたがってちょっとしんどくなります。ほのぼのお料理小説、とかではないのでお気を付けください…ただ、とても面白いですし、読後は前向きになれます。

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次点(3冊)

「あれは子どものための歌」明神しじま

【感想】
あらゆる傷を消し去る医者の秘密とは…?(「対岸の火事」)美声と引き換えに「どんな賭けにも負ける事のない力」を得た少女の運命は…(「あれは子どものための歌」)など、全5編が収録された連作短編集。久しぶりにしっかりしたファンタジーミステリを読んだなぁ~という嬉しさがありました。登場するキャラの視点によって5つの物語の色味が変わる様に思います。これがデビュー作なようなので次が楽しみです。


「栞と嘘の季節」米澤穂信

【感想】
高校の図書委員を務める堀川と松倉。ある放課後、図書室の返却本に押し花の栞が挟まっていることに気づく。その小さくも可愛らしい花は猛毒のトリカブトだった…前作「本と鍵の季節」がとても好きだったので続編嬉しい…!前作が短編集だったのに対しこちらは長編です。淡々とした空気感、シニカルな視点。全員がそれぞれに理由があってそれぞれに小さな嘘をついている。この作品から読んでも楽しめますが、前作のその後について少し触れているので読んでいた方が楽しめます。

「繭の季節が始まる」福田和代

【感想】
コロナ以降、新型の感染症が不定期に出現するようになり「繭」と呼ばれる強制的な巣ごもり期間が設けられるようになった近未来の日本の物語。すっかり自宅待機生活に順応した世界でも仕事として外出しなければならない人もおり、それが主人公である警察官のアキオです。

人々が家にこもっているはずの町で見つかる不可思議な死体や、全自動ビスケット工場への侵入事件。アキオは人気のない町を相棒の猫型警察ロボット「咲良」と共に駆け回って解決にあたります。文章が優しいのでほんわかしていますが、物語がコロナのその後が舞台なので、どうしても今の状況と照らし合わせて妙に色々考えてしまいますねぇ…「シェルター」などではなく「繭」と表現するのも絶妙。

ほぼ人のいない町に一人。繭に入れないからこそ繭に入れる人、繭の中が温かそうと思うアキオの気持ちなどが無理なく想像できる、今だからこそ余計に刺さる作品ではないでしょうか。相棒の警察ロボットが犬ではなく猫なのが、相方によってAI、人格(猫格?)が代わる気まぐれさと合っていて良いです。



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以上が2022年に読んで印象に残った本でした。皆様の読書生活に少しでもお役に立てれば幸いでございます。今年も面白い本に出会えるといいなぁ~

ちなみに読了本は全て「ブクログ」に記録してあるので興味のある方はどうぞ~(感想は書いていません)また、「この本も面白いよ!」などオススメの本がありましたら、お気軽に教えて頂けますと嬉しい限りでございます。皆様、良い読書生活を!

【2021年の3冊はコチラ】

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