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「ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』」4人が奏でる美しいハーモニー|舞台感想

 博多座でおこなわれた「ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』」を観に行ってきました。

この舞台は、ひとつの役に2人の役者が配されているWキャストの作品で、公演ごとに出演キャストが「チームBLACK」と「チームGREEN」でことなります。わたしが観たのはチームGREENです。

チケット料金の高さに二の足を踏んでいましたが、2018年の公演を観劇した母から「観て損はないよ」と背中を押され、気がついたら購入に進んでいました。経験者の意見ほど重いものはありません。


 作品のおおまかなストーリーは、60年代に世界中で人気を博した「The Four Seasons」というアメリカのロックンロールグループの結成から決裂までを丁寧に描いていくものです。

メンバーがひとりずつ語り部になって、過去にあった出来事をなぞっていきます。あらすじを話し終えた彼らが過去のシーンに飛び込んでいく瞬間は、テンポが良くとても見ごたえがありました。

物語はグループ名にならって、4つの場面で構成されています。

はじめに、グループ結成の要を担ったリードギターのトミー・デヴィートが結成前の話を軽快に語ります。アメリカンなジョークを連発しながらも、内容は地べたをはいずるような下積みの話です。それでもトミーの持ち前の明るさで、重苦しい空気は微塵にも感じられませんでした。

つぎにグループの成功の転機となった、作曲家でありキーボードのボブ・ゴーディオが「ザ・フォー・シーズンズ」の華々しい活躍を客席に伝えます。レコードが飛ぶように売れ、ラジオで彼らの曲が流れる日々が続き、ツアーであちこちの州を訪れます。

しかし、掴み取った栄光は長くは続かず、暗雲をのこして1幕が終わりました。

休憩をはさんではじまった2幕からは、ベースギターのニック・マッシが、グループにふりかかった苦難を冗談を交えながら話します。しかしその姿には寂しさがただよっていました。メンバーが次々と抜け、迫りくる困難にどうすることもできないようです。彼もまた、脱退を決めたひとりでした。

穴だらけになった「ザ・フォー・シーズンズ」がもがく様子を、ボーカルのフランキー・ヴァリが語ります。その中で彼自身も、家族を失うという深い喪失を味わいます。数々の試練を乗り越え、絶望を抱えながらもあがき続けて、ついにグループが再結成する日がやってきました。

3階建ての舞台セットのてっぺんに、真っ白なスーツを着た4人が立っています。目がくらむほどの照明を浴びながら、ともに大舞台に立てたよろこびをそれぞれが噛み締めていました。そんな彼らが晴れやかな顔で歌い上げる「Who Loves You」は、わたしたち観客の心に染み渡ります。

構成のうまさはもちろんのこと、語り部であるキャストの配置が巧妙でずるいなあと思いました。

途中、トミーが撒き散らした種でグループにひびが入るシーンがあるのですが、序盤で頑張る姿を観ているからこそ、トミーが悪いと切り捨てることができないのです。メンバーが抱える苦悩をわたしたちも痛いくらい感じられる、そんな舞台でした。


 劇中では「The Four Seasons」の作った曲が数多く流れます。物語にリンクした歌を、ときには2人で、またあるときは全員で、美しいハーモニーを奏でながら歌うのです。

彼らがどんな困難にあっても、どれほどの苦しみを経験しても、歌だけはきれいに舞台に存在していました。何があっても前を向き続ける、そんなメッセージをこの作品からは感じます。

どうかたくさんの人にこの物語が届くことを願って。そして出会えた奇跡に感謝を。全国をめぐってくれてありがとう!


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