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映画『ブルックリンでオペラを』をあなたは絶讃しますか? あるいは糞映画と見なしますか?

ぼくは後者です。だって人間心理への洞察が浅く、ロマンティックコメディなのにロマンスのせつなさ切実さを感じない。しかもプロットがあまりにもご都合主義で荒唐無稽なんだもの。(たしかにシェイクスピアの喜劇だって、むちゃくちゃな展開の作品もありますけどね。)ところがね、不思議なことに物語を紹介しはじめるやいなや、これがまるで超おもしろい映画みたいにおもえちゃう。したがって、読者のあなたは、どうぞお気をつけてこの文章をお読みください。


脚本および監督は劇作家アーサー・ミラーのお嬢さん、レベッカ・ミラー。物語の設定はーー。繊細で傷つきやすく才能あふれる小人のオペラ作曲家(ただし現在スランプ)と、背の高い美人セラピスト(病的な潔癖症で掃除大好き)の夫婦がいる。(まるで松本零士先生のマンガみたいなカップルですね。)舞台はブルックリン。どうです? これだけで物語が動きはじめそうでしょ。



美人セラピストのパトリシアは、夫のスティーヴンが創作に行きずまって鬱屈しているのを見かねてこんなアドヴァイスをする、「愛犬を連れて、目的を決めずに街をうろついてらっしゃい。生活パターンを変えれば、アイディアも生まれるわよ。」


スティーヴンはパトリシアのアドヴァイスにしたがって、しぶしぶ散歩に出かけ、午前11時にバーでウィスキーに手を伸ばす。そこでスティーヴンはタグボートの船長カトリーナと出会う。実はカトリーナはセックス依存症だった。


スティーヴンは彼女を題材にしたオペラを創作し、絶大な評価を得る。ところがこれを契機に、カトリーナは自分がスティーヴンのミューズであることを知って、結果スティーヴンはカトリーナにしつこくつきまとわれるようになる。スティーヴンはそれがめちゃめちゃうっとおしい。そのうえ、パトリシアはこの件に知り及び、スティーヴンとの婚姻を破棄し、あろうことか信仰に生きることを決意する!


さて、これと並行するサブプロットもまたあって、息子のジュリアンがテレザと恋愛関係にあること。テレザの父は、16歳のテレザがセックスしていたことを知って激怒、あわや裁判沙汰に。さぁ、どうする? ジュリアンとテレザ!


しかし、映画最後の20分間で、すでに物語から消えたパトリシアとテレザの父親以外は、全員一致団結して、希望的結末へと航海を進めてゆきます。


どうです? めちゃめちゃおもしろそうでしょ? ところが実際には(少なくともぼくにっとっては)まったくそうではなくて。なるほど、役者たちはみんな魅力的で演技も達者。ライティングもキャメラもいい。音楽もオペラのシーンもいかにもニューヨークの現代芸術らしくて好ましい。しかしねぇ、なぜか(少なくともぼくにとって)その結果は???



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