フルーツしか食べない男。一日青汁一杯で生きている女。なぜ、元気ハツラツ?

なるほど、けっして近代栄養学だけではヒトの健康は理解できないんですね。このふたりのびっくり人間の健康メカニズムはいったいどうなっているかしらん?


京大農学部卒の中野瑞樹さんは、持ち前の実験精神を発揮して、2009年からというものフルーツしか食べず、水もお茶も一滴も飲まない。なお、かれはトマトやキューリもまたフルーツとして召し上がっています。また塩も舐める。もともとかれは身長172センチ、体重70キロだったものの、しかしフルータリアンになってからというもの見る見る体重は減り、体重は50キロ弱~54キロ。血糖値もいたって正常。しかも、肌はみずみずしく、そのうえ体力もついて、山登りもらくらくになったそうな。



もうひとりのびっくり人間は森美智代さん、若い頃難病にかかって絶望的な日々を送っていた中、甲田光雄医師と出会って、生菜食・少食療法(1日に葉野菜500g、根菜500gをミキサーでどろどろにして食べる)で健康を取り戻す。以来一日三種の葉野菜をミキサーでまわして作った青汁一杯とスピルリナ錠で、毎日お元気で近年長らく鍼灸医の仕事をなさっておられます。彼女もまた肌は艶やかでいかにもお元気そうです。


中野瑞樹さん、健康の秘密。

では、いったいどういうメカニズムでおふたりは健康を保っておられるかしらん。


中野瑞樹さんの腸内には、空気中の窒素をタンパク質に変える菌が確認されたそうな。(まるでゴリラみたいですね。)どうやら果実食をえんえん続けていると、ある時期にある特定の菌(ユウバクテリウム?)が増殖するらしい。なるほど、腸内にこういう菌がいてくれれば、肉を喰わなくたってアミノ酸は合成できる。中野さん以外にも、パプアニューギニアの先住民はタロイモやキャッサバしか喰わないにもかかわらず男たちはみんな(身長こそやや低めながら)筋肉隆々のマッチョマンだそうな。


森美智代さん、元気ハツラツの秘密。

森さんの腸内細菌叢もまた同様で、牛(草食動物ですね)に近い細菌構成になっているそうな。具体的には、普通の人間はけっして食物繊維を分解して栄養として体内に取り込めないはずが、しかし森さんの腸内には草を分解できる牛の消化管にある細菌がたくさんいるそうな。おそらく森さんはあるとき知らずに、葉野菜に付着した牛の糞便由来の細菌を食べ、それが幸運にも森さんの体内に住み着いたのでしょう。


結論のようなもの。

しかしながら、われわれ凡人がふたりのびっくり人間にあこがれてまねをしたところで成功の可能性は低い。フルータリアンになった結果、糖尿病になってしまう人もいるでしょう。(もっとも、糖尿病学会は患者にフルーツを禁止していませんし、一説には糖尿病の人でさえもフルーツをほどほど食べるのは有益とも言われていますが、しかし、フルーツと言えども糖度はみんな違いますし、また人の体もそれぞれに違うもの。したがって、この説を鵜呑みにしてはいけません。)ましてや青汁一杯で暮らすなんてほんの一週間でへろへろになってしまう人がほとんどでしょう。森さんの場合は病を治す必然性があってはじめられたこと。必然性もないのに(健康被害を顧みず)挑戦することではありません。われわれがかれらから学ぶことができる知恵は、せいぜい少食の効用くらいです。


そもそもヴェジタリアンとして健康に若々しく暮らしている人も多い反面、ヴェジタリアンになって老け込んで病気になってしまう人もまた多い。それはひとえにその人の腸内細菌叢がヴェジタリアンライフに最適化できたか否かによるもの。なお、この最適化についてあらかじめわかることはなにもありません。一般的には肉、魚、豆などからのタンパク質摂取は重要で、おそらく肉と魚3 対 野菜7くらいの比率が理想的なのではないかしら。そしてまたあれこれさまざまな食材を摂取することこそ健康寄与が多い場合が多いでしょう。余談ながら、インド人にはヴェジタリアンで健康な人も多いものの、肥満もまた多く、糖尿病、心筋梗塞もまた多い。理由は料理がおいしいから食べ過ぎてしまいがちなこととパーティで浮かれ騒ぎ喰いまくることが大好きなこと、そして最大の理由は油脂と糖質の取り過ぎです。もっとも、スパイスには多大な健康寄与があるというのに、しかし世の中ままならないものです。


さて、われわれが学ぶべきことは、われわれはみんなそれぞれ自分ならではの腸内細菌叢を持っていて、それは母親由来のものをベースに幼少期の食生活で基本形はできあがるものの、しかしそれは日々の食生活によって、変化する可塑性もまた持っていること。腸内細菌たちはわれわれの体に寄生していると同時に、他方でわれわれの体にさまざまな寄与もまたしていて。すなわち生物は菌類と共生していて、それによって健康を保っている。しかし、現代では帝王切開で生まれる子は母親の細菌をもらえずに生まれてくるし、また抗生物質で命を長らえることも多い反面、抗生物質は腸内細菌を殺してしまう。コドモが土を触れば、汚いでしょ、やめなさい、とおかあさんに叱られる。そのうえいたるところで除菌が奨励される。土壌の細菌も減って、その影響は野菜にも反映する。しかも、われわれの日々の食事の食物繊維摂取は減っている。また、日本の水道水が飲めることはありがたいことながら、ただし、水道水は塩素消毒されているゆえ、われわれの腸内細菌をいくらか殺してしまいもする。すなわち、われわれの腸内細菌叢が劣悪化してしまう条件は整っています。腸内細菌叢が悪化すればとうぜんアトピー、花粉症、鬱病、糖尿病をはじめさまざまに厄介なことになる可能性があって。ここに現代の病の病根があります。腸をあなどってはいけません。そしてまた食生活がいかに重要か。さらには、いまやけっして近代栄養学だけでは理解できない事象があるんですね。これから医学は必ずやその基盤を大きく変えてゆくでしょう。




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