見出し画像

【コント小説】エッチ兄さん死

四十になり妻子ある俺は、ある日、ひとり日課の散歩をしていた。すると近所の中学校の前を通ったときのことだ。
「エッチ兄さん死」
と声がどこからともなく聞こえて来た。え?あの、未だ結婚もせず実家で両親と暮らしているエッチな兄さんが死んだか?ついに死んだか?弟の俺をさんざん悩ませてきたエッチな兄さん。パンティをかぶって学校に行くような兄さん。あいつのせいで俺は小学校、中学校と散々いじめられてきた。だから、家を出て、都会の大学に進学し、結婚しマイホームを建てた。実家に帰省するたび、俺の息子にエッチな知識を注入し続けたあの忌まわしい兄がついに死んだか。俺は確認のため携帯電話で親に電話しようと思った。しかし、途中で手が止まった。なんと聞いたらいいのだ?「兄さん死んだか?」とは間違っても聞けまい。俺はとにかく「エッチ兄さん死」と言った人物を探すことにした。それは不思議な体験だった。声は中学校のグラウンドのほうから風に乗って聴こえてくるのだ。しかも、ひとりの声ではない。大勢の男の子の声がそう言っているのだ。
「エッチ兄さん死。エッチ兄さん死」
俺は不気味な思いを胸に無断で校内に入った。グラウンドを見た。そこには野球部員が隊列を組んでランニングしていた。彼らは走りながら声をそろえて言っていた。
「エッチ兄さん死。エッチ兄さん死」
俺は頭がおかしくなったのか?なぜ彼らが俺の兄さんの死を知っている?しかも、兄さんがエッチなことも知っている。ここは兄さんのいる故郷からは、はるか遠くだというのに。これはなんだ?幻聴というやつか?俺の兄さんの死を強く願う心のせいで、聴こえてもいないことが聴こえてくるのか?
まだ、野球部員たちは走りながら、「エッチ兄さん死」と言っている。
俺はこれは何かの間違いだと思い、とにかく中学校から離れることにした。俺が中学校から遠のくにつれ、後ろのほうであの声も小さくなっていく。
「エッチ兄さん死」
「えっちにいさんし」
「いっちにいさんし」
「いっち、にい、さん、し」
「1,2,3,4」
「いっち、にい、さん、し」
「いっちにいさんし」
「えっちにいさんし」
「エッチ兄さん死」
こんなふうに聞こえる俺はもう病院に行ったほうがいいのだろうか?


*この文章を読んで、おまえが、「1、2、3、4」を「エッチ兄さん死」と読むようになったのならざまあみろ、いひひ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?