俺はいったい、どこにいるのか?

俺はいったい、どこにいるのか?
この冷たいコンクリートの壁の上に何があるというのだろう?
這い上がるにはどうすればいい?
ああ、朝陽が差した。
壁の向こうは朝だ。
そうだ、登らなくては!
朝日を拝まねば、俺の一日は始まらない。
このコンクリートの壁の下で待っていたって、いつまで経っても陽は差さないだろう。
登れ。
どこから?
探せ。
俺は右往左往してみた。
あった。
錆びた梯子が光明のようにそこにあった。
大丈夫か?
登れるか?
途中で崩れて落ちてしまうのではないか?
俺は一段目に足をかけてみた。
いける。
俺はその錆びた梯子を登り始めた。
一段、  また一段、その不確かな梯子を俺は慎重に登っていった。
もうすぐだ。
もうすぐ、壁の上だ。
そこに俺の行くべき世界があるのだ。
俺は壁の下に幾年いたことだろう?
壁の上の光明を得るために、どれだけの時を費やしただろう?
それが今、ようやく手に入るのだ。
あと一段、そうだ、あと一段まで来たぞ。
その時だった!
俺の左足が乗っていた一段がポキッと折れたのだ。
俺は落ちた!
と思った。
俺の右手首をガッチリと掴む男の手があった。
それは故郷の親友の手だった。
「おまえ、なぜここに?」
「決まってるだろう。おまえを助けるためさ」
親友は俺を引き上げてくれた。
俺はそこで見た光景に息を呑んだ。
そこには多くの人たちがいた。
故郷の友達や家族、親戚、お世話になった人々。
俺が省みなかった故郷の人々がそこにいた。
俺が捨てた故郷は生きていた。
俺はひとりで故郷を出たつもりだった。
一旗揚げようと、躍起になっていた。
そのうち自分がどこにいるのかわからなくなっていた。
そこに友人はいなかった。
孤独だった。
ただ、光明のみを信じていた。
そして今、その光明に辿り着いた。
そこにいたのはすでに見知った人たちだった。
俺にとっての光明はすでに俺の中にあったのだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?