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自分なりの感性で

ライブの帰り道、まだ興奮が冷めやらないウサギは推しメンマフラーを首に巻いたまま、ふと口にした。「私はある時、音楽の世界で生きてみたいと思ったの。そこで、音楽の都ウィーンへ旅をしたわ」

彼女の横を歩いていたカメは、静かに驚きを感じていた。「初めて聞いたよ。ウィーンで音楽の勉強をしたんだね」カメがそう言うと、その言葉を聞いたウサギは、「言葉が通じない世界で音楽を勉強することは考えていなかったわ。私がしたことは、音楽の息吹に触れることだったの」と、慌てて首を振った。

「そうなんだ。コンサートに行って音楽を聞いたんだね」カメがそう言うと、その言葉を聞いたウサギは、「閉じられた空間で大人しく座っていることも、私は考えていなかったの」と、また首を振った。

「ウィーンにはね、リングシュトラーセっていう大きな環状の通りがあるわ。その通りには、有名な音楽家たちの銅像が立ち並んでいるの。私はそれらの銅像を目指して、走りながら巡ったのよ。こんな風にね」ウサギは軽やかな動きで両腕を振り始めた。

ウサギは胸の前で手を合わせると、夢見るように話し始めた。「とりわけ花に囲まれたモーツァルトの像は素晴らしかったわ。その像は花と調和するメロディーを奏でていたの。まさに天才の業だと感じたわ。それから、厳かな様子で座るベートーヴェン、黄金色に輝くヨハン・シュトラウス二世、五線紙とペンを手に持つシューベルトの像...。それぞれが私に語りかけてくるようで、私の心の中を音楽が駆け巡ったのよ」

じっとウサギの話に耳を傾けていたカメは、考え込みながらも笑みを浮かべた。「銅像から音楽を感じ取るなんて、ウサギさんの感性はどんな時でも唯一無二だね」カメのその言葉に、ウサギは少し照れくさそうに笑った。

互いに寄り添う心は奇妙な調和を保ちつつ、それぞれの胸の中で暖かいリズムを刻んでいた。言葉にならなくても確かに存在するこの感覚が、二人の間に静かに満ちていた。



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