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彼女の夢と彼の動揺

ウサギとカメがいつも通っている図書館の閲覧席で、二人はひそやかに時間旅行の話を繰り広げていた。「わたし、平安時代に行ってみたいの。平安貴族の華やかな生活を一度でいいから体験してみたいわ」とウサギは夢見る少女のように弾んだ声で言った。

彼女の心の目は既に遠い過去の世界を鮮明に見つめていた。「おかしいかしら?」とカメの反応を伺いつつ、彼女は少し不安そうに尋ねた。

「平安時代は今とはだいぶ違うから、行く前にしっかり調べた方がいいね。歴史については分類番号210.3の書架、源氏物語を読むなら分類番号913.3の書架だね」と、カメは彼女に優しく言葉を返したが、タイムマシンのことで大きく気持ちが揺さぶられていて、いつもの冷静さを失っていた。

ウサギは彼の言葉に耳を傾けながら、違和感を覚えていた。「カメくん、なんかいつもと違うわね。時間旅行なんてただの空想じゃないの?そんなに急いで調べなくてもいいでしょ?」彼女の疑問に満ちた視線は、彼の目を捉えて離さなかった。

カメは自分が関わるタイムマシンの秘密を彼女にうっかり話しかけそうになり、急いで返事をした。「あ、そうだったね。まだタイムマシンは空想の話だったね。ちょっと気が早かったかな」と、彼は不自然な笑いを浮かべた。ウサギは何かがおかしいと感じたが、それが何かまでは分からなかった。

つづく

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