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迷子のウサギと探し人

その日、私たちは水族館で二人だけの時間を過ごしていた。あなたとの時間を心から楽しみにしていたのに、水槽でゆらゆら泳ぐチンアナゴに見とれているうちに、ふと気づくとあなたの姿がどこにも見えなくなっていた。不安がじわりと心を覆い始め、私は迷子になったことを悟った。水族館の複雑な回廊を重い足取りで歩き始める。周りは静まり返り、私の声だけが虚しく響いた。

あなたもまた、私を探していた。いつものんびりとした歩みを少しだけ急ぎ足に変え、東京大水槽、ペンギンエリア、クラゲ万華鏡トンネルを巡っていた。しかし、私たちはなかなか出会うことができなかった。

時間が経ち、ペンギンカフェでチンアナゴの形をしたパンをじっと見つめている私を、あなたはやっと見つけてくれた。振り返ってあなたと目が合った瞬間、涙が込み上げてきた。あなたは優しく私を抱きしめ、「大丈夫だよ。もう見失わないから」と囁いた。

水族館では思いがけないことが起こる。それがなぜかは私にはわからない。しかし、ひとつだけわかるのは、今日が私たちにとってかけがえのない思い出となったということ。迷子になりお互いを探し求めた一日。それは私たちの大切な物語として心に刻まれていく。

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