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雪夜に遠ざかる心

クリスマス・イブの夜、ウサギとカメは同じ屋根の下にいた。部屋は静かで、窓の外は雪が柔らかに降り積もっていた。カメは仕事の書類に囲まれ、デスクに向かっていた。ウサギは少し離れたソファーの上で、寂しげに窓の外を眺めていた。彼女は、「もっと一緒に過ごしたいのに」と小さな声で呟いた。カメは「仕事が忙しいんだ」と無愛想に答えた。その言葉は空気のように部屋に溶け込んでいった。

二人の距離は、言葉では埋められないほどに広がっていた。ウサギは「わかった、じゃあ一人でいるといいわ」と涙声で言い、冬の寒空の中に飛び出して行った。彼女の足跡は、カメに追いかけられることもなく、雪に静かに消えていった。

仕事に区切りをつけたカメは、ベッドに横たわり、疲れた体を温めた。彼女との言い争いは、もう遠い記憶の中だ。彼の心はすでに、明日の仕事に向かっていた。やがて疲れは、彼を深い眠りへと誘った。

その夜、遠くの教会の鐘が一度だけ鳴り響いた。カメはふと目を覚まし、枕元に立つ白い衣装を纏った不思議な人影を見た。その人影は静かに、「私は過去のクリスマスの精霊だ」と語り、無機質な声で彼に手を差し伸べた。

つづく

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