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キレる老人、理由は認知症で気持ちを言葉にできないこと

理不尽にキレる暴力をふるう老人が話題になっている。
暴れる理由は、認知症である。
認知症になると、自分の気持ちを言葉にして伝えることができない。
言葉でコミュニケーションをとることが困難なのだ。
だから、言葉以外の方法、暴力で気持ちを表現するしかなくなるのである。

キレる老人、被害者は介護士

2018年3月7日放送『ねほりんぱほりん』「介護士の過酷な現場 あなたが倒れる時は介護士がいない!?」では、キレる暴力老人の様子が取り上げられていた。
次のリンクは、番組のまとめ、およびTwitterの反応である。

「死ね」「バカ」といった暴言を介護士に吐く。
蹴られて、のたうちまわる介護士をみて笑う老人。
介護士の98%が、暴力の被害者であるというデータもある。

このような過酷な環境では、いくら心やさしい介護士でも追い詰められ、ついには"殺意"を抱くようになってしまう。番組では、その様子が赤裸々に語られていた。

このように、キレる老人が大きな問題になっている。
だが、このキレる老人たちも、元は仕事をし、家庭をもつ普通の人だったのである。それが、なぜキレる老人になってしまうのか。
次の節では、普通の人がキレる老人になる仕組みをのべる。

キレる老人、
理由は認知症で気持ちを言葉にできないこと

認知症になると、自分の気持ちをうまく言葉にすることができなくなる。それが暴言・暴力につながるのだ。

例えば、あおむけに寝たきりのせいで、背中が痛いとする。通常ならば、
介護士「どこか悪いところはありますか?」
ご老人「寝たきりで背中が痛いです。横向きにしてください」
と言えば十分である。
しかし、認知症になると、それが出来なくなってくる。以下では、認知症の進行(ステージ1,2,3,4とよぶ。数字が大きいほど進行している)によって、どのようになるかを例で示す。

ステージ1.適切な単語が出てこない(喚語困難)
介護士「どこか悪いところはありますか?」
ご老人「あれが痛い。あれですよ。後ろにある…体の…」

ステージ2.ステージ1に加えて、言葉の意味が理解できない(理解力障害)
介護士「どこか悪いところはありますか?」
ご老人「もうご飯はいらないよ!それより、あれが。あれが…」

ステージ3.ステージ2に加えて発音が困難にある(構音障害)
介護士「どこか悪いところはありますか?」
ご老人「もうおあんはいあないお!それおり、あえが。あれが…」

ステージ4.ステージ3に加えて発音が困難にある(全失語)
介護士「どこか悪いところはありますか?」
ご老人「…」

このように、認知症による失語が進行すればするほど、自分の気持ちを伝えることが困難になる。
痛いのに、直してくれない…。自分の苦しみを誰にも伝えることができない…。これが、数年~十数年続くのである。
そうすると、誰しもが負の感情がつもる。
しかし、言葉で伝えることが出来ない。
そんな状況でも、自分を表現する方法がある。

暴力

これこそ、最後に残された表現手段なのである。


これが普通の人がキレる老人になる理由である。

参考文献
松田 実(2015)「アルツハイマー型認知症の言語症状の多様性」,『高次脳機能研究』35(3),pp. 312-324,日本高次脳機能障害学会

大畠 明子(1999)「脳卒中と言葉の障害」,
http://www.ncvc.go.jp/cvdinfo/pamphlet/brain/pamph15.html#anchor-6
(2019年3月28日アクセス)

kintoki_naruto(2018)「#ねほりんぱほりん 介護士の過酷な現場「介助中に乳首かまれた」「殺意に似た感情を抱いたこともあります」」,
https://togetter.com/li/1206311
(2019年3月28日アクセス)

株式会社メディカルリソース(2016)「介護職員の98%以上が被害者!?認知症高齢者の"暴力"とどう向き合うべきか」
https://www.sagasix.jp/column/dementia/violence/
(2019年3月28日アクセス)

ヘッダー画像

NHKEテレ,「介護士の過酷な現場 あなたが倒れる時は介護士がいない!?」,『ねほりんぱほりん』,(2018年3月7日放送)

【毎週火・木・土に投稿】 ①所属:情報工学博士3年. ②興味分野:社会科学. ③投稿すること:Eテレ番組 100分de名著(火曜)・ねほりんぱほりん(木曜)・ドキュランド へようこそ!(土曜)の考察④コメント:卒業後は分野にこだわらず学問を究めたい.フォローしてくれると嬉しい😃