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開運屋        上

「安心して下さい〜吐いてますよ」

髪を切ろうかどうしようか?悩んでいるなら床屋さんに相談してはいけない

松茸を取りに行きたいと本気で思うなら人に聞くな!生えている場所は人が入らない場所にある!



本当に儲かる仕事なら自分でやるし人に教えないだろうよ



夜の繁華街、通りを歩く人に声をかけスナックやマッサージ店へ案内をする仕事がある。

キャッチ 「呼び込み」 

昔は許されていたと言うか、暗黙の了解で規制はされておらず自由に仕事として成り立っていたのだが、いわゆる稼業の資金源となりやすかったり呼び込みの人との話と内容が違う高額要求「いわゆるボッタクリ営業」などの被害から年々法律、県条例など取締が強化され、罰則までついている

捕まれば割に合わない

罰金50万〜指示を出した店鋪も営業停止もあり得るリスクの割に1日10人を紹介しても1人に付500円程度マッサージ店はお客の選ぶ内容次第だけど1000円〜程度となる。週末など人が溢れている時であれば2万〜くらい稼ぐ事もあるが、案内したお店がいっぱいで入れないなら成立せず、平日など人が歩いていない時は他のキャッチと奪い合いとなるし、完全歩合制なのでゼロの日も当然ある

だけど今の俺には、この仕事をやるしかない

中国で大学に通いながら経済を勉強する為に日本の大学に入った。知り合う人、気の合う仲間に恵まれ卒業トントン拍子に大手企業に就職、結婚して子供も産まれ順風満帆な人生を送っていた

人事異動

都心から離れ地方都市の営業所で責任者となる。自然豊かな町、山に近く空気も澄んでいて水も美味しい。役職がついて給料も上がる。始めはアパートを借りて暮らしていたが、経済的にも都会と違い生活費が安く済むおかげで、ゆとりがある

そうだ、家を買おう! 

賃貸でも月々7万〜支払っているのだからローンを組んで毎月10万程度ならさほど変わらないし、何より財産となるし、自分の思い通り好き勝手に家をいじれるのだから賃貸より持ち家が良いに決まっている! 

妻がネットで毎日検索する理想的な家はそう簡単にはみつからなかった。自分で建てるとなれば理想的に近いマイホームとなるが、予算の問題から中古物件をリフォームしたお手頃物件が現実的だ

約3カ月ひたすら探した結果、知人の紹介で一軒家を購入する事になった。前住人が夫婦の理想を追及した間取りらしく1、2階吹き抜けの天井 入口から靴で移動できる室内縁側とキッチン今まで見たことのない間取りだった。売却に至った経緯は仕事の都合らしく新築で建てて約2年程度しか住んでいなかった

住み始めてから3年離婚する事になった。

原因は多数あり過ぎてなんだかわからない、まずは流行り病の影響で会社売上が下がり減給、これは世界的な問題なので誰も悪くない。会社は早期退職を求め始め給料が高い中間管理職をどんどん追い込む、理不尽なノルマや急な人事移動などアノ手この手で退職へと誘導するも、家のローンがあるので辞める理由にはいかない。

ある日同僚達に誘われ飲み会に行く、酒に酔った状態で部下が女のコの居る店へ行きたいと言われ何となくキャッチされスナックに行くことになる。たまたま同郷「中国」のママが経営していた。懐かしい故郷の話で盛り上がり 気がつくと朝を迎えていた

翌日会社に行くと前日飲みに行った同僚がスナックから紹介された裏風俗に行って売春を行った事が上司にバレてしまったらしく解雇処分になる

自業自得かも知れない、会社のバッチを付けたままで違法行為なのだから自覚が足りないのだけど上司の追及から的を外す為に、俺がその手引きをした店の中国人と仲良く話をしていたなどと罪を被せられたのだ!

会社も一方的にリストラすると組合など騒ぐし給料保証を付けなくてはならない、今考えるとみんなグルだったのかも知れない

会社もクビになり、あらな噂をたてられてご近所の目もなんだか厳しい。家にいればイライラするし、人が信用出来ない状況となり家族関係もぐちゃぐちゃになり1人になったけど、

毎月支払が、マイホームローンがある

友人知人片っ端から事情を話すも、50歳をこえて雇ってくれる会社はそうそうない。悩んでも解決しない問題を夜な夜な考えると不眠症になった。気力もないが毎日眠れないので
夜の街へ出かけると事の始まりとなったスナックに顔を出した。

「可哀想に、寝れないなら夜ウチでバイトする?」

同郷のよしみか?人手不足なのか?完全歩合制のキャッチバイトを始めることになった

先が見えない毎日が不安定、その日暮らしが続けば目の色も輝きを失い、やっつけ仕事の日々が憂鬱になる。夕方に起床する身体が重く背中が張ってつらい

俺はなんの為にやってる?

「てめえ!ふざけんなよ変な店紹介しやがってぇ警察に言って国に返してもらうぞ!」

言いがかりをつけてくる輩もいる。下心をむき出しに女を探す男、酒の力を借りて弱い立場の人間を見下して罵ることで憂さ晴らしする人   

吹き溜まりのような街角で俺の魂は濁って行くようだ、ストレスのせいなのか顔が痒い、胃が痛い、肩が重くて上がらなくなってきた

なんで俺ばっかりこんな目にあっている

「にーさん〜 ヘイ!にーさんってばぁ、」

吹き溜まりの街角に時折出現する怪しい占い師がいるらしいとキャッチ仲間から聞いていたから動揺はしなかったが、怪獣のキグルミを被ったその女は想像していたより若いし、占い師とは思えないくらいチャラい印象だ


「へーい!☺にーさん〜四十肩のにーさん!!」


周りに人はいない、真っ直ぐ俺を見て手招きしているようだったが、とても近づきずらいし、関わりを持つべき相手ではなさそうだ。

無視を決めてその場を後にするとキグルミの女がトコトコと後を追ってきた、

「へーい!四十肩さん、無視しないでぇー大丈夫だからぁー 私怪獣じゃないからぁー怖くないよー!」

「誰が四十肩さんだ!俺はそんな名前じゃない!絡むんじゃないよ占い師に用はない」

「でも肩凝ってるでしょ、腕ちゃんと上がる?
頭痛酷くて眠れないんじゃないかしら?」

あながち間違いではない、むしろ当たっているのが気に入らないくらいだ。まぁ占い師は人の歩き方や仕草外見から推理して言葉を投げかけて様子を見る、いわゆる心理学を勉強して相手を信用させたりしながら本音を引き出すテクニックで当たってる!悩み解決で金を取るような仕事だからな


俺はそんなことで金を使いたくない

「占い師さん悪いが、金が無いんだ他をあたってくれないか?」

極論を投げる!どんな誘導で会話を持ったとしても
金が無いから貴女と話しても商売なりませんと先手を打ってやった。

「にーさんは誤解をしているょ~私占い師じゃないんだよ、」

「そ、そうなのか?」

「開運屋さんなの!」

胡散臭いと言うか、より一層怪しく思える。開運ハンコやら壺やら買わされそうなイメージだ

「開運屋さんってことは商売なんだろう、金なら払えん!って言っているのだから商売なんないだろ、だから俺じゃなくて他を探せって」

「今日はお酒のんで楽しい日なので無料で開運してあげますのよ!」

テンションが以上に高いのは酒の力なのだろう、女は急に走ったせいなのか具合が悪くなった様子で急にその場でしゃがみこんだ

「お、おい大丈夫か?」

「安心して下さい〜吐いてますよ☺」

とんでもないやつに絡まれてしまったようだが
何ヶ月ぶりだろうか?腹の底から声を出して笑った

続く







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