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主体性ずらしの達人は誰だ?

運悪くその電話に出たのはふぁみさんだった。

Q氏の問い合わせ内容は、旅行積立金の返金額について。

毎年スウィングが実施している一泊旅行はコロナ禍の影響で昨年に続き今年も中止。中止によって激しい混乱を生じかねない人などを中心に少人数での小旅行は行うが、その参加者以外には毎月コツコツ積み立てたお金が返金される。

スウィングからの帰宅後、その金額を早く知りたくってたまらなくなってしまったQ氏は、次の日でも全然いいはずなのに、いや自分で計算すればすぐにでも分かるはずなのに、人の迷惑なんてものを顧みない見事な他力本願をかましたというわけなのだ。

(他にもやることあるのに……)ふぁみさんは親切に、そして正直に正確に答える。この場合、基本的にはそれしかできない。もう絶対的に揺るぎなくその金額は決まっているのだから、多めに言ったり少なく言ったりはあり得ない。

しかしながら「○○○円ですよ」と親切に答えた彼女に対し、あろうことか自分本位×他力本願=Q氏は唐突に、あまりに唐突に怒声を浴びせかけたのである。

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「ウソつき!!!」



怒声にしてはカワイイのがちょっとムカつく。

それに「ウソつき!!!」って言いたい、言われてみたい。そんな気持ち、みんなも少しくらいあるんじゃない? 今にもこぼれ落ちそうな涙をこらえる感じで、あなたのことが好きで好きでたまらないから言うのよ的なアレがアレでアレして。

でも全然ちゃう。この場合は全然ちゃう。

純度100%の善意に対し、予想だにしなかった悪意100%の一撃を食らわされたふぁみさんの心情たるや、たまったもんではなかっただろう。

しかしQ氏はなぜ彼女を「ウソつき!!!」だなんて思ったのか。

それは返金額が「思ってたの」より少なかったからだ。

しかも彼が「思ってたの」は、今欲しいクソ高いDVD7巻セットを買える金額、3万数千円だったのだ。

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狂っている。


積み立てたのは彼自身だ。それもたかがた数ヶ月分だ。

そもそも全額積み立てたとしても、その金額には到底、じぇんっじぇん、まっったく届かないのだ。

本当は知っていたのだと思う。

買えるわきゃないのは余裕で知っていたのだと思う。

だからこそ彼は瞬時に、条件反射的に「ウソつき!!!」なんて言えたのだろう。

もしも本当にそれが意外な金額であったなら、信じられず一瞬黙り込んでしまうとか、せいぜい「え?」とか言うのが普通ではなかろうか。

でも彼は恐るべき、鉄のような意思(思い込み)の力で明白すぎる事実にムリヤリ蓋をし、そして自分の中で積立金を水増ししまくり、勝手に目標金額に達してしまったのだろう。

スゴい想像力、いや捏造力だ。

やっぱり人間の意思の力ってスゴいんだな、強く信じることって大事なんだな、なんて危うく錯覚してしまいそうになる。

繰り返すが本当は知っていたのだと思う。

買えるわきゃないのは余裕で知っていたのだと思う。

つまり「ウソつき!!!」は彼自身なのであり、でも自分でそれを認めるのは嫌だから、認めてしまうと折角こしらえた理想(妄想)が崩壊してしまうから、ウソどころか真実しか伝えていないふぁみさんを自分自身の身代わりとして攻撃したのだろう。

これぞ必殺・主体性ずらし。

問題や言動の主体を他者にずらすことによって「人のせい」にし、自己防衛したり責任を回避したりうやむやにしたりするという、Q氏が長年磨きあげ続けている究極最低奥義である。

しかしながらこのタチの悪い主体性ずらし、ここまでの使い手にはなかなかなれないにしても、実は僕の中にもあなたの中にもきっとあるに違いないのだ。

自分が決めて行動したことを、あたかも誰かに決められ行動させられたことにすること、ないだろうか?

子どものため、部下のためなんて言いながら、でも本当は思い切り自分のためだったりすること、ないだろうか?

ウソつき!!!

主語はいつも自分自身だ。

木ノ戸昌幸

※ Q氏が欲しがっていたクソ高いDVD7巻セットは、結局10分の1ほどの価格で購入できました。良かったけどいろいろ怖い。。。

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