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【感想27】ザ・メニュー

 久々に肩の力抜いて酒飲める時間があったのがだいぶ心身的に良かった気がする。
上司の8割が完全に”第二の人生”後の話題しかしてこない分、エンタメ関連で一生喋ってるだけで楽しいしいまだにWUG関連で動揺することを自覚できたし良い時間だった。

有名シェフのジュリアン・スローヴィクが極上の料理をふるまい、なかなか予約が取れないことで知られる孤島のレストランにやってきたカップルのマーゴとタイラー。目にも舌にも麗しい料理の数々にタイラーは感動しきりだったが、マーゴはふとしたことから違和感を覚え、それをきっかけに次第にレストランは不穏な空気に包まれていく。レストランのメニューのひとつひとつには想定外のサプライズが添えられていたが、その裏に隠された秘密や、ミステリアスなスローヴィクの正体が徐々に明らかになっていく。

映画.com『ザ・メニュー』より



短い感想

 見た後に他人の感想掘りまくった時に気づいたけれど、物事を批評したり消費する現代社会の姿勢に対するブラックジョーク、らしい。

 正直なところ、作品単品としては日本で言う「なろう小説」と似た空気を感じてしまったし、あまりなろう作品を得意じゃないのもあって終始微妙な目線で見てしまった。
予告や広告で打たれているホラーやスリラー要素はホラーが苦手な自分でもアッこれずっと大丈夫な奴だな…と中盤の時点で確信してしまうぐらい弱め。

 この映画もシェフであるジュリアンが2品目に出した「パンのないパン料理」みたいな作品になってしまった気がする。同じ言い分なら『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』のほうがエンタメとして楽しい分、そっちをお勧めしたくなる。


細かい感想

 結構良いところだなと思っているのは、オチが物語の一貫性を保っているところだと思う。
見た人ならわかると思うんだけれど、途中段々と持ち始める「もしかして、掌返しのハッピーエンドなのか...?」て疑念はしっかり晴らされる。
近年の懲悪勧善エンドを避ける風潮がある中、この映画も例に漏れずという感じではあるけれど、ホラーテイストの映画でそんなことされたらちょっとね…ていうモヤモヤはなく終わった。それだけで良い。

 あとは皮肉る描写はかなりじっくりねっとり描かれている。
アニャ・テイラー・ジョイ演じるマーゴは神経が庶民派、お相手のニコラス・ホルト演じるタイラーは”理解ってる”側として喋り続けてる。
この2人の対比だけでも消費側の批判は十分に見せられる(ことに後から気づいた)し、加えてほかの客は上流階層になりたての勘違い成金・保身の嘘が多い落ち目の役者・ステータスの一環として店に通う金持ち・持ってる権力が肥大化した批評家とあからさまに面倒な顔ぶれをそろえての2時間で、投げられるジョークもだいぶ直接的な批判が多いのでなんとなく人が説教されているのを聞いている気持ちになる。

 肝心のホラー部分は3品目あたりから如実に顔を出す…て構図のはずなんだけれど、かなりシンプルな驚かせが多い。
副料理長の最期はもう少し芸術的な見せ方をするのかと思いきや、本当に単純過ぎて別の意味で驚いてしまった。
料理自体が美術館に展示された一品のごとく飾られたものだったのに対して、コースの一部であるはずの人に関する飾り方には執着しているような感じは受け取れなかった。

 食べ物に対してだけ、と見れればよかったんだけれど如何せんコースが台無しになるとマーゴが急遽参加したこと自体に不快感を示していた分、そういう解釈もしづらかった。
加えて最期に恨みを持つメンバーを集めていたような感じではあるけれど、縁があってもっともな理由の成金トリオと批評家コンビに食べたものを一切覚えていなかった老夫婦、対して私怨で呼んだ役者とその連れには後付けの理由だったりしたのは監督だったりの制作側が独りよがりだったりを描写している、のかもしれない。


総括

 プライムで配信が決まった『大怪獣のあとしまつ』を思い出しながら見るといいかもしれない。

 あれは観客側が求めていた料理と監督が出した料理が綺麗にズレていたことが批判の始まりで、序盤の展開がそれを連想する。

 比較的大々的に広告を出されていたり劇場の展開も大きめだったりするけれど、より多く見に来るであろう観客はこの映画をどういう気持ちで見終えるのかは知りたい。
メッセージ性を読み解けるほど深く作品に入り込まない性質がマジョリティの世を批判する作品が、そんな人たちに味わうことなく消費されるような予告のされ方になってしまったのはエンタメとして弱いこの作品にとってはブーメランが返ってきたような感じなのかもしれない。

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