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大七というお酒を呑める幸せ。

日本酒を知らない人が、このラベルをみたら、99%「生酛」という銘柄のお酒と勘違いするだろう。このお酒の銘柄は右上に記載のある「大七(だいしち)」である。では、この生酛(きもと)とは何か。大七酒造にとって、この言葉はどれほど重要な意味を持つのか。

生酛は、米を発酵させる酵母菌を純粋培養する手法の一つである。個体数を増やす際に、実はこの微生物、めちゃくちゃ弱いので、外敵(野生酵母とか)に駆逐される危険性がある。そのため、ボディガードとして、人工的に乳酸を添加して酸性環境を作り、安全に酵母を増やす。これを速醸方式と言い、これが日本酒の9割を占める。

しかしその一方で、空気中から乳酸菌を取り込み、乳酸菌自体に乳酸を作ってもらう、超ナチュラルな手法がある。これを「生酛(山廃)方式」と言い、江戸時代は100%シェアを誇ったが、前述の速醸が発明されて以来、減少の一途を辿っている。今では1割程度の酒蔵しか採用していない。技術・時間・労力・衛生管理…全て大変。とにかく大変。生酛で醸せる杜氏が、一体日本に何人いるのか。そんな超ハイレベルな醸造法だ。

しかし、速醸と比較して、この生酛で醸された酒は、芳醇で旨みがあり、燗酒にすると上等の出汁のような風味が出てくる。合わせるのは鍋料理、チーズ、味の濃い中華料理、エスニック…とにかく万能な食中酒である。そんなビッグセブン(僕の懇意のバー店長はこう表現する。外国人にも通用したw)こそが、この生酛を体現した王道とも言えるお酒なのだ。

ということで、皆様も是非、この大七を一度試してほしい。これこそが江戸時代から綿々と続く伝統的な製造を貫く日本酒だ。お気軽にペアリングで勧めたいのは、「明治のカマンベールチーズ」である。ここで間違ってほしくないのは、雪印のそれではないということだ。雪印は比較的味が淡泊なため、生酛ではなく、むしろ速醸の酒に合わせた方が楽しめる。一方で、明治の方は、より濃厚さ・コク・旨みを感じるため、ビッグセブンとジャストフィットする。これは日本中探しても誰一人指摘していない、3回だけ実験を行って得た、僕のにわか知識であるw 

で、この大七なのだが、生酛一筋というイメージが強いが、実はそうではない。速醸が発明された際、行政から「これを使え」との指導があり、大七酒造は「いやいや、うちは生酛一筋ですから」と突っぱねたと思いきや、「お、速醸やってみるか」といった趣でトライしたと言う。しかし大七の求めるお酒の味にはならない。そんなこんなで戦争がやってきて、人手を軍隊に取られ、そもそもの生酛が困難となる。次の一手として、人手が若干少なくても可能な「山廃(説明割愛)」に挑戦する。しかし、味が重くなったため、これも止める。

最終的には生酛スタイルに戻すのだが、この試行錯誤や開拓精神も、大七酒造の真骨頂である。現在は、超扁平精米や窒素充填、木桶熟成など、先進的なチャレンジも同時進行で行っている。失敗を恐れず挑戦を重ねる姿を想起しながら、大七を呑む。そうすると、自分ももう少し頑張ってみようかな~なんて、奮い立つ時がある(たまにねw)。なので、ビッグセブンは、自分の常用酒として、絶対に外せないお酒なのである。

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