秘境?のクラフトブリュワリー
先日、シドニーからすこし離れた街の、さらにその外れにあるブリュワリーに行ってきたので、その記録を残しておこう。
こんな場所、友達でもいないと行かないよねえ…ということで、ビール好きかつ町探訪好きの友達に連れて行ってもらった。
まずは、シドニー中央駅(セントラル)から郊外電車に一時間ほど乗って、キャンベルタウンという街まで行く。
所要時間は電車で一時間なので、シドニーからの通勤圏内にぎりぎり入る…といったところだが、電車が進むにつれて家がだんだん無くなって木々が増えてくる。やはり遠いよなあ…と思っているとまた建物が増えてきて、電車はキャンベルタウン駅に到着した。
この街自体は大きなショッピングセンターがあったり、立派なアートセンターがあったりと、生活するのに不便はなさそうだ。
さて、お目当てのブリュワリーに行くにはこの街からバスに乗り、丘を一つ越えた場所にある、ナレーランという町に行かなくてはいけない。
ここは電車は通ってないが、大きなショッピングセンターもあるので、それなりに住んでいる人はいるのだろう。
ただブリュワリーに行くにはここで終わらず、更に15分ほど歩かなくてはいけない。
交通量のある街道から折れて進むと、辺りは工場ばかりになる。
真っ昼間に歩いているからおっかないという気にはならないが、初めて行く人は、とても不安になると思う。
ただ、こちらはオーストラリアのクラフトブリュワリーを何軒も訪れたベテランなのでその辺は大丈夫。ブリュワリーって、こういう不便な場所におおいんだよね。
それほど家賃が高くなく、ビールを作るのに充分なスペースとなると、こういう工業団地の倉庫を借りるのが一番なのだろう。
それにしても、昼下がりのこういったエリアは人が見当たらない。歩行者なんてほぼゼロ。
今は携帯のグーグルマップで、現在位置と目的地が分かるから不安はないが、それらがない時代だったら絶対途中で不安になって、諦めて帰ってしまうかもしれないなあ…なんてことを考えた。
てくてく歩いていると…おっと、道のどん詰まりになにやら看板のようなものが!
やはり、「ここにありますよ!」とマップにいくら記載されていても、自分の目で見るまではすこし不安だよね。なので少しホッとしつつ、ほんとに開いてるのかな…と中を覗き込む。
ここで実際にビールを作っているので、天井は高くてガランとしている。奥にはビールを作って貯蔵するためのステンレスタンクがずらりと並び、手前がバーセクションになっている。
客は地元民とおぼしき常連客っぽいおじさんが一人と、スタッフのお兄さんだけ。
シドニーの街からわざわざ飲みに来る人は、まずいないだろうな。
メリノブリュワリーという名前だけあって、ロゴマークは羊だし、建物の中には羊の絵やキャラクターがたくさん飾られてある。羊の毛を刈るのに使ったような機器もあちこちに置かれている。そうか、この辺りは郊外化する前は羊の放牧をしていたのだろうな。
今、写真を見ながら思ったんだけど、このブリュワリー、羊がテーマだから、僕の好きな村上春樹の「羊をめぐる冒険」の中に出てきても良さそうなバーだなあ。
例の「羊男」が社会復帰してブリュワリーを立ち上げ、そこに「僕」がふらっと訪れる。
あ、妄想に走ってしまった…閑話休題。
こんな、Middle of nowhereみたいな場所のブリュワリーの割には(失礼)、ビールのラインアップは充実していて、コアレンジのビールが4種類ほど、それから期間限定のビールが何種類かある。
最初に行くブリュワリーでは、ともあれ「パドル」を頼むのが一番いい。パドルというのは言ってみれば飲み比べセットで、小さなグラスに注がれた何種類かのビールを楽しめる。
ここでは4種類セットになっていたので、バーのお兄さんの説明を受けながら、自分でも迷いながら選んでみた。
パドル(paddle)というのはもともとはボートのオールというか櫂のことなので、細長い形状をしているはずなのだが、ここのパドルは羊の顔になっているのが凝っている。ビールの種類を書いてもらったので、「え、このビールは何だったっけ?」と悩む心配もない。
こういうクラフトブリュワリーでは、さっぱり系のラガーよりも、味わい深いエール系の方が推しのようで、ここでもペールエール、IPA、XPA、Hazy Paleといった種類が人気のようだ。
それから、最近は多くのブリュワリーで「サワー」という種類のビールが流行っている。これはいわゆる日本のサワー(焼酎を炭酸飲料で割った飲み物)とは違ってあくまでもビールの一種類だが、文字通り酸味が勝るあまりビールっぽくないビールだ。
僕はやはり苦くてパンチのあるいわゆるビール!ってのが好きだが、たまにはこういう酸味があって少しフルーティーなサワーも悪くない。特に今回のように何種類かのビールを飲む時にサワーを混ぜると、ちょうどいい口直しになる。
いくつか試した後で、2杯目に行こう!となる。今度は違うビールにしてみようと、友達が飲んでいたのを少し味見させてもらって美味しかった、7.2%というかなりストロングなIPAにしてみた。
これ、少し濁った色合いなので手強そうだな!という見た目だが、これが意外と飲みやすくて味わい深くて美味しかった。
このブリュワリーに到達するまでの時間がかなりかかるので、今度訪れるのがいつになるやら見当がつかないが、ビールは美味しかったので頭の片隅に入れておこう。
それにしても遠かった…僕もモノ好きだなあ。