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no.8 腸内細菌、FMT研究の最新論文紹介

今回はFMT(糞便微生物移植)の記事が多めです。
個人的には、最後の養豚場での薬剤耐性遺伝子の研究が気になりました。

ゲノム解析技術が手軽に使えるようになり、目に見えないマイクロバイオーム、腸内細菌に関する論文は、この10年あまりで指数関数的に増えています。

ここでは、PubMedで'gut microbiome' 'FMT'などのキーワードで集めた論文を定期的に紹介します。

新しい論文はまだ評価が定まっていないこともあり、鵜呑みにするのは危険な一面、研究の最前線に触れることができます。
要点だけでも、興味のある内容をぜひ読んでみてください!


放射線性腸炎の患者にFMTを行うと、腸内細菌のトリプトファン代謝経路を通して症状が改善する

[Regular Article]
(タイトル)Fecal Microbiota Transplantation Repairs Radiation Enteritis Through Modulating the Gut Microbiota-Mediated Tryptophan Metabolism
(タイトル訳)放射線性腸炎の患者にFMTを行うと、腸内細菌のトリプトファン代謝経路を通して症状が改善する
(URL)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38555945/
(概要)放射線性腸炎を呈したマウスでは、ラクトバシラス科とラクノスピラ科の減少が見られたが、これらはFMTによって回復した。また、トリプトファン経路の代謝物もFMTによって顕著に回復した。
一方、子宮頸がんのために骨盤放射線治療を受けた21人の患者では、放射線照射後にラクノスピラ科およびトリプトファン代謝物であるインドール-3-アセトアルデヒドが減少した。これらの細菌および代謝物は、放射線性腸炎に保護的に働く可能性がある。
(著者)Qiu Tangら
Department of Radiation Oncology, Women's Hospital, School of Medicine, Zhejiang University, Hangzhou, 310006, Zhejiang, China.
(雑誌名・出版社名)Journal of Radiation Research
(出版日時)2024 Apr 1
(コメント)本文の印刷はまだのようです。

モデルマウスにおけるFMTはタイプ2および免疫寛容誘導性の免疫反応を促進する

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1075996424000246?via%3Dihub

[Regular Article]
(タイトル)Fecal microbiota transplantation stimulates type 2 and tolerogenic immune responses in a mouse model
(タイトル訳)モデルマウスにおけるFMTはタイプ2および免疫寛容誘導性の免疫反応を促進する
(URL)https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1075996424000246?via%3Dihub
(概要)抗生物質でディスバイオシス状態にしたマウスにFMTを実施し、2日後と7日後に16S解析と遺伝子発現解析をした。FMTの7日後には腸内細菌のα多様性が回復し、免疫寛容性が誘導された。
(著者)William A. Petri Jr.ら
Department of Medicine, Infectious Diseases and International Health, University of Virginia School of Medicine, Charlottesville, VA, USA
(雑誌名・出版社名)Anaerobe(ELSEVIER)
(出版日時)April 2024
(コメント)タイプ2免疫遺伝子とは、Th2のことを指すらしい。

再燃期の潰瘍性大腸炎の患者に、治療法やFMTの好みを聞いた結果

[Regular Article]
(タイトル)Patient preferences for active ulcerative colitis treatments and fecal microbiota transplantation
(タイトル訳)再燃期の潰瘍性大腸炎の患者に、治療法やFMTの好みを聞いた結果
(URL)https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10966996/
(概要)再燃期の潰瘍性大腸炎のカナダ人201人に、FMTを受けたいかどうかなどを質問した。平均年齢は47歳で、58%が女性だった。およそ半数がFMTを受けたいと答え、もっとも重要視するのは寛解の可能性と有害事象についてだった。他の条件が同じならば、カプセルや錠剤を飲む方法がもっとも好まれた。
(著者)Paul Moayyediら
Deborah A. Marshall, Department of Community Health Sciences, Cumming School of Medicine, University of Calgary, Room 3C58, Health Research Innovation Centre, 3280 Hospital Drive NW, Calgary, AB T2N 4Z6, Canada;
(雑誌名・出版社名)Therapeutic Advances in Chronic Disease
(出版日時)2024 Mar 26
(コメント)FMTは心理的抵抗感の強い方法でもあるので、患者さんの好みを調査するのは大事。

凍結状態におけるFMTドナーの便の安定性を評価する

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/jcla.25023

[Regular Article]
(タイトル)Assessment of Faecal Microbiota Transplant Stability in Deep-Freeze Conditions: A 12-Month Ex Vivo Viability Analysis
(タイトル訳)凍結状態におけるFMTドナーの便の安定性を評価する
(URL)https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/jcla.25023
(概要)-80度の凍結状態において、好気性および嫌気性の状態にかかわらず、少なくとも1年は便の細菌が大きく損傷していることはなかった。この結果より、FMTのために凍結保存された便は患者によって有用であることがわかったが、複数のドナーを使うことで、より細菌のロスに備えることができるだろう。
(著者)Frantisek Duskaら
Department of Anaesthesia and Intensive Care Medicine, The Third Faculty of Medicine, Charles University and Kralovske Vinohrady University Hospital, Prague, Czech Republic
(雑誌名・出版社名)JCLA(WILEY)
(出版日時)27 March 2024
(コメント)本文の最後で、凍結乾燥の可能性についても触れている。(lyophilised faecal matter)

胎児または乳児におけるビタミンD不足がマウスで自閉症を誘発する。腸マイクロバイオームの構成とホメオスタシスの乱れのつながり

[Regular Article]
(タイトル)Induction of autism-related behavior in male mice by early-life vitamin D deficiency: association with disruption of the gut microbial composition and homeostasis
(タイトル訳)胎児または乳児におけるビタミンD不足がマウスで自閉症を誘発する。腸マイクロバイオームの構成とホメオスタシスの乱れのつながり
(URL)https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2024/fo/d4fo00279b
(概要)生後間もない赤ちゃんのビタミンD不足が自閉スペクトラム症の発症リスクを高めることが知られており、さらに彼らは消化器症状を伴ったり腸の透過性が高まることが知られている。これらの関連から、妊娠期または授乳期の母親のビタミンD不足が子どもの自閉スペクトラム症リスクに与える影響を検討するのが本研究の主旨。
この論文では、マウス実験で妊娠期と授乳期の母親のビタミンD不足が子どもの自閉スペクトラム症を誘発することを確認した。
さらに、FMTを行うと自閉スペクトラム症様の行動が軽減した。
(著者)Heng Zhang ら
Department of Child Health Care, Wuxi Maternity and Child Health Care Hospital, Affiliated Women's Hospital of Jiangnan University, Wuxi, 214002, Jiangsu, China.
(雑誌名・出版社名)Food&Function
(出版日時)2024 Mar 27
(コメント)有料です。細かい実験が無料では見られないので、詳しいことがわからない。

中年期うつの女性の腸マイクロバイオームは、それを移植した女性中年期マウスにうつのような行動をもたらし、血漿脂質代謝を変化させた。

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0022395624001651?via%3Dihub

[Regular Article]
(タイトル)The gut microbiome from middle-aged women with depression modulates depressive-like behaviors and plasma fatty acid metabolism in female middle-aged mice
(タイトル訳)中年期うつの女性の腸マイクロバイオームは、それを移植した女性中年期マウスにうつのような行動をもたらし、血漿脂質代謝を変化させた。
(URL)https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0022395624001651?via%3Dihub
(概要)女性の中年期におけるうつ(MAD)と腸内細菌における研究は少ない。本研究では、31人のMAD患者と24人の健康なヒトから集めた便を16s解析した。結果、Dorea、Butyricicoccus、およびBlautiaを含むいくつかの細菌群で有意な差が見られた。さらにMAD患者と健康ドナーの便を抗生物質投与済みのマウスに経口投与したところ、うつ様行動や血漿脂質の変化が見られた。
(著者)Zheng-Wu Pengら
Department of Psychiatry, Xijing Hospital, Air Force Medical University, Xi'an, 710032, China
(雑誌名・出版社名)Journal of Psychiatric Research(ELSEVIER)
(出版日時)2024 Mar 21
(コメント)うつの原因や病態はさまざまあるが、女性ホルモンバランスの変化によるうつに悩む女性の数は右肩上がりなので、とても有用な研究だと思う。

養豚場とその周辺における薬剤耐性菌の拡散

[Regular Article]
(タイトル)Dispersion of antimicrobial resistant bacteria in pig farms and in the surrounding environment
(タイトル訳)養豚場とその周辺における薬剤耐性菌の拡散
(URL)https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10981832/
(概要)豚肉の流通における薬剤耐性遺伝子の重要性を検討するため、イタリアの養豚場のブタの便やその周辺から294サンプルをあつめ、遺伝子解析を行った。その結果、530の遺伝子が見つかり、308の遺伝子がブタの腸内で共有されていた。これらの遺伝子は18の異なる抗生物質に耐性を持つなど、ヨーロッパでの養豚における抗生物質の使用と符合していた。
(著者)Simone Rampelliら
1Fano Marine Center, Fano, Italy
(雑誌名・出版社名)Animal Microbiome(BMC)
(出版日時)2024 Mar 30
(コメント)家畜への抗生物質投与について厳しいヨーロッパでこうなのだから、アメリカや日本はいかほどかと恐ろしい。なるべく肉の摂取を減らし、浮いたお金で抗生物質不使用の肉を買うという行動をするべきなのかも。(と思いつつできていない)
抗生物質を飲んでいなくても、食品から低用量の抗生物質を摂取しているリスクについては、マーティン・ブレイザー氏らの研究に詳しい。

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