定刻(「かばん」2017年5月号・ゲストルーム)

思ひ出の芽吹く季節に出て行かう時をり花をうしろへ投げて

かつて見たすべての春が窓といふ窓を両手で散らかしてゐる

駅までのおよその距離を考へて途中にコンビニを思ひ出す

間に合つた順に扉のむかうへと流されながら流れを作る

記憶からこぼれた声を埋めながら 消えるね、たんぽぽの綿毛たち

定刻を告げて鳴り止む音楽の耳に沈んでゆく切れつ端

いつてしまつたものの気配をひき寄せて夜のホームに迷ふはなびら

かういふ事はもつと早くから手を打つておけと、知らない春が笑つた

まだ届くやうな気がして手をのばすそしてくりかへされる花冷え

遺志と呼ぶ程ではないが散りながら桜は何もかも受け入れる

秒針がゆがんでゐても役に立つ時計 わたしは自分が嫌ひ

定刻をむかへてもなほここにゐる頼むから手をふらないでくれ

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濱松哲朗

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