「塔」2018年3月号(月詠)

心にも無いことを云ふ はじめての君の真顔にくるしんでゐる

哀しみは少し遅れてやつてくる旋律はやがてヴィオラに降りて

水色のシーツ廻して真夜中の穴となりたりコインランドリー

吹けば飛ぶと思つてをればほんたうに死んでしまつて、とおまへも云ふか

ぶれぶれの写真に残るよろこびが削除の指を遠ざけてゐる

空砲のごとき言葉を放ちつつ確かめてをりわれの孤立を

生活にわづかに起こる綻びの双子の卵割り入れる朝

草臥れた背骨を持つた生きものが夜の鎖となりて歩めり

(p.92)

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