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行動を変えたいのであれば、「感情」に火をつけろ。|カルチャーデザイン

私の多くのnoteで語ってきた「企業文化デザイン|#カルチャーデザイン」は極めて概念的、そしてやや抽象度の高い領域でのデザインプロセスが主だった。半分以上は意図的であり、まず必要なのはそもそも「企業文化がなぜ重要なのか?」、そしてその無形な「企業文化」のメカニズムとダイナミズムを理解することが全ての出発点であり、多くの企業においてまずそのマインドセット・明示的な説明能力を向上することが真に重要であると思うに至った経緯がある。

一方で実際に寄せられる「企業文化」に関する悩みや問題というものは当然極めて具体的であり、属人的であり、時に泥臭い。故に、実践を語る上においてはその組織固有の文化とまず向き合い、最大限に解像度を高めた結果の「特殊解」を求める必要があり、それを語ること自体は直接的に他の企業に転用できるものではなく、往々にしてその固有な組織の特定なコンテキストを前提にしないといけないため、多くを公に語ることは難しい。

そんな具体の企業文化デザインプロセスにおいて、長年の膨大な実践と調査結果から、企業文化の変革・強化における最大公約数的な実践フレームワークを提供してくれる文献を紹介したい。

原書となるのはPwC Strategy&が2019年1月に発行した書籍「The Critical Few」。著者の一人ジョン・カッツェンバックは世界的に有名な組織文化の専門家、彼の長年のコンサルティング活動を通じて、それぞれの組織に特有の文化を特定し、進化させる独自のメソッドを本書で紹介している。

企業文化の強化や変革の必要性に対する「実用書」といった表現が的確な本書の、先ずはハイライト的な一文を紹介するところから本noteをスタートしたいと思う。

私たちがオススメしたいのは「最善の文化」とはどのようなものかといった抽象的なことを考えるのではなく、既存の文化の最も強靭で、最も信頼でき、最も効果の高い要素に焦点を絞ることだ。それこそが、人々から最高の力を引き出すための最速かつ最も有効な方法だと、私たちは信じている。

さらにそのメソッドの要点を最初にインストールしておこう。

・感情的エネルギーと向き合う
・価値観ではなく、「行動」を促すような「形質」と向き合う
・「形質」を具体化する「要の行動」を導き出す
・膨大な形質/行動リストではなく少数の重要なものだけにフォーカスする
・文化を体現する「真の非公式リーダー」を中心に感情と行動の連鎖を創る

こちらをベースに、私なりの企業文化デザイン論を展開しながら企業文化デザインの実践における核心を紹介する。

「行動」を変えるために、「感情」と向き合う。

こちらのnoteで論じたように、固有の企業文化の実態に寄り添うほど、「行動」レベルでのデザインが求められる。理想や概念としての規定の先に、絵に描いた餅を飲み込んで組織全体に泥臭く消化させていくプロセス自体が企業文化デザインの本質とも言える。

大雑把な言い方になるが、組織や企業を変革する には、そこで働く人々の行動を変える必要がある。そしてすべての従業員の行動を変えるには、彼らの感情に訴えなければならない。私たちが文化への介入を重視するのは、そのためだ。

人類は「論理」の動物ではなく「感情」の動物である。

そんな「人」の集合体である「組織」もまた、論理ではなく「情理」で集団行動をする。

組織の変革において「行動レベル」で変えていかないと本質的に何も変わらないというのは理屈で理解できるだろう。分かりやすい事例はいわゆる「コアバリューの作成と浸透」と呼ばれるような、企業文化の明文化と浸透プロセスだ。多くの組織が実際つまずくのが「浸透」プロセスであり、綿密に形作られた「コアバリュー 」を「浸透」させる段階で様々な壁にぶち当たる。ありがちなポスターの掲示などによって視覚的にはインストールさせるかもしれないが、それらは「行動レベル」に落とし込まれなければいけない。

そして「行動レベル」に真に訴えかけるためには、「感情に訴えなければならない」というのが本書の語る重要なマインドセットであり、常に「感情的エネルギーがプラスに働くのか」というのが「行動レベルまでの企業デザイン」におけるリトマス試験紙だ。

音楽に映画やドラマ、小説や演劇などの「エンターテイメント」よって人々が心を動かされ、時に行動を起こすのはそれが「心の琴線に触れる」からであり、何よりも先ず「感情」を動かされるからに他ならない。

例えば中国の春秋戦国時代を描いた人気マンガ作品の「キングダム」は、単なるエンターテイメントにとどまらず、そのストーリーにおける学びをビジネスの世界へ転用させようと一大ムーブメントになったが、それは実際多くの識者がお行儀良く「リーダーシップ論」だのとまとめあげる以前に、登場するそれぞれのリーダーが何よりも隊の「感情」を動かし、その結果として隊の「行動」が変わり、最終的に「勝利」するという極めて感情的なストーリーだったからだ。

戦いの連鎖|「方針」→「戦略」→「感情」→「行動」→「勝利」

という戦国時代も現代のビジネス環境でも変わらない「戦いの連鎖」において、どうもビジネスの現場においては真ん中の「感情」が抜け落ちる場合が多い。やや幼稚な日本語を借用するが、人間や組織は「やる気」がエネルギー源であり原動力だ。それは小学生でも分かる基本的な人類の本質である。そんな「気」のレベルで図体の大きい組織を文字通り「動かす」ためには、戦いの連鎖のど真ん中における「感情的爆発」がいかに重要か、誰しもが感覚的に理解できるのではないだろうか。

今という時代は、定性より定量であり、情理より論理であり、ビジネスにおける「感覚」を徹底的に排除してきた歴史の最先端に立っている。しかし、今一度「感情」「やる気」「感覚」といった「感情的エネルギー」をいかにマネジメントするかという視点を、企業文化デザインという視座から取り戻して行きたいと真に願っている。

クリティカルな少数の要素に、全精力を注げ。

私論が過ぎたが、本書の内容に戻り、著者が定義する「組織文化の3つのカテゴリー」を紹介しよう。前談の通り、これら3つも全て「感情的エネルギー」をその持てる力の源泉としている。

1. 形質(Traits)
2. 要となる行動(Keystone Behaviors)
3. 真の非公式リーダー(Informal Authentic Leaders|AIL)

そしてこのシンプルな3つの要素に注目しつつ、「実用書」としての本書にリアリティを持たせているコンセプトがまさに「The Critical Few」だ。

包括的なアプローチによって物事がうまくいくようになったと語るリーダーにはまだ会ったことがない。複雑さは煩わしいだけであり、包括的アプローチはエネルギーの無駄だ。あなたに必要なのは単純明快さと、社員全員を前進させる少数の要素だ。

企業文化のデザインにおいて、目の前の組織における感情的側面に真っ正面から向き合いながら、自社ならではの1〜3を明確にしつつ、それらをリアリティのあるレベルに昇華させるために真に需要な少数の要素にまで絞り込む。包括的なアプローチではなく、文字通りクリティカルなインパクトを与えられる少数の要素にのみ全精力を注ぎ込む。勝つために、小さい勝利を捨ててオセロの四隅を獲りに行くアプローチといえば良いだろうか。そして、そのプロセス自体が組織の感情的エネルギーを育んでいく

「価値観」ではなく、「行動」を促す「形質」と向き合う。

以下、3つの要素を簡単ではあるがエッセンスだけ紹介する。詳細は本書を参照頂きたい。

1. 形質(Traits)

と表現される1つめの要素で大切なのはいわゆる「コアバリュー (真の価値観)」のような「こうでありたい」という「理想」を含むものよりも、もっと具体的で会社固有の仕事の進め方を如実に表すような要素だ。コアバリュー と対で語られる「行動指針」に近い表現とも言える。

重要なのは、その組織固有の「形質」をなるべく多くクリアにして、そこに内包される「プラス」と「マイナス」の感情的側面まで把握することだ。あくまでも、いかにポジティブに感情的エネルギーを育んでいくかという視点を忘れてはならない。

そして、この膨大な「形質のリスト」が完成したら、以下の判断軸を基に3〜5のCritical Fewへ絞り込んでいく

・会社の本質を反映しているか
・社内全体に共鳴を起こすか
・プラスの感情を引き起こすか
・あなたの会社の目標を支援するか

最善の形質を体現する、クリティカルな「行動」を見つける。

Critical Fewな「形質」が明らかになったら、それらを体現する

2. 要となる行動(Keystone Behaviors)

を見つけ出すジャーニーが始まる。ここで求められるのも圧倒的リアリティだ。誰が、どこで、いつ、どんな時に取った、たったひとつの行動がその組織全体に感情の連鎖となって伝播し、結果として組織全体の行動を変えるような要となる行動を明らかにしていく。

「形質」と同様に、「要となる行動」への判断軸として以下4つに留意したい。

・普遍性
・説得力
・シンプルさ
・独自性

絞られた形質から導き出された「行動」もまた、ロングリストとなる。当然ここでもさらにクリティカルな少数へ絞り込んでいく。この最後の絞り込みにおいての優先順位を次のリストを参照に行う。

・幹部が自ら実践するか
・事業の目標に影響を与えるか
・動機付けと続く努力に影響するか
・実施は容易か
・測定可能か
・可視化できるか
・普及のしやすさがあるか

文化を体現し文化に影響力が大きい「真の非公式リーダー」を中心に感情と行動の連鎖を創る。

固有の企業文化デザインに圧倒的なリアリティを与えるのは「人」であると言っていい。文化のデザインプロセスにおいて、by nameで議論が交わされるほどそこに独自の文化が浮き彫りになる。本書のデザインプロセスでも最後にたどり着くのはby nameでのピックアップである、

3. 真の非公式リーダー(Informal Authentic Leaders|AIL)

への着目と包含だ。

私もこちらのnoteでも論じたが、企業文化の強化とはつまり、社内のあらゆるグレーゾーンのしらみ潰しである。そのプロセスをざっくりと三階層に分けると次のように定義することができる。

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今回紹介している本書のプロセスはまさに

2. 集団的合意と共有|Collective Agreement and Sharing

に該当する「文化を体現する行動ストーリーの可視化と共有」に他ならない。そして企業文化デザインプロセスの最後のピースとしてやってくるのが「配役」である。
上記noteでは文化の設計者(Culture Architect)と表現しているが、本書のプロトコルでいえば「真の非公式リーダー(Informal Authentic Leaders|AIL)」ということになる。組織固有の文化に立脚した上で、感情的エネルギーの連鎖を引き起こすことができる彼らは、必ずしも明示的な肩書きやリーダーではないとしている。AILを見極める軸として次のような項目が挙げられている。

・出世街道を駆け上るような人ではない
・EQ(心の知能指数)が傑出している
・自社の文化について正しい考えを持っている
・感情的な直感力が強い
・一見すると不満分子にも映るが、誰よりも重要なものを守ろうと戦う気概がある

組織のリーダーは、常に生きる組織の感情的側面と向き合わなければならない。前談の「戦いの連鎖」

「方針」→「戦略」→「感情」→「行動」→「勝利」

において、正しい方針や戦略を立てるだけでは不十分で、その時々の独自の「組織力学」を理解し、その力学をベースに方針や戦略を感情に乗せて組織レベルで実行可能なものにするべきなのだ。その際に強力な五感のサポーターとなってくれるのがAILと理解することができる。

AILは、表面下にどのような感情が潜んでいるか、リーダーのどのような決定がそれを刺激するかを推察し、組織内で特に注意を向けるべき要素をリーダーに教える。

全てはプラスの感情の連鎖を起こすために。
組織固有の真に重要な行動にフォーカスして、企業文化をデザインしていく。

最後に

「形質」「行動」「AIL」の3つの要素を軸とした組織改革の実践プロセス、その詳細はぜひ本書を参考にして頂きたい。詳細の紹介は省いたが、個人的に本書が語る、企業文化デザインにおける最も本質的な価値は

全てのデザインプロセスを「感情的側面」と結びつけたことだ。

ベストプラクティスを導入するだけでは、どうもうまくいかない組織問題のほぼ全ての根源はここにあると言っていい。
真のリーダーは、人間としての五感をフル活用し、足りないのであれば文化の設計者となるような逸材を視座を借り、固有の組織力学を理解した上で組織の感情的エネルギーを最大化させる。

行くべき道を見つけ、戦略を練り上げて、役者が揃ったのであれば、
いざ、士気を上げよ。


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