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[読書メモ] じぶん時間を生きる / 佐宗邦威

じぶん時間を生きる TRANSITION

コロナ過をきっかけに人生の時間の使い方を再定義し直して、軽井沢への移住によって「じぶん時間の生き方」を実践した作者の考察について余すことなく記録している。じぶん時間を持つことによる相反する感情との向き合い方や、移住に伴うメリットとデメリットが記載されていてとても参考になる。個人というより人類の生活スタイルの転換期であることを認識できる一冊。

何かをやめて生まれた空白の時期。終わらせることで、新しいものが入ってくるのを待つ時期だ。予定に埋め尽くされていない、余白の時間。同時に何者でもない恐れとも対峙するというアンビバレントな長い探索の期間。それがニュートラルゾーンだ。
このとき大切だといわれていることは、「興味のあることはとりあえず何でもやってみること」。

じぶん時間を生きる TRANSITION|P.87

・アンビバレント(ambivalent):両義的。二つの対立する感情や考え方を同時に持つこと

ニュートラルゾーンは、新卒の就職活動時期の感覚と似ている。自分自身の「得意」と「不得意」や、「向き」と「不向き」を自己認識し、様々な企業を見たり体験することで興味のベクトルがどこに向いているのかを確認する作業。

ビジョンに良し悪しがあるかというと、言葉の裏にある、世界観や大事にしている価値観が伝わっていくものが、良いビジョンだ。伝わりやすさだけでなく、その人が何を大切にしているかを感じられるとさらに良い。最終的なビジョンの役割とは世の中を大きく変えていくこと。だから、周囲がそのビジョンについていきたくなるか、共感力や波及力が問われることになる。

じぶん時間を生きる TRANSITION|P.115

個人のビジョンにせよ企業のビジョンにせよ、ビジョンには嘘がないことが大切。ビジョンは恣意的であってもいけないし、人を意図的に誘導するようなものでもいけない。人の根幹の部分で共感できるビジョンが良いビジョンといえる。

「人間が変わる方法は三つしかない。ひとつは時間配分を変える、二番目は住む場所を変える、三番目は付き合う人を変える、この三つの要素でしか人間は変わらない。もっとも無意味なのは、『決意を新たにする』ことだ。かつて決意をして何か変わっただろうか。行動を具体的に変えない限り、決意だけでは何も変わらない」

じぶん時間を生きる TRANSITION|P.129

具体的な行動を物理的に起こさない限りは、自分自身の周囲の環境は変わらないということ。
とは言え、住む場所・職場や付き合う人を変えることは直接的に環境を変るため、少なからず自分自身の周囲の人間を巻き込むことになってしまう。
一方で、時間配分を変える行動は自分自身の影響だけに留めることができるものも多い。起きる時間や寝る時間を変える行動変化だけでも、多少の変化を生じさせることができるかもしれない。

地方移住というと、<中略>自分の道を歩むという孤独感とも隣り合わせなのだ。東京で働いているときは、「これが素敵な生活だ」というライフスタイルの階段が見えていて、無意識に一歩一歩上がって行くことができた。だが都会を離れると、ベンチマークがなくなる。

じぶん時間を生きる TRANSITION|P.181

・ベンチマーク(benchmark):特定の基準や基準点として使用されるもの

ベンチマーク(比較基準)が無い分、基準は自分自身で決めるしかない。基準を自分自身で決めることができるとも言える。自分自身の物差しを改めて見直す必要があるかもしれない。また、他人の物差しを尊重する態度も必要になるだろう。

20~30種類ぐらいの野菜が混在するような農園にすると、土の中の細菌の多様性は担保される。その分、作物の形は悪くなり、サイズもあまり大きくならないけれど、土地がやせない持続可能な農園ができる。

じぶん時間を生きる TRANSITION|P.193

まったく知らなかった知識。これを知っていると、不揃いの野菜を見た時に何の躊躇も無く選ぶことができそう。

近代以降の僕らは、過ぎ去っていく時間を、不可逆な直線的なものとしてとらえている。しかし、近代以前、人々は、時間を円環して繰り返すもの、という感覚でとらえていた。

じぶん時間を生きる TRANSITION|P.267

資本主義社会によって時間は不可逆となり、経済的な成長だけが直線的な時間の間隔で唯一の価値だった。確かに、経済成長や資源枯渇などの概念を無くすと地球の自転のように時間はただの繰り返しだと考えることもできる。繰り返す時間の中で、自分の有限時間をどのように生きるのかを見直す時間を定期的に持つようにしたい。

特に重要なのは<中略>コンサーマトリーだ。これは「現在を楽しむ」という意味で、今行っていることを、未来の目的やゴールに対する「手段」とするのではなく「行為」そのものとして楽しむ姿勢のことだ。

じぶん時間を生きる TRANSITION|P.271

・コンサマトリー(Consummatory):楽しみや喜びを得るための行為や活動のこと。美食家が美味しい料理を楽しむことを「consummatory pleasure(完結的な喜び)」と言うことがある。
・インストゥルメンタル(instrumental):道具主義ともいう。目的達成のための行為や行動を、道具や手段と考えること。
・プロセスエコノミー:商品や制作物といったアウトプットだけではなく、それらを生み出す過程(プロセス)自体が収益をもたらすという考え方やそれを実現した経済

未来の目的に偏重することなく今の時間を大切にする考え方は、メンタルケアの観点でも非常に重要になってきている。また、目的よりも行為を重視する考え方はプロセスエコノミーにも通じる考え方。

コンサマトリーとインストゥルメンタルについては、下記で詳しく解説されている。

この時代に、人間が鍛えるべき能力は何か。それは、自分の心身で感じ、自分の好きに忠実に遊び、やりたいことをイメージして、そのワクワクすることをやろうと自己決定する力ではないかと思う。ネットに答えが存在しているようなシンプルな思考はAIができてしまうからこそ、自分がやりたいことを明確化して、それをAIを活用しながら、自分なりの表現のために活用する。<中略>自分のやりたいことをイメージして、自己決定する力こそが、今後ますます、僕らの幸福を決めることになるだろう。

じぶん時間を生きる TRANSITION|P.292

「自己決定」は非常に重要なキーワードになりそう。一方で「自己決定」を促したり「自己決定」の力を養う教育はとても難しい。「自己決定」にはある程度の人生経験や判断材料が必要になるから、その経験や判断材料を用意できる仕組みがあれば人それぞれにマッチした「自己決定」ができるようになるかもしれない。


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