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介護事業経営コンサルタントの介護雑記

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介護事業経営コンサルタントを25年超やっておりますが、自分が入りたいと思う施設は本当に少ないです。施設の職員に聞いても自分の働いている施設に将来入りたいと答える職員はほとんどいな… もっと読む
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地獄への道行き―より良い介護を目指して―

  はじめに  私は介護施設に約7年勤務し、介護事業経営のコンサルに25年以上携わってきました。そして、目出度く?介護保険の第一号被保険者になりました。そろそろ、自分の老後のことを考えなければならない年になったわけですが、今までの、経験をつうじて、将来利用するかもしれない日本の介護施設に危機感をもっています。  私は介護施設は非常に危険なところだと思っています。私の現在の関心事は、より良い介護施設を如何にして創っていけるのかということです。  日本の介護施設を見渡した時、

ISOは介護品質を保証するのか?-介護施設サービスの品質 1

   よく、「介護サービスの品質向上」という掛け声を聞きますが、この介護サービスの品質について、じっくりと考えてみる必要があると思います。  じっくりと考えるといことは、何かの外部指標等に囚われたり、軽々に飛びついたりせずに、介護サービス利用者の視点を踏まえながら考えるということだと思います。 1.ISOとは 先ほど、外部指標に囚われずに、と記しましたが、外部指標、外部機関の評価ということで言えば、真っ先に頭に浮かぶのはISOではないでしょうか?  ISOとはInter

「剥き出しの生」に抗して~贅沢は敵か!? 介護施設の課題Ⅳ-4

1.超法規的な目的合理性の貫徹 介護施設で、なぜ人権が安易に抑圧されることがあるのでしょうか。介護施設で働く人たちに問題があるからではないでしょう。そこには、何らかの構造的な要因があるはずです。  國分功一郎(哲学者)さんは官僚制(bureaucracy)を、その語源から官僚支配(bureau: 事務所; cracy: 支配)と訳し直したうえで次のように指摘しています。  さらに、ハンナ・アーレント[1](Hannah Arendt 政治哲学者)の次の言葉を紹介して

未来より今でしょ!高齢者介護の時制-介護施設の課題Ⅳ-3

1.コンサマトリー/インストゥルメンタル 大澤真幸(社会学者)さんはコンサマトリー(consummatory:即自充足的)という概念を紹介していますが、この「コンサマトリー」という概念は介護における「必要-目的-手段」・「ニーズ-自立-介護計画」思想を解析するために有効な概念だと思います。  コンサマトリーとは、それ自体で充足的な価値を持つという意味で、その反対語はインストゥルメンタル(instrumental)つまり、手段的、道具的ということです。  大澤真幸さんはコンサ

「不要不急」思想の影響 介護施設の課題Ⅳ‐2

1.不要不急という思想 國分功一郎(哲学者)さんはコロナ危機を生きるための新たな日常の指針として多くの国民に内面化された「不要不急」について考察しています。  同氏はコロナ禍によって社会に次のような傾向が強まってきたと危惧しています。  「不要不急」とは「どうしても必要というわけでもなく、急いでする必要もないこと」ですが、國分功一郎さんは、この「不要不急」概念の中核には「必要」の概念があり、その「必要」概念は「目的」概念と深く結びついているといいます。  そして、國分功

コロナ禍を振返る‐介護施設の課題 Ⅳ-1

 人は困難な時、非常時にこそ、その人柄がハッキリ見えてくるように思います。介護施設も同じでしょう。ここで、コロナ禍における介護施設のあり方を検証することによって、介護施設の課題を詳らかにできるのかもしれません。 1.面会制限・禁止は人権侵害 日本人の脆弱な人権意識に新型コロナのパンデミックがとどめを刺してしまったのではないかと、私は怖れています。パンデミック[1]という歴史的な災いにより、介護施設での人権軽視、人権無視という病が進行してしまったのではないでしょうか。

制服の功罪 介護施設の課題 Ⅲ-4

1.制服の効能 多くの介護施設で職員はユニフォーム・制服(以下「制服」という。)を着用しています。制服とは、ある集団に属する人が着るように定められた服装で着用の義務があるものです。制服着用は規律の一種で、警察、消防等の公的または準公的な組織では制服を用いることが多いでしょう。  制服は職員にとっては、「私は仕事で介護しているのであって、プライベートで介護しているのではありませんよ。」と、介護職員と入居者の距離感を確保する効果があります。この距離感は、プロとして冷静に客観的

パノプティコン性 介護施設の課題 Ⅲ-3

1.パノプティコン性 介護施設とは何かということを考えるとき、語るとき、パノプティコン(panopticon;一望監視施設)という概念を外すことはできません。  パノプティコンとは、イギリスの思想家ジェレミ・ベンサム(Jeremy Bentham)が考案した監視塔から監獄のすべての部分が見えるように造られた円形の監獄のことで、ミシェル・フーコー(Michel Foucault) が『監獄の誕生 監視と処罰』(田村俶訳、新潮社、1977年)において、近代管理システムの起源と

介護施設の「全世界化」と「囲い込み」 介護施設の課題Ⅲ-2

1.「全世界化」による抑圧性(1)施設度と全世界化  多くの人は、たとえ障害があっても、できるだけ自宅で暮らしたいと思っているでしょう。そして、もし介護施設に入居しなければならないとしても、「施設度」が高い介護施設より、「施設度」が低い介護施設の方が望ましいと思うことでしょう。   ※ 「施設度」というのは「施設っぽさ」のことです。  介護施設にもさまざまな施設があり、その「施設度」にも大きな差がありますが、岡本和彦(東洋大学教授:建築学者)さんは「施設度」が高じていく

そもそも介護施設とは何なのか 介護施設の課題Ⅲ-1

1.介護施設における「人間・空間・時間」  そもそも、介護施設とは何なのでしょうか?  介護施設を介護施設たらしめている要因について考えてみたいと思います。   上野千鶴子(社会学者)さんは施設度についての岡本和彦(東洋大学教授、建築学者)さんの見解を紹介しています。  ここでいう施設度とは要するに、在宅介護とは違う、「施設っぽさ」ということですが、この施設度を決定するパラメータ(変数)は、人間、空間、時間の三つだとしています。  岡本和彦さんの施設度は、失見当識[1]

「迷ってみようよ!」 介護施設の課題 Ⅱ-5

1.「業務日課」システムとは 「業務日課」は介護施設の時間規則を中心としたオペレーティングシステムです。この「業務日課」というシステムに介護業務のマニュアルが付け加わり、効率的で強固な介護現場の最強システムになっているのです。  このシステムは介護施設における円滑な集団生活を維持するという公共の利益に沿うものと言えるかもしれません。  このシステムに則り、忠実に業務を遂行するのが組織の規律であり、組織内の道徳といえます。ですから、多くの職員はこの「業務日課」の遂行を至上命題

「迷いのない介護」が支える「業務日課」至上主義 介護施設の課題Ⅱ-4

1.思考実験「迷いのない介護」 「業務日課」至上主義を支えているのは、「迷いのない介護」を行う者たちです。「業務日課」至上主義を遂行しようとすれば、介護をするときに、迷ったりしていてはダメなのです。  迷いのない介護職員は、介護する時に一々考えたりしませんし、自らの介護を疑わず、自分の介護を見直すこともしません。自らの介護を疑わないのですから、当然、自信を持つこともできます。  この「迷いのない介護」は、一方的な介護、スピード重視の効率的介護、倫理の欠如した介護へとつながっ

脱「業務日課」至上主義を目指して-介護施設の課題Ⅱ-3

1.「業務日課」至上主義からの脱出(EXODUS)  「業務日課」至上主義からの脱出の条件、可能性を探ってみましょう。 (1)問われる経営者の姿勢 「業務日課」至上主義から脱するには、第一に理事長や施設長などの組織のトップの価値の貫徹姿勢がもっとも大切だと思います。当事者(入居者)の尊厳、人権を守り、当事者との相互行為である介護を行うためにはトップの意志が大切ですし、それを多くの職員たちと共有していくことが必須だと思うのです。  旧約聖書[1]の『出エジプト記』(EXOD

「業務日課」至上主義の背景と疎外 介護施設の課題Ⅱ-2

1.なぜ「業務日課」至上主義がはびこるのか そもそも、何故、「業務日課」至上主義がはびこるのでしょうか。人員不足などの体制の問題も大きいと思いますが、ここでは人間的な要因、社会的、心理的な要因について考えてみます。 (1)ヒラメ・キョロメの過剰同調  宮台真司 (社会学者)さんは日本人の過剰な同調性について鋭い論評を展開していますが、この観点も「業務日課」至上主義がはびこる理由を考える上で参考になると思います。  同氏はヒラメ(思考停止で上位者に伺いを立てる者)・キョロ