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le soleil 4

僕たちは、フランス語で太陽を意味する「soleil」と刻まれたアクセサリーを恥ずかしげもなく選んだ。
それは、ダイとジャンヌが出会ったあの小さなホテルの名前があしらわれたものだった。

僕たちはそのアクセサリーを車に積み込み、ジャンヌの待つJR田町駅へと急いだ。
街には冷たい風が吹いていた。僕はその時初めて田町駅(正確にはガード下)に行ったわけだが、そのどこかのんびりした名前とは裏腹に、とても都会的な場所だった。
もし今会えないと、一生会えないかもしれない。僕とダイは、そんなことを思いながら足早に待ち合わせ場所へと向かった。

ようやく見つけたジャンヌは、大学の友人に見送ってもらったのであろうか、大勢の若者の輪の中にいた。
彼らはとてもきらきらとしていて、見ている限り言葉の壁もないようだった。
同年代なのに英語など全く話せず、同じ山手線でも極北部からはるばるやって来た僕とダイ。僕たちはその状況に面食らってしまい、もう息は整っていたのに、いつまでも声をかけられずにいた。

そんな僕たちのことを見つけると、ジャンヌは弾けるような笑顔で近寄ってきて、にこやかに、フランスに帰ることを告げてくれた。
その後ろでは、大勢の大学の友人たちが僕たちのことを見ていた。

僕はがんばってとしか言えず、ダイは二、三言葉を交わして控えめにプレゼントを渡した。
それが精いっぱいのお別れの気持ちだった。

僕たちはその夜はじめて、自分が誰かの人生では脇役に過ぎないという残酷な事実に出会ってしまったのだと思う。
そんなことから、僕たちはすごくみじめな気持ちになってしまい、しっかりお礼やお別れを伝えることができなかった。
今でもそれを、すごく残念に思っている。

最後にジャンヌは寂しそうな笑顔で「ハグできる?」と聞いてきた。
僕たちは正直「ハグってなんだ?どこまでするんだ?」と思いながら紳士的な顔で別れのあいさつを交わし、枯れ葉舞う田町駅を後にした。

こうして、恥ずかしげもなく夢見ていた淡い恋はあっけなく終わった。

帰り道、僕は友だちの運転する車の中からジャンヌの姿を探してみた。けれど、都会の雑踏の中でもう見つけることはできなかった。

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