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読書感想文「肉を脱ぐ」

 会社の人事部で働く佐藤慶子は柳佳夜というペンネームで小説を書いている。とはいえ一度文芸誌に載っただけなのだが。
 自身の身体に嫌悪感を抱き、性欲、食欲などの生命活動にも冷ややかな彼女は自分の存在価値をネット上に探すようにエゴサを繰り返すが、芥川賞候補になる友人とは違って誰も自分のことを話題にすることはない。
 ある日いつも通りエゴサをすると、同姓同名のVチューバーが見つかる。登録者も少なく、白々しい設定だったので無視していたのだが、二作目の小説が掲載される頃にはまもなく登録者100万人という人気になっていた。発表した小説も評価される以前になりすましを疑われ炎上する。身体を持たない存在に自分の居場所を奪われたと、彼女はVチューバーの柳佳夜に執着していく。

 世の中には「バ美肉」という言葉があって、「バーチャル美少女を受肉」の略で、美少女Vチューバーを始めることを指すみたいです。タイトルからそんな言葉を連想して、もうちょいコメディかと思ったのですが、重々しい作品でした。
 主人公は自分の肉体を嫌い、ネット上に生き場所を探すけど、果たしてネット上の自分はそんなに肉体と乖離した精神的な存在なのかしらと疑問に思いました。主人公も後半で言っている通り、ネット上の存在の奥にはやっぱり生身の人間がいて、同じようにお腹を空かせていたり、性欲が湧き起こったりしているのだろうと、そんなことを考えさせられる作品でした。

 主人公がネガティブだと読むスピードが遅くなっちゃうタイプなので、結構ずっとしんどかったです。特に冒頭との対比で描かれたラストシーンはだいぶ顔を顰めないと読めないしんどさでした。

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