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「コロナ」を含む53冊の書評本(新聞書評の研究2019-2021)

はじめに

筆者は2017年11月にツイッターアカウント「新聞書評速報 汗牛充棟」を開設しました。現在は「新聞メタ書評報 汗牛充棟」という名前です。

全国紙5紙(読売、朝日、日経、毎日、産経=部数順)の書評に取り上げられた本を1冊ずつ、ひたすら呟いています。

なお、2019年~2021年のデータ分析は以下のマガジンにまとめています。

前回の連載では、書評で紹介された本のタイトルの分析から、大河ドラマと朝ドラが出版界に与える影響が大きそうなことを示しました。2020年と2021年の共通のキーワードが「コロナ」だったことも明らかにしています。

「コロナ」がタイトルに含まれる書籍は、2020年に25タイトル、2021年に31タイトルありました。両年にまたがっている3タイトルは2020年の分としますので、計53タイトルとなります(2020年25タイトル、2021年28タイトルです)。

さて、世界を襲ったコロナ禍は、日常の生活を脅かしただけでなく、政治、経済、社会、医療のすべてを傷つけました。数多くの分野、視点からの本が書かれました。できる限り関連した分野ごとに並べて、コメントをつけます。

2020年の「コロナ本」25タイトル

『新型コロナ「正しく恐れる」』

まずはコロナウイルスを知る本から。西村氏はウイルスの専門家で、日経の記者がわかりやすく編集しています。

『新型コロナウイルスを制圧する ウイルス学教授が説く、その「正体」』

ウイルス学の権威である河岡氏に、ノンフィクション作家の河合氏が聞いています。

『コロナの時代の僕ら』

イタリアの作家が言うように、コロナウイルスは「人間の関係性を侵す病」です。この意味では、り患の有無にかかわらず、すべての人がこの病に苦しんだのだとも言えます。

『パンデミックー世界をゆるがした新型コロナウイルスー』

コロナ下で哲学書が売れたそうですが、わかる気がします。スラヴォイ・ジェジェクはスロベニアの哲学者、マルクス主義者です。

『思想としての〈新型コロナウイルス禍〉』

日本の思想家・学者・作家ら19人が思想としてのコロナを語っています。メンバーは大澤真幸、仲野徹、長沼毅、宮沢孝幸、椹木野衣、與那覇潤、笙野頼子、酒井隆史、小川さやか、木澤佐登志、綿野恵太、樋口恭介、工藤丈輝、小泉義之、江川隆男、石川義正、堀千晶、白石嘉治、栗原康の各氏

『コロナ危機の社会学 感染したのはウイルスか、不安か』

社会学者も社会の不安に切り込んでいます。不安が連鎖する理由として、「耳を傾けすぎる政府」を指摘しているのがユニークなところです。

『コロナ危機の政治』

コロナ対策を問う本も数多く出されました。コロナ初期の政府の対応を丁寧にひも解くとともに、「安倍一強」ともいわれていた政権末期の安倍首相が、地方分権によって自律性を獲得した都道府県知事との調整に手間取り、指導力に制約を受けたというエピソードなどを盛り込んでいます。

『官邸コロナ敗戦』

産経新聞論説委員長が安倍政権のコロナ対応を厳しく批判しています。中国への忖度が感染を広げるきっかけになったなどという内容のようです。

『コロナ危機の経済学』

パンデミックと経済をどう両立させるかも難問です。政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会のメンバーでもある経済学者の小林氏と経済産業研究所の森川所長の共著です。

『新型コロナ対応民間臨時調査会 調査・検証報告書』

元朝日新聞主筆の船橋洋一氏が創設したシンクタンクが緊急出版しました。そうそうたる専門家が執筆しています。

『新型コロナ 19氏の意見』

幅広い分野の専門家にそれぞれの立場から聞いています。登場するのは、内山節、 髙田礼人、 山本太郎(長崎大教授です)、 山田真、内田樹、藤井聡、雨宮処凛、磯野真穂、魚柄仁之助、丸橋賢、宮崎稔、関野吉晴、高野秀行、那須田淳、羽生のり子、猪瀬浩平、森永卓郎、古沢広祐、山下惣一の各氏です。

『東京、コロナ禍。』

2020年はまだ感染が始まったばかりでしたが、それでもルポルタージュもいくつか出ています。コロナ戒厳下の東京をとらえた写真集です。

『新型コロナウイルスと闘った、韓国・大邱の医療従事者たち』

こっちは韓国の医療従事者にまつわるルポルタージュです。

『感染を恐れない暮らし方 新型コロナからあなたと家族を守る医食住50の工夫』

各個人ができる感染対策をまとめた本も数多く出されました。日ごろの暮らし方を見直して、免疫力を高めようと訴える本です。

『ヤマケイ新書 山登りでつくる感染症に強い体ーーコロナウイルスへの対処法』

この本も免疫力の強化をうたっています。「山登りでつくる」というところが、山と渓谷社の本らしくて面白いです。

『パンデミックを生き抜く 中世ペストに学ぶ新型コロナ対策』

700年前のペスト対策に学ぼうという本です。

『若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方』

著名心臓外科医の天野氏が心臓の重要性をつづっています。タイトルにコロナがついているのは、時流に乗った感じですね。

『コロナ不安に向き合う』

メンタル関係ではこんな本もでました。直接ウイルスにやられなくても、不安に押し潰されそうになった人は多いと思います。

『「新型コロナ恐慌」後の世界』

コロナが世界をどう変えるのかをテーマにした出版も相次ぎました。

『コロナの衝撃 感染爆発で世界はどうなる?』

この本もコロナ禍で世界がどうなるかがテーマですね。著者は外務省出身の国際政治学者で東大教授です。中国人脈を生かした内容です。

『アフターコロナ』

「日経クロステック」の専門記者による総力取材で、非対面経済の中核をなす「7つのメガトレンド」を予想するムック本です。

『コロナショック・サバイバル 日本経済復興計画』

企業再生のプロ冨山さんが、コロナ後の日本経済を予測し、企業や経営者への羅針盤を示します。

『コロナ・ショックは世界をどう変えるか』

ブルガリア出身の政治学者がコロナショック後を占います。宇野重規、細谷雄一、三浦瑠麗による特別論考付き。

『コロナ後の世界』

フランス文学者の内田氏が、コロナで露呈した日本の劣化をテーマにまとめています。

『ステイホームの密室殺人 1 コロナ時代のミステリー小説アンソロジー』

『ステイホーム』をテーマにした密室殺人のミステリーアンソロジーです。着眼点が素晴らしい。


2021年の「コロナ本」28タイトル

『新型コロナ「正しく恐れる」2 問題の本質は何か』

2020年に出た『新型コロナ「正しく恐れる」』の第二弾です。

『新型コロナ データで迫るその姿』

東京慈恵会医科大学の分子疫学研究部の教授がデータを徹底分析して、コロナに迫っています。2年目に入り、データが蓄積されたことで、少しずつこの感染症の正体が明らかになってきた時期ですね。

『新型コロナとワクチン 知らないと不都合な真実』

メディアにもよく登場していた米国研究機関在籍の若手免疫学者、峰宗太郎氏による、対話形式の解説書です。

『新型コロナの科学』

医師で、癌研究者としても著名で、最近ではサイエンスライターとしても活躍している著者がコロナウイルスに関する情報を様々な角度から提供しています。

『ちゃんと知りたい! 新型コロナの科学』

日本経済新聞の記者による解説本です。

『新型コロナと向き合う』

パンデミックの初期に日本医師会長だった横倉氏が振り返ります。

『日本政治 コロナ敗戦の研究』

高名な政治学者と日経新聞の記者が、コロナ対応で浮き彫りになった日本政治の失態を語ります。危機への対応力の弱さ、官僚を使いこなせない官邸、劣化した野党と政党政治など、日本の政治の弱さに焦点を当てています。

『コロナ対策禍の国と自治体』

こちらの本は『日本政治 コロナ敗戦の研究』とは逆に、「権力集中」こそが問題だったと主張しています。著者は行政学の研究者です。政治学の御厨氏と見立てが真逆なのが面白いです。

『コロナ対策 各国リーダーたちの通信簿』

栗田氏はベルギーを、プラド氏はとフランスを拠点とするジャーナリストです。

『コロナ禍をどう読むか』

対談したのは次の方々です。奥野克巳 × 近藤祉秋、逆卷しとね × 尾崎日菜子、吉村萬壱 × 上妻世海、清水高志 × 甲田烈、松本卓也 × 東畑開人、山川冬樹 × 村山悟郎、辻村伸雄 × 石倉敏明、塚原東吾 × 平田周

『コロナの時代の歴史学』

16人の歴史家が、パンデミック下の社会を読み解く試みです。

『コロナの憲法学』

歴史学者に続いて憲法学者もコロナについて考えました。著者は慶応大教授です。

『コロナ後の教育へ』

教育学者の苅谷氏も参戦しています。書籍の流れを見ると、当初は当然ながら、医学・免疫学系が多かったのですが、次に哲学、社会学が加わり、2年目になると、歴史学、憲法学、教育学と学際的な広がりを持ち始めていることがわかります。

『分水嶺 ドキュメント コロナ対策専門家会議』

パンデミックの2年目になると、ルポやドキュメンタリーなどのノンフィクションも増えてきます。この本は専門家会議を追っています。

『コロナ時代の選挙漫遊記』

コロナ禍での選挙活動を追った、変わり種のルポです。

『アンダーコロナの移民たち』

一番最初にしわ寄せが及ぶ人たちを社会的弱者と呼びます。その中でも最も脆弱な部類に当たる移民に焦点を当てたものです。

『コロナ禍を生き抜くタクシー業界サバイバル』

需要が蒸発したタクシー業界も社会的弱者といえます。悪戦苦闘を描いています。

『シェフたちのコロナ禍 道なき道をゆく三十四人の記録』

レストランの経営者、シェフ34人の奮闘を追いました。先行きが不透明な状況の中で、シェフたちの対応も様々です。全紙に書評が掲載されています。

『コロナとオリンピック』

日本の場合、オリンピック開催国であったことが、事態を複雑にしました。個人的にはやって正解だったと思います。

『ゼロコロナという病』

藤井氏は土木の専門家なのですが、コロナにも領域を広げています。木村さんは元厚労省のお役人。この人の「さざ波」発言を引用したばっかりに、バッシングされた人もいました。

『ばいばいコロナ』

コロナで子供たちが伸び伸びとできてないのが不憫だという大人たちの気持ちが生んだ本です。

『パンデミックの倫理学 緊急時対応の倫理原則と新型コロナウイルス感染症』

医療リソースが限られる中で、「命の選別はいけない」といっても現場では何の役にもたたないでしょう。WHOでパンデミック対策の倫理指針を考える部会に参加した経験を持つ哲学者が倫理的な筋道を示しています。

『ファクトで読む米中新冷戦とアフター・コロナ』

中国ウォッチャーの近藤氏がコロナ後の米中関係を占います。

『コロナ制圧 その先の盛衰』

野村総研の梅屋氏が経済社会の未来像を占います。

『日本企業の復活力 コロナショックを超えて』

著名経営学者の伊丹氏が日本企業の強みを生かした復活の道筋を描きます。

『理論疫学者・西浦博の挑戦ー新型コロナからいのちを守れ!』

パンデミック初期には西浦氏の疫学的推計によって、人出の抑制策がとられていました。その功績は大きいのではないでしょうか。

『コロナと潜水服』

コロナを題材にした文芸作品も生まれました。日本上陸から1年ですから、かなりの筆の運びですね。

『ミルクとコロナ』

コロナ禍での育児体験を往復エッセイにまとめています。

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