翔太鈴木

芸人もどき、役者くずれ、噺家的存在、小説家きどり。 小説を販売しております。 no…

翔太鈴木

芸人もどき、役者くずれ、噺家的存在、小説家きどり。 小説を販売しております。 noteでは短いお話を載せていこうと思っています。 どうぞ、よろしくお願いします。 https://syo-ta131suzuki.wixsite.com/syoutasuzuki

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  • 雑文。

    創作でない、日常の日記のような雑文。

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  • オレンジペコー。

    翔太鈴木の一作目の長編小説「オレンジペコー」の番外編の短編です。

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お弁当。

都内の少し大きな公園に、一台のワゴン車が止まった。すぐに若い女の子たちが集まる。 「お弁当ください!」 女の子たちの目的は、そこで売られるお弁当だった。車内の、二十代半ばほどの女性の店主がお弁当を売る。 「かわいい!」 お弁当を差し出すたび、女の子たちはそう言う。その笑顔はとても可愛い。 そして、女の子たちはスマホを取り出す。 友達同士で集まって写真を撮ったり、撮った写真をSNSに上げたり、自分の撮った写真を見せあったりしている。店の前は、とても盛り上がっていた。

    • ファン。

       「ふぅー」  ステージの袖で大きく息を吐く。何度経験しても、本番の前は緊張する。  ステージでは、男女混合のスリーピースバンドが演奏している。ボーカルの女性が二人の男性ミュージシャンの演奏をバックに力強く歌い上げ、会場を熱く沸かせていた。  この盛り上がりに、これから一人で出ていく自分を想像すると少し心細くなり、緊張も大きく感じる。    こういう時は、客席からは見えないように会場を覗く。自分の味方を探すのだ。 「…あ」 いつも、僕のライブに来てくれる女性を見つけ、少

      • てぬぐい。

         「ただいま」 ワンルームの部屋に帰宅する。誰もいないのはわかっているが、何も言わないのも寂しいので、「ただいま」だけは言うようにしている。  大学入学を機に田舎から出てきて、この部屋で一人暮らしを始めた。決して広い部屋ではないが、周りは静かな住宅街で落ち着くし、窓も大きく日当たりもいいので、なかなか快適に過ごしている。  その、大きな窓を開ける。朝、学校に行く前に干しておいた洗濯物が楽しそうに風に揺れていた。    脱衣カゴを持ち、一つずつ取り込んでいく。洗ったばかりの

        • まちあわせ。

           駅前にあるコンビニの軒下。出入りする人の邪魔にならないように、出入口の横に立つ。ここで毎朝、一緒に大学へ行く友人と待ち合わせる。  初夏の太陽の日差しは、朝といえどなかなかに強く、首筋を流れる汗をハンカチで拭った。  ポケットの中で、スマホが鳴る。開いてみると、友人からのメッセージが入っていた。 『すまん!五分遅れる!』 友人が遅刻してくるのは毎朝のことなので、返事も返さずにスマホをポケットに仕舞う。「五分」と言いつつ、いつも十五分以上は遅刻してくる。きっと、常人とは時間

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        お弁当。

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          なんでもレーダー。

           「よし、出来たぞ」 研究室。窓から空を眺めていると、背中からそう声が聞こえた。 「博士、完成ですか?」 この人は発明家で、自分は助手だ。自分の上司とも言うべき人だが、「鉄腕アトム」を読んで発明家になったこの人は、自分を「博士」と呼ばせる。 「おう、やっと出来たよ」 「今度は何をつくったんですか?」 「レーダーだ」 「レーダー?何を探せるんですか?」 そう聞くと、博士は自信満々な顔を向けた。 「なんでもだ」 「なんでも?」 「あぁ。どんなものでも、なんでも探せる。お前、何か探

          なんでもレーダー。

          理の夏休み。

           理の額を、汗がしたたる。尻のポケットからぶら下げたタオルを抜き出し、汗を乱暴に拭った。 「…ふぅ」 ビルの清掃のアルバイト。夏休み中のこの時期は繁忙期で、地獄のような忙しさだった。  換気のために開けている窓も部屋の片面しかなく、風通しは悪かった。そして、その窓から直射日光が容赦なく部屋に入ってくる。しかも、電気代をケチったビルのオーナーから「冷房をつけるな」とお達しがあり、まさに蒸し風呂状態だった。加えて、ホコリを吸い込まないためにマスクをしているので息苦しく、何度も気が

          理の夏休み。

          ジンの夏休み。

           夏休み。ジンが美緒と一緒にハンバーガーショップに入る。二人で宿題をするのが、ほとんど毎日の日課だった。  「今日は、私に払わせてくれる?」 美緒がそう言う。ジンは、「いや、そんな、いいよ」と遠慮した。 「ううん、ちがうの」 美緒が首を横に振る。 「おかあさんがね、『今日はご馳走しなさい』ってお金くれたんだ」 「なんでまた?」 「本当ならね、夏期講習とか行かなきゃいけない時期なのに、ジン君のおかげで行かずに済んでるから」 「そんな」とジンが笑う。 「学校入ったぐらいの時はね

          ジンの夏休み。

          宗悟の夏休み。

           夏休みの、学校のグラウンド。夏の大きな太陽が容赦なく照りつけていた。  空手部の朝練が終わった。宗悟の額を、大量の汗が流れる。水場で顔を洗い、汗でへばりついた服の気持ち悪さに耐えきれずにTシャツを脱いだ。露わになった宗悟の上半身を、突然、冷たい水が襲う。 「うわぁ!」 思わず、大きな声をあげた。 「わははははは!」 声のした方を見ると、空手部の部長が水の出ているホースを握りしめて笑っていた。 「ちょ、なにすんすか!」 「気持ちいいだろ?」 「つめてーっすよ!」 「わはははは

          宗悟の夏休み。

          雨ニモマケズ。

           とある高校の教室。朝の始業を告げるチャイムが鳴った。それと同時に、背の高い男子生徒が慌てて駆け込んできて、すでに教室に入っていた国語担当の女性教師と目が合った。 「…優太、アウトー!」 そう言って、先生は野球の審判のように親指を立てた右手を高く上げた。優太は、「ちょっと待ってください、訳があるんです!」と抗議した。 「…よし、言ってみなさい」 先生は、両手を腰において、優太の言葉を待った。 「学校へ来る途中に…東に病気の子供がいたので看病してやって、西につかれた母があったの

          雨ニモマケズ。

          めげない人。

           とある研究室。助手の男が資料室でデータをまとめていた。隣の研究室では、助手の上司とも言うべき発明家の男が研究に没頭している。 「ドカン!!」 その、隣の研究室から大きな爆発音がした。 「博士!?」 助手が、慌てて研究室に駆け込む。発明家は、助手に自分を「博士」と呼ばせていた。 「大丈夫ですか!?」 部屋には黒い煙が充満してて、博士の姿は確認できなかった。 「たすけて~」 かすかに聞こえた博士の声は、積みあがったガレキの中から聞こえていた。助手は、ガレキをどか

          めげない人。

          雨。

           雨が激しく降っていた。 駅に向かう道の途中。 公園の前で、ふと足を止めた。 公園の真ん中に、姉と弟であろう小さい兄弟がいた。 ひとつの傘を二人で分け合って、寄り添って立っていた。 弟は、姉の手をしっかりと握りしめていた。 その手はとても力強くて、何かを我慢しているように見えた。 「泣いてもいいんだよ?」 姉が弟に言った。 弟は、何も言わないまま、首を横に大きく振った。 「どうして?」 弟は、また何も言わぬまま、首を横に大きく振った。 姉は、困ったように微笑むと、空

          親子晩酌。

              「…ただいま」 夜遅くに大学から帰ってきた息子を、父親が「おう、おかえり」とビールをグラスに注ぎながら迎えた。息子は「…うん」と力なく答えた。その息子の様子に「なんだぁ、元気ねーな」と半分酔っ払って言った。息子は「…うん」と、また力なく言うと父親の対面に座った。息子のその様子を見て、「なんだ?何かあったのか?」と聞いた。 「…『優しくないね』って言われちゃってさ」 息子が、ぽつり、と言った。父親は「誰に?」と聞いたが、息子は答えなかった。父親は「…まぁ、いいけどよ」と

          親子晩酌。

          カギ。

           街の、小さなカギ屋。普段は、合鍵を作ったり、カギを失くした人からのSOSを受けて駆けつけたり、保存されていた古い金庫のカギを開けたりというような仕事を受け持っている。  ある日、そのカギ屋に一人の女性が訪れた。成人済みではあるものの、年頃の男子であるそのカギ屋は、美人の登場に楽しくなった。 「いらっしゃいませ」 そう、笑顔で出迎える。 「あの、どんなカギでも開けてもらえるんですか?」 女性がそう尋ねる。 「どんなカギでも、とはいかないですけど、出来る限り頑張ります」 そう

          傘。

           「…ふぅ」 仕事終わりの帰り道。ひとつ、息を吐く。空は曇っていて、夕焼けは見えなかった。  効率良く仕事を終わらせ、帰る。残業なんてしない。寄り道もしない。飲み会も女子会も、断り続けたら誘われなくなった。  それで良かった。無駄なことは嫌いだった。無駄を省いて効率よく動き、時間もお金も、自分自身も最大限に有効に使いたかった。  少し、早歩きで帰る。出来るだけ早い電車に乗りたい。歩きながら、頭の中でこのあとのスケジュールを確認する。家に帰って仕事の整理をしたあと、部屋を片付け

          バイプレーヤー。

          「…どうした?」 とある会社。社長が若手の社員に話しかける。社長が若手社員に気軽に話しかけられるほどの小さな会社だが、大手企業とも取引もある、外からは、「少数精鋭」と評価される会社だった。 「なんでもありません」 若手がそう答えるが、明らかに不機嫌だった。「どうしたんだよ?」と社長が笑う。若手社員が、話し出した。 「今度、プロジェクトチームに配属されたんですけど」 「あぁ、A社との合同のだろ?前からお前がやりたがってた仕事じゃんか。頑張れよ」 「そうなんですけど…」 「なん

          バイプレーヤー。

          人は鏡。

             「あー、もう最悪!」 夕方。仕事が終わり、同じ早番のシフトに入っていた先輩と同僚と三人で、少し早めの晩御飯に来ていた。二人は、いつものように仕事の愚痴を吐き出し始める。 「さんざん試着して一着も買わないってどんな神経してんの」 「あのハデな女でしょ。見た目ハデなわりにケチですよねー」 先輩の愚痴に、同僚が同意する。先輩は「ほんとだよ」と吐き出した。 「…試着して、サイズ感見て、ネットで買うんじゃないですか?」 一応、そう言ってみる。 「それにしたって、うち

          人は鏡。