ウバまおゼロ
これは、「ウーバーまおう」のオープニングより少しだけ前の話。
「第7王子 コロネ様 」
臣下が名を呼ぶ声に、コロネは重たげに頭を上げた。
謁見の間。
跪き、頭を垂れていた己の前に、いつの間にか立っている人がいる。
…ブレッドキングダム現国王。その人だ。
逆光で表情の見えないそのご尊顔を仰ぎ見ていると、誰かの叱責の声が鋭い矢のように飛んできた。
(めんど)
まこと、王族ほどめんどくさいものはない。
継承権の遠い第7王子の身分。
田舎の領地で毎日領民に混じってタピオカの原材料の芋を掘っていたコロネを、こんなところに呼び出して。
ろくな事ではないのはわかっている。
……だが、断る術を持たないことも、わかっている。
わざわざ第7王子くんだりの目の前に歩を進めた王は、もっともらしく自らコロネにこう語り始めた。
「先の『麺類戦争』にて、世界中を戦乱に陥れた悪しき戦犯たるラーメン族の王は、未だ世界を闊歩し暴虐なるラーメン族の民を野放しにしている。このままでは、第2・第3の世界戦争の危惧、そして我らが友好国パスタ族にも風評被害が及ぶだろう」
ああ、と、コロネは思う。
「コロネよ」
王は告げる。
「ブレッドキングダム第7王子コロネ、お前に特別な任を命ずる」
何故俺なのか、
それはただ、失敗して死んだとしても、代わりがいくらでもいるからに過ぎない。
代わりがきいて、そして身内が故に裏切る事のない人材。
その条件に当てはまっただけ。
「今よりお前は、世界に混乱をもたらす悪しき『魔王』を討伐する、『勇者』となるのだ!」
歓声。
臣下の。
ぼんやりとした頭で、コロネはそんな王城のひとコマを、他人事のように見渡した。
世界は、いつでも「魔王」を産む。
不都合な力あるものを「魔王」にする。
王はもっともらしく言ってはいるが。
要するに
世界を、ブレッドキングダムが握りたいだけだ。
頭を垂れ、冷めた瞳でコロネは嗤う。
そして。
「その大役、私めにお与え下さり至極恐悦にございます」
心にもない言葉が口をすべり落ちてゆく。
「必ずや、ご期待に応えると誓います……!」
少しだけ、泣きそうになった。
全部それは、片端から殺した。
国の端の領地で、芋を掘ったり
甘い物を領民と作っては楽しんでいたコロネは死んだ。
昨日まで当たり前だった日々が、遠い。
「今より、……俺は『ゆうしゃ』だ」
立ち上がりそう宣言する「ゆうしゃ」に、
臣下が再び沸いた。
満足そうに頷く王に、「ゆうしゃ」も頷く。
真に魔王も、真に勇者もありはしない。
嘘から真を創るハナシ。
政治とは、王族とは。
ファンタジーとは絵空事。
こうして世界は、
1人の「ゆうしゃ」と、1人の「まおう」を生み出したのだった。
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